「song of takaya」





prologue

―――その日、堕ちてきた「異形の子供」を、とある大学教授が保護し、研究室に匿った。

「子供」は驚くほど高い知能を持っており、数日後には、この国の言語やパソコンを覚え、まだ言葉は喋れなくともキーボードの入力機能を使って、教授と意思の疎通ができるまでになった。

「子供」の認識は、人に例えるならば「男性」であり、十四、五歳の「少年」だった。

当初は警戒するそぶりを見せていた「彼」も、教授が時間をかけて対話を重ねるうちに、次第に心を開くようになり、いつしか「彼」は、この世界で生きる術を教えてくれる教授のことを「「父上」と呼び、慕うようになっていた。

本心では、研究者である教授にとって「彼」は、貴重な「被験体」でしかなかったかもしれない―――それでも他に頼れる人間がいない「彼」にとって、教授は「親」同然であり、かけがえのない存在だった。



その教授が、失踪した。
主を失った研究室は閉鎖され、「住処」を追われた「彼」は人目を逃れるように、研究室に隣接する大学病院に逃れるように移り住んだ。

幸い、大学病院は、彼が生きる為に必要な「廃棄用血液」が容易に入手できたし、周囲を深い森に囲まれた環境も、「彼」が身を隠して生きるのに適した場所だった。

元の世界に戻る術も見つからず、孤独な時を過ごすうちに、「彼」は重傷を負って担ぎ込まれた一人の患者に興味を持った。
大学には様々な症状の患者がいるが、これほどまでに絶望しきった「ひと」の眼を見たのは、はじめてだった。


―――あの男が抱えている絶望とは、なんなのだろう。

「彼」は、その胸中を、知りたいと思った。
自分自身気づかぬうちに、「彼」は、男の中に、自分と同じ孤独を見たのかもしれない。

姿を見られるわけにはいかない。
でも、男や他の患者が眠っている深夜なら―――男の傍に行けるかもしれない。

「父」以外の「人間」が、自分を見ればどんな反応を示すか、「彼」は十分理解していたが、それでも、自分の中に湧き上がる、男への思いを抑えきれなくなっていた。

まもなく男は、それまで収容されていた脳外科病棟から、別棟にある療養病棟の個室へ移されることになった。

医師や看護師が頻繁に出入りする脳外科病棟とは違い、療養病棟は、見回りの時間を外しさえすれば、人目を盗んで忍び込むことはたやすい―――

そして、その夜、二人は出会う―――