■10053 京野様 リク:和服高耶さん



HIDOI-0



by SHIINA



「シャワーを浴びたらこれを着ておいで」

男から手渡されたのは、女物の深紅の着物だった。
高耶は一瞬、カッと赤くなり、縋るような目で男を見たが、無論、それで許される筈もない。高耶には、この男に逆らうという選択肢はなかった。

妹を守る為、自ら望んだ「絶対服従」という名の枷。

高耶はそれを黙って受け取り、云われた通りシャワーを浴びると、観念したように袖を通した。

高耶の父親の経営する会社が、多額の負債を抱えて倒産したのは、二ヶ月前のこと。これがきっかけで、それまでごく普通の高校生だった高耶の生活は一変した。

どんなに働いても、一生返せないほどの借金を追うことになった仰木家に、債権者の大手である橘物産を経営する直江家が、声をかけてきた。すべてを肩代わりするかわりに、お宅の息子さんを……「ほしい」と。

無論、父親は真意のわからぬ直江家のこの申し出を断わったが、咄嗟に高耶は行く、と答えていた。まだ中学生の妹の生活を守るために。

バスルームの鏡に映る自分から目を背け、屈辱的なその姿で、高耶はおずおずと、男の待つベッドルームに入って行った。

高耶を買い取った男──直江信綱は、ソファに座り、パーラメントの紫煙をくゆらせながら、羞恥に頬を染め、所在なさげに立ち尽くす高耶を満足そうに見つめている。

「……淫乱なあなたにはきっと似合うだろうと思っていましたが、すごいですね。天性の、娼婦のようだ……素敵ですよ、高耶さん。さあ、……此処にいらっしゃい」
高耶は俯いたまま、黙ってその言葉に従った。

この家にやって来た日の夜、高耶はこの男に、この寝室で無理矢理体を奪われた。以来、昼となく夜となく抱かれている。

初めて男を受け入れさせられた時、高耶の蕾は引き裂かれ、鮮血を流し、文字通り体を真二つに裂かれるような激痛に失神寸前だった。男に抱かれるという恐怖と嫌悪に、パニック状態の高耶には快感など何もなかった。

なのに……二度、三度と抱かれていくうちに、高耶の体は徐々に受け入れる快楽を憶えさせられていった。自慰などとは比べものにならない、男によってもたらされる、狂うほどの快楽を。

楔を奥まで打ち込まれて喘ぐ度に、男が嘲笑った。
「あなたほどの淫乱は、見たことがない」と。

……ナイトテーブルの上に、用意されたグラス。その中には、何かの酒と思しき液体が入っている。直江はそのグラスを手に取ると、高耶にすべて飲むように命じた。

高耶は不安そうな表情をしながらも、そのグラスを受け取った。薄紅の、甘い香りのする液体……ワインではなさそうだが……躊躇っていると、男が苦笑して、
「どうしたんですか?まさか毒入りじゃないから、安心して。ただのお酒ですよ、高耶さん。さあ、飲んで……」

優しいが、直江の言葉は絶対だ。高耶は諦めて、それを一口、口に含んだ。
「………」
まるでジュースのように甘いそれは、口当たりがよかった。男は微笑しながら、その様子をじっと見つめている。シャワーの後で喉が乾いていたこともあり、高耶は云われるまま、その液体を飲み干した。

……いきなり、天井がまわった気がして、高耶は持っていたグラスを落としそうになった。
「……あ……、何……」
崩れそうになる体を、男の腕がしっかりと支えた。自分の身に何が起きたのかわからず、戸惑う高耶に、直江は苦笑しながら、
「すみません……ちょっと量が多すぎたかもしれませんね。催淫剤入りの酒……まさかこんなに効果があると思いませんでしたよ……大丈夫ですか?」
「………、」

高耶は言葉もない。支えられていなければ、直ぐにもその場に崩れてしまいそうだ。体が内側から燃えるように熱くなって、口をつぐんでいないと、とんでもないことを口走ってしまいそうで恐ろしい。高耶は自分の体を抱くようにして、必死に襲ってくる波に耐えようとした。

そんな高耶の様子を見ていた直江はにっこりと微笑むと、
「ねえ、高耶さん……今日は、鬼ごっこして遊びませんか?」
「……な、に……?」
わけがわからず震える高耶に、男はどこから取り出したのか、小型のビデオカメラを翳して、意地の悪い笑を浮かべながら、
「あなたが逃げ切れたら……今日は、うんと優しくしてあげる。あなたは何もしないで、ただ横になっていればいい……酷いことは何もしないで、うんとヨクしてあげますよ。……でも逃げ切れなかったら……その時は、お仕置きです。……どうですか?たまにはこんなのも楽しいでしょう?」

