ダブル・フェイク 7
BY k−330さま
病室に辿り着いた兵頭は、病室の前で護衛に当たっていた者たちに、他の者たちと一緒に病棟入り口の守りを固めるよう指示した。
「兵頭!」
宿舎付近の基石柱にトラップを仕掛ける準備をしていたはずの堂森が姿を見せた。
当座の任務を放り出して、兵頭と同じく直感でこちらに向かって来たらしかった。
「ヤツが、来るぞ」「わかってる」
兵頭は急いで息を整え。ドアは開けぬまま、唇を鉄の扉の隙間に押しつけ、中に向かって叫んだ。
「仰木隊長、奴が来ます! 支部周辺の結界は破られました。ここが、最後の砦です。私と堂森でこの部屋全体に結界を張り巡らせます。中からもご自分で結界を張ってください!」
扉から離れて、堂森に目配せをする。
阿吽の呼吸で二人の力が高まり、地力と結びつく。
扉の内側を、誰かが叩く。
“やめろ”、“もう逃げろ”と、言っているようだ。
しかし。二人とも聞こえない振りをする。
バチッ――
火花が散るような音が鳴り、結界が閉じられた。
兵頭と堂森は地力結界の礎となった。これで、本人たちの意志以外では結界は開かない。二人が瀕死の重症でも負わない限り、結界は破られない。
カツン…
シン−と静まりかえった廊下に、重い足音が響いた。兵頭と堂森は、互いの目を見合わせた。
誰かが、来る。
誰も通すな――と厳命していた入り口を突破してきた者の存在に、二人は神経を高ぶらせた。
「堂森、兵頭…!」
固い足音を立てて長い廊下の向こうから現れたのは、片腕に愛用のライフル銃を携えた染地だった。
「染地さん、あんたか…っ」
見慣れた大柄な躰と柔和な顔。堂森は安堵のため息を漏らした。
結界保持の礎は、多いほど強くなる。ましてや染地の力は外側よりも内側に作用する種類のものだ。
「仰木隊長は、中か?」
「ああ。今、結界を張ったところだ」
「そうか。私も手伝おう」
淡々とした声に、微かな違和感。
染地の顔に当てられていた兵頭の目が細められた。
何の疑いもなく結界の一部を開こうとした堂森を、兵頭は無言で制した。
「兵頭?」
堂森は片手で自分の躰を止めた兵頭の顔を訝しげに振り返る。
兵頭はきつい目で染地を睨みつける。
「…管制室はどうなってる? 支部長の元まで案内したはずの吉村は、今どこにいるんだ?」
染地は、ふっと笑い、
「吉村なら、自分の部下と一緒に管制室を占拠しているよ。暫くの間、この騒ぎが外に漏れるのを防いぐ為にね」
染地のライフルが火を吹いた。
警戒心の無かった分、堂森は反応が遅れた。気の盾が間に合わなかった。
「ぐぁ…は…ッ!」
「堂森!!」
血を吐いて倒れ堕ちる堂森。
「染地ィ!」
兵頭は叫び。懐から拳銃を取り出した。
至近距離なら、ライフルより拳銃のほうが有利だ。
兵頭の撃った弾は、染地のライフルを持つ腕と肩を貫通した。
叫び声も上げず、染地は崩折れるように倒れた。
兵頭は、傍らの堂森の躰を揺さぶった。
「堂森っ! おいっ、しっかりしろ!」
しかし、先に意識を取り戻したのは染地のほうだった。兵頭は片目を鋭く細め、起き上がる染地の額に銃口を向けた。しかし、
「兵、頭…? どうしんだ、俺は…いったい…?」
利き腕が、千切られるように、痛い。
どくどくと流れる己の血を…血塗れの腕を、染地は呆然と見る。
その表情からは、ついさっきまであった違和感が洗い流されたように払拭されている。
「染地さん…、」
兵頭は、詰めていた息を吐いた。
「堂森…っ、まさか、俺が撃ったのか?」
どうやらどこかで色情鬼の暗示を受けていたらしい。自分が今まで何をしていたのか、うっすらとではあるが記憶に残っている。
――欲望に突け込まれ、操られた。
染地は、自分の失態に歯ぎしりした。
「すまん、兵頭。…堂森は、大丈夫か?」
「幸い、即死は免れたようだ。直ぐに治療できれば助かるだろう」
しかし、医者のところまで連れていくだけの時間は残されていない。
兵頭は染地に瀕死の堂森に代わって結界の礎となるよう指示した。しかし、さすがの染地も腕に怪我を負った状態では、兵頭のように結界を保持しつつ戦うことは出来ない。
染地は意識の無い堂森の躰を結界の中に引き入れ、やむおえず兵頭だけを結界外に残して結界を閉じた。
そして。
息つく間もなく、ソレはやってきた。闇の王のような、魔ノ者。
今までに遭遇したことの無い、恐怖。畏怖。
――俺は…こんなに、弱かった…か?
