yorurati 2004
第十夜


presented by
黒417



自力で玩具を吐き出させられ、限界を超えた羞恥と責めに、半ば放心してしまったようにシートに沈む高耶の、涙に濡れた虚ろな視界に、覆い被さってくる男がスローモーションのように映る。

(──直江)
自分を閉じ込め、欲望のまま支配する、甘く残酷な支配者。

無防備に晒されている蕾に、男の欲望の切っ先が押し当てられ、容赦なく打ち込まれると同時に、生殺権を握られた獣の喉奥から、声にならない悲鳴が押し出された。
「───ッ!」
もはやまったく力の入らぬ体に、深深と沈んだ所有の証。
血の通わない玩具に一夜の間、犯され続け、すっかり充血し、綻んだ襞は、高耶の意志と関係なく、まるで男の侵入を待ちわびていたかのように、淫らに絡み付いてきた。
「クッ──、」
腕の中で苦し気に眉根を寄せ、大きく反らせた薄い胸を喘がせているいとしいひとを、男は熱い眼で見つめた。

「高耶さん……いい子でお留守番できたご褒美に、うんとヨクしてあげますよ」
繋がったまま上体を倒し、形のいい耳朶に囁くと、体内の男の角度が変わって、つらいのか、高耶はあられもない悲鳴をあげる。
「なおっ…」
きつい目元を涙に潤ませ、必死に自分の名を呼ぶ幼い泣き顔がいとおしく、もっと奥まで繋がりたくて、男は細く引き締まった内腿に手をかけ、思いきり深く己を挿し入れた。
「アアッ……!」
細い体を弓なりに撓らせ、深すぎる結合と容赦のない抽送に、たちまちあがる新たな悲鳴も、高耶への執愛に狂う男の耳には甘美な音楽のように響く。
「高耶さん……高耶……、」
「クッ……あ、ヒッ……」
濡れた粘膜を容赦なく男が行き来する度、囚われの喉奥から声にならない声が零れる。
もはや吐き出すものもないのに、男の腹に繰り返し擦られ、耐え切れずに勃ちあがった若い楔は、体内から激しく突き上げられる度、切な気に震えた。

「──高耶さん、答えて」
内診台のシートに戒められた体を投げ出して、深々と犯され、なす術なく揺さぶられている耳朶に、男は甘く残酷に問い掛ける。

……俺がいない間、中のオモチャで何回、イったの?

残酷な問に、喘ぎ、啜り泣きながらも嫌々と首を振る高耶に、男は意地悪く微笑んだ。
「そう。覚えていられないほど、何度もイってしまったんですね……淫乱なひとだ」

揶揄るように囁かれ、胸の尖りにカリッと軽く歯を立てられて、高耶はビクンと身を震わせた。
「も……なお……ッ、」
片方をきつく吸われ、もう片方を指先で潰すように弄ばれて、耐えられずに、唇をついて出てしまった途切れ途切れの哀願が、より男の嗜虐を煽る。
「大丈夫ですよ……あなたのはじめてのお留守番の様子は、ちゃんとビデオに撮ってありますからね」
その言葉に、男を受け入れたままの細い体が、一瞬のうちに凍り付く。

俺のいない間、あなたがどんな風に腰を振って、どんな風にイったのか、後であなたにも見せてあげるから。

「やっ……」
知らないうちに、己のあんな姿を撮影されていた──壊れたように男の名を呼び続けた、あの時の姿を見られるのだと思うと、限界を超えた羞恥と屈辱でどうにかなってしまいそうになる。
見る間に青ざめ、泣き腫らした眼に新たな涙が込み上げ、滑らかな頬を伝う様を、男はいとおしくてたまらないというように、唇で拭ってやった。

「泣かないで……」
本当に、あなたというひとは。

子供をあやす親のように、男は優しく名前を囁きながら、ショックで強張った細い体を癒すように抱きしめる。
「ヒッ──ク、」
高耶は本来、例えどれほど酷い暴力を振われたとしても、他人に容易に屈してしまうような柔な人間ではなかったが、密室で繰り返される果てのない責めは、少しづつ、確実に彼の精神を蝕み始めていた。
自由を奪い、閉じ込め、残酷な仕打ちを強いているのは男なのに……あなたには自分しかいないのだと教え込むように、気違いじみた愛で、男は高耶の魂に容赦なく入り込む。