直江に耳元でそう囁かれて、高耶は真赤になったまま、子供のように嫌々をした。薬のまわった体は力が入らず、こんな状態で、しかも慣れない着物姿で逃げられる筈がない。男はわかって云っているのだ。

高耶は首を振って、何とか許しを乞うが……男の答えは変わることはなかった。
「約束でしょう?俺の云うことは何でも聞くって……それとも、最初から酷くされたいですか?まあ、それならそれで構いませんが……」

高耶は泣きながら首を振る。
「じゃあ、大丈夫ですね?さあ、立って……わかっていますね。あなたが負けたら、お仕置きですよ……」

薄暗い寝室のドアを開け、高耶はもつれる足で廊下に出た。ガクガクと震える体は、今にもその場に倒れ込んでしまいそうだ。

直江はその後をじわじわと、ビデオカメラを構えて追う。逃げる高耶を言葉で嬲りながら……
「どうしたんですか?もう降参?いくら何でもまだ始まったばかりじゃないですか……もう少しがんばって下さらないと……ほら、立って……それとも直ぐにお仕置きして欲しい?」
「……ヒ、ック……、」

高耶は子供のように泣きながら首を振ると、ふらつく体を何とか引きずるように、壁を伝って逃げ続けた。
キッチンから、ダイニング、ダイニングからリビングへ……

何度か、足がもつれて倒れ込み、その度に慣れない着物がはだけて、ぐずぐずになってしまった。露になる細い肩……昨夜の情交の痕が残る首筋……乱れた裾から覗く白い脚。
男は残酷な程の昂ぶりに、身を震わせた。

リビングを抜け、奥の和室へと続く廊下の途中で、高耶はとうとう力尽き、倒れ込んでしまった。這うようにして、何とか逃げ続けようとするが……もう、これ以上は限界だった。

大きく肩で息をしながら、高耶は涙の滲んだ目で直江を見上げた。
直江はすぐ近くでビデオカメラを構えながら、覗き込んでいる。ファインダーの奥の鳶色の瞳が、情慾に揺らめいている……もうそれ以上、一歩も動けないのを知りながら、なおも男は高耶を言葉で嬲った。

「どうしました、高耶さん」
高耶は子供のようにしゃくりあげながら、
「なお…え、……も、これ以上……動けな……」
ぼろぼろと涙を流しながら訴える高耶に向かって、直江は尚も残酷にビデオカメラを構えながら云った。
「……降参、ですか?」
「うっ……、」
「負けを、認めますね?」
観念したように微かに頷き、高耶は顔を覆った。
「高耶さん……、」
直江の指がそっと俯いた顔を上げさせた。
「………ッ!」
直江に触れられただけで、高耶の体にはまるで電気のような痺れが走った。もう、限界だった。凄まじい程の飢えが、高耶の全身を嵐のように駆け回っていた。

何でもいいから、一刻も早く滅茶苦茶にして欲しい。そうされなければ狂ってしまうと思った。高耶は自分のタガが外れるのを感じ……ついにその口から、堪えきれない哀願が洩れた。
「直江ッ……オレ……変、だっ……」
すでにロレツがまわらなくなっている。体中が火のように熱く、震えが止まらない。
「あつい……っ、なおっ、……っ、……狂、う……ゃく、早くっ……!」
「高耶さ……」

催淫酒の効果とは云え、深紅の着物姿で悩ましげに見悶える高耶はあまりにも淫らで、男はゴクリと唾を飲んだ。わざと触れてやらずに、口元だけを震える耳元に寄せて囁く。
「高耶さん……俺に、どうして欲しい……?」
高耶はもつれる舌で、哀願する。
「う……はや・く……っ……」
「早く、何……?」
一瞬、涙の滲む目が恨めしそうに直江を見た。わかっているくせに……どうしても高耶の口からそれを云わせたいのだ。

だが、すでにタガの外れてしまっている高耶は、普段なら口が裂けても云わないであろうそれを、云ってしまった。
「……、し、して、くれ、よ……」
「何を……?」
「SEX……!」
高耶は泣きじゃくりながら、自棄になって、叫ぶように云った。
「お前ので、早くゥ……も、駄目だ、直江ぇ……何しても、い……何でも、する、……云うこと、きくから……ゃく……お前の、挿れてくれよぉ……」

そう云って、子供のように縋ってくる高耶……高耶にこんな風にされて、冷静でいられるわけがない。直江としてもこれ以上は限界だった。

「あげますよ、直ぐに。あなたのいちばん欲しいものを」




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