崩れ落ちる己の躰を意識しながら、兵頭は思った。
こんなに…あっけなく……無念は、声にならなかった。
『ここを開けて、高耶さん』
誘い込む、甘い声。
ゾクリ――と、高耶の背に悪寒が走った。
足元で、小太郎が低く唸る。分厚いドアの直ぐ向こう側に…あの男が、いる。
『ここを開けてください。でないと、皆死んでしまうことになりますよ。いいんですか?』
凶悪な、囁き。
ドアの隙間から、こちら側に染み出てくる赤黒い血。
高耶はギクリと顔を強ばらせ、反射的にベットから立ち上がった。
『彼らはまだ、生きてますよ? とどめを…さしてほしいんですか?』
――今なら、まだ間に合う。今、この扉を開ければ。
『彼らを犠牲にしても、あなたは逃げ切れませんよ。ミイラのように干からびて死ぬのが、あなたの望みなんですか? それとも力ずくで…押し入られたい?』
グキリ−と、鈍い音がした。間髪を入れず、断末魔の悲鳴が上がる。
――ヤメロ…ッ
『人間の躰は、意外と柔なものなんですよ。ほら、私の指が頭に食い込む…。このままだと、へしゃげてしまいますよ。熟れすぎたトマトのように。血塗れで…本当にトマトのようですよ』
男は、さも可笑しそうに、喉の奥で笑う。
――ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ…ォッ!
躰中の血が、怒りに沸騰する。ガンガンと、頭が早鐘のように鳴る。
高耶はそれでも、必死に自分を律した。今自分がこの扉を開ければ、全てが終わる。自分の為に流された血が、全て無駄に終わる。
だが…、
『潰れたトマトを…見たい? 高耶さん』
――もうっ、もう、いいっ
高耶は吠えるように叫び、力を開放した。
薄いガラスが割れるように、結界が、崩れる。
「ああ、やっと開いた」
結界の向こうから現れた男は、何の感慨もなくそう言った。
(あ…、ああ…っ)
高耶は、硬直した。――コノ男ハ、誰ダ…?
