URA_UNTITLED 4




「見せたいものがあるから」と、オレが真っ昼間に連れてこられたのは、新宿のメイン通りだった。土曜日と云うこともあって、ものすごい人出だ。

「大丈夫ですか?疲れてないですか?」
直江は、オレの顔色を見ては、いちいち心配そうに声をかけてくる。
「いくらオレが田舎モンだって、こんな人ごみどーってことねえよ。バカにすんな。それより見せたいものって何なんだよ?」

すると直江はにっこり笑って、交差点を渡った正面の、目の前にあるビルを指差した。
「これですよ」
「これって……」

直江に云われるまま見上げたのは、いかにもメイン通りにふさわしい、黒っぽいガラス張りの派手な14、5階建てのビルだった。
「……このビルがどうかしたのか?」
「買ったんですよ」
「はあ!?」
直江は微笑いながら「実家がですよ」と付け加えた。

どうやらバブルがはじけて、前のオーナーが手放したビルを、直江の実家の不動産屋が丸ごと買い取ったらしい。……ったく、この不景気だってのに、ビル一つ余裕で買っちまうんだから、本当こいつん家ってワルだよな。

「信じらんねー。この悪徳不動産屋!」
オレが毒づくと、直江は苦笑して、
「下の階にはテナントを入れて、上の階を東京本社として使うことになってます。まだ買ったばかりで、どの階も中は空っぽですけどね」
こともなげに話す直江に促されて、そのビルの裏口にまわった。

通用口、とでも云うドアは、そのビルの真横にあった。
直江はマスターキーだと云う、ゴツイ鍵を取り出してドアを開けると、オレを促すように中に入り、きっちりと鍵をかけた。

無人のビルに入るのは初めてだ。
「すぐ電気がつくようにしますから、ちょっと待って下さいね」

直江は通用口の真横の、本当なら警備員が常駐するんだろうと思われる、管理室のような部屋のドアを開けて、コントロールパネルのいくつかのスイッチを入れた。
すると、薄暗かった廊下に電気が入った。

「一階の全フロアと、最上階とエレベーターの電源を入れました。実は最上階だけは、わたしか兄が東京で仕事が続く場合のホテルがわりに使う予定で、すでに家具も揃ってるんです。今日はここに泊まりますから」

オレはあきれたようなため息をついた。……まったく、今更って云やー今更だけど、お前んちがつくづく、普通の家と違うってのがよっくわかったよ、金持ちめ。

すぐにエレベーターで上に行くのかと思ったら、他にも見せたいものがあると云う。
「こっちにいらして下さい」
云われるまま、一階のテナント部分に入った。

だだっぴろいフロアには家具どころか、ゴミひとつ落ちていない。
本当に何もない、ガランとした空間。
「何だよ、何もないじゃんか」
云いながら、外の様子が嫌でも目に入った。と云うより多くの視線、と云うべきだろうか。

このビルは、壁がガラス張りの上、ちょうど交差点の角に建っている為に、信号待ちの人や車が長い列をつくっているのが丸見えだ。

それに、とにかくガラス張りだから、外からは鏡のように見えるらしく、立ち止まって髪型を気にしている人も大勢いて、……それらの人々と一瞬、目があったような気がして、オレはなんだか気まずくなった。
すると直江が、
「マジックミラーですよ。外からは鏡に見えますが、こちらの様子は見えませんから、安心して下さい」
「ふーん……でも、みんな鏡だと思ってこっち見るじゃん。なんか見られてるみたいで、落ち着かねえな……で?お前が見せたいものって、何なんだよ?」

向き直ると、直江は悪戯そうな笑みを浮かべて云った。
「高耶さん、先ほどわたしが云った言葉、覚えてらっしゃいますか?」
「……え?」

こいつ、何か云ったっけか?
「……何度もお聞きしましたよね?疲れてないですか?って」
「あ?……ああ。それがどーかしたかよ?」
「今はどうですか?疲れてないですか?」
「大丈夫だって云ってるだろ。何なんだよ、いったい」

すると直江は、極上の笑みを浮かべて云った。
「それならよかった。じゃあ、大丈夫ですね。思いきり見せてあげられる」
「………はあ?」

真意がわからず、怪訝そうな顔のオレに満面の笑みを浮かべて、つかつかと歩み寄った直江は……何を思ったのか、思いきりキスしてきやがった。それも噛み付くような激しいキス。

