yorurati 2005 番外
拉致二週間


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黒417




男が高耶を攫い、閉じ込めたあの日から、二週間が過ぎようとしていた。



この日も、長兄との打ち合わせで東京に来ていた男は、きつく着込んだスーツの下、左手首に嵌められたロレックスにちらりと目をやった。
時刻は午後四時を少しまわったところだった。この時間なら、予定よりも早く帰れそうだ。
(高耶さん……)
男の顔に、自然と笑が浮かぶ。



新幹線の改札へと急ぐ男の足が、ふと止まった。
駅構内のコンコースに立てかけられた看板に、思いがけず高耶の顔を見たからだ。
『仰木高耶君を探しています』
看板の写真の脇には、大きな文字でそう書かれていた。そしてその傍らで、支援者と思われる男女数人に囲まれ、チラシの束を手に立っている一人の少女。
高耶の妹が兄を探していることは、連日の報道で知っていたが、まさかこんなところで本人に会えるとは思わなかった。

中学校と思われる制服姿の少女は、思い詰めたような表情をしていたが、気丈にも泣いてはいなかった。高耶への、常軌を逸した執愛で、すでにその精神に異常をきたしている男には、自分がその手で彼女から家族(兄)を奪ったのだと云う自覚がない。
むしろ、必死に泣くのを堪えるその顔が、やはり何処となくあのひとに似ていると、その表情には笑すら浮かんだ。



無情に通りすぎていく人々に、一生懸命声をかけ、手にしたチラシを手渡す少女に、男はゆっくりと近づいていく。
「お願いします」
目の前にいるこの男が、兄を攫い、閉じ込めている張本人とも知らず、少女は男に向って頭を下げ、チラシを差し出してきた。
初めて間近で見るその顔には、やはり何処となく愛しいひとの面影があった。

力づけるように優しく微笑みながら、男は少女に心の中で話しかける。
(お兄さんのことは心配いりませんよ。今日も淋しくないように、大好きなオモチャをあげてきましたからね)
そして手渡されたチラシの中で、はにかむように微笑っている高耶に、サングラスの奥で、男は思わず目を細めた。
(高耶さん……)
もはや男の関心は、目の前にいる哀れな少女ではなく、あの部屋でたった一人で自分の帰りを待っている、最愛のひとへと移っている。

顔を上げ、再び改札へと急ぎながら、男は思った。
高耶さん、今、帰りますよ。
待っていて下さいね。




+++




暗く閉ざされた密室。部屋の隅に無造作に積み上げられたモニターが、男を受け入れて喘ぐ高耶のあられもない映像をエンドレスで映し出している。
首輪で繋がれ、皮製の腕枷で後ろ手に自由を奪われている高耶は、黒いラバーマットの敷かれた床になす術なく転がされ、体内で蠢く玩具の刺激に切なく喘いでいた。

この日の朝、いつものように、いとしい体に欲望をたっぷりと注ぎ込んだ男は、まだ力の入らない高耶の自由をやすやすと奪い、行為直後のヒクつく蕾に、前立腺を刺激する電動の玩具を押し込み、ハーネスで固定すると、にっこりと微笑んだ。

「仕事で東京に行って来ます。夜には戻りますから」
そう云って、いつも一人で留守番をさせる時はそうしているように、手馴れた様子で口枷を噛ませ、若い鈴口にビニールバッグに繋がった細いチューブを差し入れた。

長時間、体の自由を奪うのは、かわいそうだとは思うが、まだ高耶の精神状態が不安定で、いつ激情にかられて自分を傷つけるかわからない為、仕方のない処置だと思っている。
ペニスへの挿管も、トイレの心配がないようにとの配慮からだし、後ろに飲み込ませた玩具も、自分がいない間、このひとが欲しくて泣かないように──すべては、高耶の為。

玩具のスイッチを入れるなり、たちまち背を仰け反らせて喘ぎはじめた高耶の、涙の滲む目元を男は唇で拭ってやり、出かけには一人で淋しくないようにと、部屋中のモニターに自分と高耶が繋がっている映像を流してやった。