まるで、違う。以前会ったときとは、まるで違う。
身に纏う妖力も、威圧感も、存在感も……
何もかも、違う!外側に開かれた鉄の扉の向こう、闇の気配を漂わせた男が、笑う。
右手の先には兵頭の躰がぶら下がっている。
それを男は、まるで犬や猫の子でも放るように、床に投げ捨てた。
「高耶さん…、」
血塗られた腕が、犠牲者の血に染まった腕が、伸ばされる。
高耶は、動けない。
高耶を支配するのは、恐怖と怯え。ただ、両目を見開いて男を凝視する。
男の手が触れる刹那、
「――っ!」
黒い塊が、その腕を襲った。
小太郎だった。
豹の牙が、男の左腕に深く食い込む。
振り解こうと腕を振り回しても離さないそれを、男は忌ま忌ましげに見下ろした。
今まで無傷だった自分に初めて傷を負わせた存在。
「…あの時、きっちり息の根を止めておくべきだったな」
冷淡に呟き。小太郎の首を片手で締め上げた。
泡を吹き、力を失ったそれを壁に叩き付ける。
「こたろう…!」
高耶は、初めて悲鳴を上げた。
躰の、硬直が解ける。
(ヒ…っ)
近づく男に恐怖して、高耶は逃げた。
開いたままのドア目掛けて、走る。逃げられる−と思った。
しかし。そこには目に見えない壁が存在した。
「ッア!」
壁に弾かれ、床に無様に転がった。
そこにある壁が信じられず、高耶は中空のそれを、何度も殴った。
これは結界。自分が張ったものとはまったく別の力で作られた――
「そ、そんな…っ」
見えないそれに張り付き。高耶は叫び、質量の無いそれを両腕を振り上げて叩き続ける。
頼みの綱の力は…発現されない。完全に閉じられてしまった空間。
(うそ…っ、嘘だろうっ!)
「高耶さん、」
自分の直ぐ後ろで聞こえた声に高耶は竦み上がった。
「何をしても、無駄だと…言ったでしょう?」
「ひっ、」
いきなり後ろから抱きかかえられ、ドアの前から引き摺り離される。
「い…、いや…やめろ! 離し…っ」
抱きかかえられたまま引き摺られ、無理矢理ベットの上にうつ伏せに押さえつけられた。
直江は高耶の両腕を背中で拘束し、その背に覆い被さる。露になった首筋に、長い舌を這わされる。
「…ッヒ…、」
抵抗したいのに、ろくに抵抗できない。この男の前では自分は無力な存在に成り下がる。高耶は、自分の無様さが信じられなかった。
(…どう…して…っ!)
「…や、いや…だ、触るなぁっ!」
身動き取れなくされて恐怖に震える獲物の首筋を、直江は丹念に舐め上げる。
「恐がらないで、高耶さん。これは、あなたが私のものになる、大切な儀式なんですから」
うつ伏せになった高耶の顎をきつく握り締め、無理矢理自分の方に顔を捩らせる。
「っ――ぅんっ」
後ろ手に拘束されたままの辛い体位で、唇を塞がれた。
絡まされる舌に、時折触れた尖ったモノ。離された唇から覗く、二本の鋭い牙。
(吸血…鬼…)
呆然と、高耶は呟いた。
目の前の魔物の、本当の正体に初めて気付かされて、高耶は驚愕した。
叶う…はずが、ない。コレは…この男は、不老不死の化物――
呆然自失に陥った高耶の首筋に、尖った牙が当てられた。ビクリ−と高耶の躰が跳ねる。
頭と肩を押さえつけられ、逃げを封じられる。
「っ――あああ!」
遂に。張りつめた肌に牙が刺し込まれた。喰われる恐怖に、高耶が叫ぶ。
「…っ…、ああ…ぁ…っ」
無理矢理吸い上げられる、体液。
振り払おうと頭を捩らせるも抵抗は空しく、次第に自ら動く力は失われていった。直江は、満足するまで高耶の体液を啜り続けた。
そして漸く刺し込んだ牙を抜いた時には。高耶の躰は大量の血を失って極端に青く、冷たくなっていた。
――危うく、失血死させるところだった。