思う様腰を使い、いとしい体を貪っていた男が、ふと動きを止めた。
長時間、頭上で戒めたままの腕が、つらそうに見える。
男は内診台のシートと細い腕を繋いでいたフックを外してやり、両手首に嵌めた手錠はそのままで、いとしい腕を己の首に回させた。
二人、結合したままでそうしていると、まるで高耶の方から男にもっと犯してほしいとせがんでいるかのように見える。

「高耶さん……」
名前を呼んで、形のいい唇に己の唇を重ね、舌を差し入れて甘く吸い上げてやると、高耶は啜り泣きながら、弱々しく身を捩った。
「──ンンッ、」
息もできないほど、生暖かな舌で繰り返し口腔を犯され、熱く滾る肉塊で深々と突き上げられる。激しい抽送の前に目の前がしろくなる。

「やっ……なおっ……、ア!」
容赦のない責めの果て、掠れた悲鳴をあげて高耶が堕ちた。
もはや吐き出すものもないのに、張り詰めた若い楔がまるで精を放つ時のように痙攣し、同時に男を銜えさせられている箇所が、きゅうっと淫らに収縮する。

「───ッ、」
手錠で繋がれた力の入らぬ指が、男の黒いスーツの背に爪を立て、いとしい体がもたらす目眩のするような快楽に、男の唇からも声にならない吐息が零れた。
「高耶さん……」
「ヒッ……ク……うっ……」
最後の力を使いきって、ぐったりとシートに沈んだ細い腰を、改めて己の方へと引き寄せた男が熱い声で何かを囁く。
だが、急速に意識を飛ばしかけた高耶の耳にはもはや届かなかった。
(なおえ……)
形のいい唇が無意識のうちに、自分を犯す男の名前を呟く。
間近で覗き込む鳶色の瞳に映る、泣き腫らした己の顔がスッと遠離っていく。
男の腕の中で、高耶は意識を失った。




***




心地よい揺れに目覚めた時、高耶はローブにくるまれ、男の腕に横抱きにされて、ベッドに運ばれるところだった。仄かなボディソープのにおい──気を失っている間に、男の手で身を清められたのだと知る。
常軌を逸した、男の自分への執着を現すかのように、手首を戒める手錠は、今も外されてはいなかった。

冷たい金属の感触は、囚われの証。
こんなもの、しなくたって、もうお前から逃げられはしないのに。

「……高耶さん?」
細い体をいとおしげにベッドに横たえた男は、高耶が眼を開けてこちらを見ているのに気付いたのか、柔らかな微笑みを投げかけてきた。

男はいつもの黒いスーツではなく、ゆったりとローブ姿だった。
いつも自分を欲望のままに貪る時ですら、スーツを脱がない男の、こんな風にくつろいだ姿を見るのは滅多にない。こうして見る限り、この男がその身の内に、あれほどの凶気を秘めているとは到底思えないのに。
自分の何が、そこまでこの男を狂わせるのか、高耶にはどうしても理解できなかった。

「高耶さん……どうかしましたか?」
問いかけには答えず、高耶が虚ろな視線を外して俯くと、驚いたことに、男は自らもローブを脱ぎさってベッドに入ってきた。
「なおっ……」
また、何かされるのではと、発作的に怯えた声を出した高耶に、男は苦笑したように、
「なんて声を出すんです。安心して……何もしやしませんよ。今はね……疲れたでしょう。少し、眠るといい」
眼が覚めたら、また、たくさん愛してあげますよ。

男はまだ強張っている額に口づけると、有無をいわせず腕枕をしてきた。重なる肌の熱が、最初、高耶を落ち着かない気分にさせたが、それも僅かな間だった。
貪り尽くされ、疲れきった体は泥のように重く、理不尽な陵辱も、己のすべてを男の手にゆだねる屈辱も、いまはもう、何を考えるのも億劫で、ただ、眠りたいと思った。



「愛していますよ……」
抱きしめてくる腕の中で眠りに落ちるその瞬間、男がそう囁いたような気がした。



To Be Continued.



yorurati2005... coming soon(爆)