「ウッ……クッ……、」
薄暗い室内でモニターの画像が切り替わる度、激しく点滅する光が、時折、意識を飛ばしかける高耶を、容赦なく現実へと引き戻す。
音声は切られているが、視界に飛び込んでくる淫らな映像が、その時、自分が何を口走っていたかを嫌でも思い出させて、高耶の眼を屈辱の涙が伝った。

(だれ、か……)
数え切れないほど繰り返した、決して届くことのない切ない叫びは、やがて啜り泣きに変わる。
こうして幾度となく、無惨な姿で置き去りにされる度、高耶はもう、自分にはあの男しかいないのだと、嫌でもその身に思い知らされるのだった。

──直江。

泣きながら、自分を閉じ込める男の名を呼んで、体内の器具による強制的な絶頂に声にならない悲鳴を上げ続け。
そうして、長い時の果てに、高耶は遂に力尽きた。
(……はや、く……)





+++





束の間の安息に微睡んでいた頬に、暖かな手が触れた。
「ッ……、」
高耶が虚ろな眼を開けると、いつのまに戻ってきたのか、男が傍らに屈んで微笑みかけていた。

「ただいま、高耶さん。いい子にしていましたか?」
「ンンッ、……ン、」
男の姿を認めるなり、必死に何かを訴えてくる高耶に、男は「わかっていますよ」と微笑んで、導尿用のカテーテルが差し込まれたままの、若い鈴口を指先で撫で上げた。
「……ッ」
たちまちビクンと身を震わせる高耶に、男は管から繋がった、体液の詰まったビニールバッグをこれ見よがしに翳して、甘く残酷に囁く。
「……取ってほしい?」
わかりきっていることを、男はわざと問いかける。
羞恥と屈辱に啜り泣きながらも、コクコクと頷く高耶が愛おしく、男は管を止めていたサージカルテープをそっと剥がして、徐に管を引き抜いた。

「───ッ!」
その途端、声にならない悲鳴をあげて、身を反らせた高耶のペニスから、意志とは関係なく、射精とも失禁ともつかない、透明な体液が溢れて内腿を濡らす。
羞恥のあまり、また新たな涙を零すいとしいひとに、
「泣かないで」
と甘く囁いて、男が細い体をそっと抱き起こすと、体内に入ったままの淫具の角度が変わって、つらいのか、高耶は声にならない悲鳴を上げた。

「ンンッ……、ン……」
男の腕に抱かれ、喘ぐ唇に科せられているボールギャグの孔から、飲み込み切れない唾液が銀の糸を引いて口端を伝うと、高耶は羞恥からか、嫌々と身を捩る。
「こんなに零して……」
男は揶揄るように囁くと、指先で濡れた口端を拭ってやった。

「高耶さん……」
最愛の名を囁く男の声が、いつしか熱くなっている。
後ろ手に戒めている体に獣の姿勢を取らせ、ハーネスを取り去り、荒々しく中の玩具を引き抜いて。そうして露になったピンク色の蕾に、男は取り出した己の凶器をぴたりとあてがい、容赦なく沈めて行く。
熱く滾る凶器に根元まで体を割られた高耶が、口枷の奥で声にならない悲鳴をあげるのも構わず、男は形のいい双丘を掴んで、欲望のまま貪った。

半日近く、前立腺を刺激する器具を入れられ、より敏感になっていた襞が、抽送に耐えられずに、きゅうっと締まる。
「───!」
射精を伴わない、後腔のみで迎えた絶頂は、いつまでも終わらず、ずるずると尾を引いた。
背後で、男が淫らに囁いた。
「もう、完全に後ろだけでイける体になりましたね」
──男のくせに。淫乱なひとだ。

禁断の快楽に、男を銜えたままの体を小刻みに震わせながら、屈辱と絶望の中、高耶は声も出せず、新たな涙を零した。





Das ende.