想像以上に甘く濃厚な、極上の体液。夢中になって、加減を忘れるところだった。
直江は失笑した。
――下半身から溢れる体液も、こんなふうに甘いのだろうか。
直江の表情が淫猥に揺らめいた。
腕を掴み、ぐったりとした高耶の躰を仰向けに返す。
下半身を覆う衣類を全て引き剥ぎ、露になった恥ずかしい場所に長い指を絡めた。
慣れた仕種で弄び、朦朧とした状態の高耶の息が忙しなく早くなっていく様を傲慢な笑みで見下ろす。
「…ぁ……アアッ、や…っやめ…ろっ…」
無理矢理高められる、淫欲。
それを拒絶したくて高耶は、欲情を煽る男の腕を引き剥がそうと足掻いた。
「気持ちイイんでしょう、高耶さん」
直江は高耶の無駄に足掻く様を冷笑し、それを上下に擦る動きを一層早く強くした。
湿った音を立て、陵辱者の腕を汚す白い体液。先端から溢れるそれを直江の細長い舌が丹念に舐め取る。
「ひ…っ…や…やぁっっ!」
根元を捕まれてのその行為に高耶はたまらず悲鳴を上げた。憎むべき敵である存在にいいように弄ばれ劣情を操られる屈辱に高耶の表情は歪む。
「ああ、その表情だ。その表情が、見たかったんですよ、私は」
直江は、ククッ−と満足げに笑った。
「ご褒美に、この坊やを昇天させてあげますよ」
「アッ…アアア――ッ!」
男の手に捕らえられたモノが、ものすごい勢いで擦られる。固く凝ったソレは、文字通り欲望の塊となって高耶を責める。
もう…イクっ――そう思った。
しかし。不意にそれは塞き止められた。
男は、顔を上げて扉の方向を見やった。
「せっかくイイところだったのに…邪魔が入ってしまいましたね」
開け放たれた鉄の扉の向こうに、潮がいた。
その半身を己の流した血で赤く染め。ふらつく躰を必死の思いで−気力だけで支えて、ここまで辿り着いたのだろう。
「…仰木…離せっ、その…汚い手、離しやがれ…っ!」
搾り出すような声で、恫喝した。
いうことを聞かない左足を引き摺って、潮は近づいて行こう…とした。しかし、見えない壁に阻まれて、どうしてもそれ以上近づくことが出来なかった。
「なんで…だっ、畜生っ…!」
手を伸ばせば届く距離に高耶がいる。自分にとって何よりも大切な、失いたくない人間がすぐ目の前で魔ノ者の餌食にされようとしているというのに、助けにいくことが出来ない――。そのジレンマに潮は、目に涙さえ浮かべて叫んだ。
「ここを…開けろっ、…開けろぉっ!」
血塗れた指が、結界の壁を空しく滑る。
それを、憎しみの対象である陵辱者は酷薄な目で眺め、冷たく笑った。
「あなたはもう、私のものになったのだということをあの男に思い知らせてやりましょうね、高耶さん」
直江は噴き出すように沸き上がってきた支配欲と淫欲に、自身を高ぶらせていた。
たった今まで夢中になって弄んでいたモノをあっさり放りだし、力なく投げ出されていた両足を両脇に抱えて持ち上げた。
弄ばれぐちゅぐちゅに濡れたモノの奥に指を這わし、狭い器官の入り口に己の固く長く大きなモノの先端を押し当てる。
ビクリ−と、伸し掛かられた躰が竦む。
自分の身にいったい何が起こるのか高耶がはっきりと認識する前に、直江のソレは高耶を犯していた。
「…っ――ひ…ああああぁ――――っっ!」
金切り声を上げて仰け反る、細身のしなやかな躰。
無意識に退けようと、両腕が直江の肩を押し返す。
しかし、直江の重厚な躰はまったく動じず。手加減無しに、これ以上入らないという処まで己の凶器を突き入れた。そして躊躇もなく抽送の律動が開始される。
「ッアア−、ヒィ――ィ! やっ…ひいぃ――ッ!」
哀れみのない行為に、高耶は泣き叫ぶ。
男は、掠れた悲鳴を上げる高耶に一片の哀れみも見せず腰を突き入れ、一度は開放した首筋の二つの穴に再び牙を突き立て刺し犯した。