「……ッ!」
直江の、あまりに突然の行動に(いつもだけど)オレは驚いて振り払おうとしたけど、こいつのバカ力にかなうわけもなく……口腔内を舌で思う存分蹂躙されて、ようやく解放された時は、オレは真っ赤になって食ってかかった。
……もちろん、腕と体はしっかりと掴まれたまま。

「……っかやろ!いきなり何すんだよ!」
すると直江はごく間近で、悪戯っぽく笑った。
「見せたいものがあると云ったでしょう?……でも俺は、あなたに見せたいものがある、とは云ってませんよ?俺が見せたいと云ったのは……外にいる人達に、……あなたをですよ、高耶さん」

「直江……ッ!?」
信じられない言葉に、思わず目を見開いたオレは、強い力で後ろ向きにされて、思いきりガラスに押し付けられた。
「……ッ!!」

ガラス一枚隔てて、すぐ目の前に髪型を気にする少女の顔があった。その目が決してオレを見てるわけじゃないとわかっていても……
「……やめ……!離せ、直江!!」
オレはいたたまれない気分になり、思わずぎゅっと目を瞑って、何とかして直江の腕から逃れようとした。

すると直江は背後からオレに覆い被さり、体重をかけてオレの動きを奪うと、腕をまわして、ジーンズの上からオレの前をグッと掴んだ。
「──ッ!」
一瞬、動けなくなったところを、すかさず布地の上からまさぐられ、その上、シャツの裾から差し込まれたもう片方の手で、胸の突起を執拗に弄られる。
涙に霞む目の前には、無数の視線……。

直江は熱い声で囁いた。
「ずっと……こうしてあなたを大勢の人間に見せつけてやりたかった。俺を奥まで銜えこんで、俺の腕の中で喘ぐ、最高に綺麗なあなたをね……」

そう云いながら、オレの後ろに、自分の昂ったモノをジーンズの上からグッと押し付けて……いつも直江を受け入れさせられているその部分に、リアルな直江の形を感じて、オレは真っ赤になってもがいた。

信じられんねー!最初からこんなことするつもりで、オレをここに連れてきたのかよ……!
思わず泣きそうになったけど、こうしてる間も直江の指は、オレの前を、胸を蹂躙し続け……ここまで許してしまったら、もうオレに逃れる術はなかった。

「……っかやろ、離せっ、こんなのやだって、直……!」
オレの抵抗を難なく封じながら、直江の指が起用に動き、あっという間にジーンズのジッパーを下ろされる。そして当然の権利だとでも云うように、その指が下着の中に差し込まれると、冷たい指にじかに握られて、一瞬、息が止まりそうになった。

「やっ……!」
「……どうですか?大勢の視線に曝されながら、これから抱かれるんですよ。今の気分は?」
「いた…い、掴む、な……ッ」
「……見られるのはどんな気持ち……?あなたはとっても淫乱ですから、きっといつもより感じるでしょうね。ほら、あなたのぼうやは、もうこんなになってますよ?」
「……ッかやろ──離せって……!」

意地の悪い直江は、すっかり形を変えてしまったオレのモノを下着の間から引きずり出すと、嫌がるオレの片手を無理矢理そこに持って行かせて、確かめさせた。
「………ッ、」
確かに直江の云う通りで……こんな状況なのに、反応してしまう自分が、みじめで情けなくて……涙が溢れた。

「さあ、高耶さん、今からもっと綺麗なあなたを、みんなに見せてあげましょうね」
「やだ……やめろって、直ッ……!」
直江は体重をかけてオレの上半身を思いきりガラスに押し付け、オレが抵抗できないようにオレのモノをしっかり握りながら、もう片方の手で、背後から器用に下着ごとジーンズを引きずり下した。

前を掴まれている為に、どうしても腰が引けてしまい、結果的に直江に向かって腰を差し出す格好になってしまう。
シャツも殆どはだけられて、全裸に近い状態でガラスに押し付けられている自分……
そんなオレを、ガラス越しに見ているかのような、いくつもの視線……。

耐えられず、オレはきつく目を閉じた。




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