「おお…ぎ…っ」
透明な壁に阻まれて、救いの手を差し伸べることも出来ず、潮が呻く。
男は酷薄に笑い、高耶が無理矢理犯され貶められる行為を見せつける。
穿つ角度に腰を固定し、無防備なソコを無惨に犯す。
悲鳴と共に無理矢理受け入れさせられた場所からは真紅の体液が伝い落ちる。
(喰われる…喰われてしまう……)
高耶の屈辱と恐怖に染まった思考の中には、そんな言葉が渦巻く。
自分の意志や力では、男の凶行を止めることは出来ない。足を限界まで開かされ、躰を激痛と共に揺さぶられ。自分がボロボロに壊される。プライドなんて、もうどこ
にもない。
「イ…ヤだッ――やめて…ヤメ…てくれ――たのむ−…からっ…」
躰が引き裂かれる激痛を避けようと捻られる躰。
耐えられず、無意識にか漏された懇願の言葉に、直江は口の端を嘲笑の形に引き上げた。
「…聖職者のあなたが、魔ノ者の俺に哀願するの? こんな淫らな格好で…こんなふうに太いモノで犯されて、欲望を捩じ込まれて――」
深く残酷に突き上げて突き落として、嘲笑する。
そして男は一旦、高耶の体液に濡れそぼったモノを引き抜き、ぐったりと力のない身体をうつ伏せにした。
獣同士の性交のように後ろから犯し、汗まみれの胸を背後からきつく抱きこんだ。
「ひっ…ぅ…、ぅ…」
首の急所を牙で穿たれて、上半身は身動きできない。その状態で下肢を開かされ、腰の最奥まで深く犯される。
高耶は、突き入れられる異常に太く固く長い凶器からもたらされる激痛から逃れることも出来ず腰を揺さぶられ、哀れに啜り泣いた。
それを男は、心地よい音楽でも聞くかのようにうっとりと聞き惚れる。
冷酷な支配者の顔で、完全に自分のものになった獲物を見下ろす。
「――魔物に犯されたあなたに、聖職者の資格はない。もう誰もあなたを崇めない。堕天したあなたには誰も見向きもしない。高耶さん、あなたは俺に内臓まで犯されて、俺に貪り喰われる生餌に成り下がったんですよ」
高耶は、耳元に吹き込まれる陵辱の言葉さえ否定することさえできず。今自分を支配する無慈悲な暴君が満足し許されるまでただひたすら拷問のような仕打ちを受け止め続けた。
もう、悲鳴も嗚咽も聞こえない…
潮は霞む目で、閉ざされた扉を見上げた。
魔ノ者に支配され陵辱される高耶を目の当りにしながら救い出すことの出来ない自分の無力さに…不甲斐なさに、潮は啜り泣いた。
カチャリ−と。何時の間にか閉ざされていた鉄の扉が不意に開けられた。
病室から、魔ノ者が姿を現す。
その腕の中には、陵辱された高耶の躰があった。
目を見開いて涙を流し、下肢からも唇からも赤い血を流し、死んだようにピクリとも動かない、力を失った躰。
(仰…木…ッ!)
魔物に対する憎悪に、潮の血は沸騰する。しかし、力を使い果たした潮にはそれをただ見上げることしか出来なかった。
(ちくしょう、ちくしょう――!)
奥歯を噛み締め、冷たく固い床の上に爪を立てる。
立ち上がろうと無駄に足掻く潮を、男は冷やかに見下ろした。
「――竜王宗主に伝えろ。貴殿の弟は、私が貰い受けた…とね」
言葉にされた事実に硬直した潮を置き去りに、踵を返した。
進み出そうとしたその時、直江の左足を何者かが掴んだ。
「…隊…長……、開放…しろ…っ」
兵頭、だった。
片目は頭から流れてきた血がこびり付き固まり、開けることが出来なくなっている。
「…しぶといな」
直江は一言、吐き捨て。
力で持って兵頭の手を引き剥ぎ、壁に弾き飛ばした。
衝撃に呻いたきり、もう兵頭も立ち上がれない。徐々に遠ざかっていく男の足音だけが、倒れ伏し意識を無くしかけた彼らの耳に絶望的に響いた。
END