夜ラチ2004 
「2 years later...」


presented by
milky417



走り去る長兄のベンツ。
いつまで経っても身を固める気配のない弟を心配してか、このところ、しきりと見合いを持ちかけられ、さすがの男も閉口気味である。
相手が大手取引先の令嬢ということもあり、会うだけでもとねばられ、やんわりと追い返したものの、屋敷に押しかけられるのは、例え兄であろうと許せない。
突然の来訪者に、あのひとは怯えていたではないか。
(高耶さん……)

男は一人、あの部屋で自分を待っている愛しい存在を思い、屋敷内へと取って返した。
兄のことは、いずれ何らかの手を打たなければならないだろうが、今はいい。
男の顔に、自然と夢見るような笑が浮かぶ。
……あのひとが待っている。





屋敷の奥深く、閉ざされた重い扉。
傍らに取りつけられた、黒く無機質なプレートに、男が慣れた手付きで掌を押し当てると、小さな電子音とともにロックが外れ、迎え入れるように扉が開く。
ほの暗い室内へ足を踏み入れ、再び扉が閉まる音を背後で聞きながら、男はまっすぐに愛しいひとの元へ向かった。

外界から遮断された密室の中、仰木高耶は大きなソファにその身を横たえ、眼を閉じていた。置き放しだった男の黒いジャケットを抱くようにして、まるで子供のように眠っている。
はだけたローブの合わせから覗く鎖骨、ピアスを施された薄い胸。
激しい愛撫の痕だらけのしなやかな肢体を惜しげもなく晒して、まどろんでいる最愛のひとを、男は眩しげに見下ろした。



拉致された高校二年のあの日から、高耶は屋敷から一歩も外に出されることなく、この部屋で二度の誕生日を迎え、今は十九才になっていた。
腕の中で、少しづつ大人になっていく行く高耶を、男だけがその眼で見てきた。そして、まもなく高耶はこの部屋で、三度目の誕生日を迎えようとしている。

このひとのことを、このひとより知っている。
自分だけがこのひとを愛し、このひとを守り、望むすべてを与えてあげられる。
気違いじみた執着と、常軌を逸した愛が、仰木高耶という個人の自由な未来を奪ったことなど、狂った男には理解できるはずもなく、月日が流れても、男の心を占めているのは、尽きることのない高耶への渇望だけだった。

(高耶さん……)
もう、随分長い間、外に出ていない為に、ローブから覗くその肌は陶磁のように青白い。
子供のような幼い寝顔に、起こすのは少し可哀想な気もしたが、それでもこのひとに今すぐ、自分の名を呼んでほしくて、男はそっとその頬に手を伸ばした。

「……高耶さん……高耶さん?」
待ちわびた男の声に、まもなく目覚めた高耶はふわっと微笑んだ。この世で自分だけが見ることのできる笑顔に、男は胸を熱くする。
「……なおえ」
身を起こすなり、すぐにこちらへと伸ばされる細い腕。
傍らに腰を下ろし、愛しい体を横抱きにして、尚もきつく抱きしめてやると、高耶は男のシャツの胸に顔を埋め、子供のように頬を摺り寄せてきた。

思えば、それまで一人で留守番をさせられることはあっても、屋敷に男以外の人間が訪れてくることはなかったので、高耶は突然の来客を知るや否や、激しく動揺する素振りを見せた。
セキュリティシステムのモニター映像を確かめた男が、安心させるように、
「兄が訪ねてきたようです。大丈夫、心配はいりませんよ。いい子で待っていて下さいね。すぐに戻ってきますから」
そう云いきかせたものの、やはり不安だったのだろう。

男が戻ってきたことに安堵したのか、高耶は男の胸に、長い間顔を埋めてじっとしていた。
とっくに狂ってはいるけれど、それでも、高耶の一挙一動が、尚も男を捕え、狂おしいほどのいとおしさが募る。
男は性のいい、さらりとした漆黒の髪を優しく撫でてやりながら、
「そんなに淋しかったの……?兄はもう、ここへは来ないから、心配しないで。それより、食事の仕度が遅くなってしまいましたね。お腹すいたでしょう……すぐに準備しますから」
すると高耶は首を振り、ようやく顔を上げると、潤んだ瞳で見つめ返してきた。
「腹なんて減ってない……」
愛しい唇が、夢のような言葉を紡ぐ。
おまえがほしい。

欲望を隠しもせず、濡れたその眼は、ただひたすら、痛ましいほど純粋に、男の愛撫を訴える。
高耶を攫い、閉じ込め、残酷なほどの愛で雁字搦めにして、自分がいなくては生きられないよう仕向けた男は、眩暈がするほど、甘い歓喜に酔いしれながら、うっとりと微笑んだ。
「随分、淫乱なひとですね。今朝だって、あんなにたくさん愛してあげたのに……」

もう、欲しくなってしまったの?
そう耳朶に囁きながら、尚も欲望を煽るように、ローブのあわせから差し入れた指で、男は胸の突起を徐に撫で上げた。
「アッ……」
ただでさえ感じやすかった胸は、ピアスの施術後、より感じやすくなっている。男はそのまま下へと徐に手を滑らせ、高耶のローブの前を強引にはだけさせた。
下着など許されているはずもなく、すぐにあらわになる、子供のように処理された滑らかな下肢。
すでに形を変え始めているペニスの先端にも、いつも感じていられるようにと、鈴口を割るようにして、施されたプラチナのリングピアスが光っている。
男は、紅く染まった耳朶に尚も淫らな言葉を囁きながら、撓りはじめた幹の根元へと手を伸ばした。袋ごと握り込み、精を宿す二つのボールを転がすように弄ぶ。

やがて、掌の中ですっかり勃ちあがったペニスの、リングピアスを摘んで、尿道に軽い刺激をくわえてやると、高耶はたちまちあられもない悲鳴をあげて、ビクビクと身を捩った。
「なおっ……」
名前を呼んで、縋りついてくる体が、たまらなくいとおしい。

「ココがそんなにいいの?ちょっと弄ってあげただけなのに、もうこんなにして……」
揶揄るように囁いて、男が尚も先端に施されたピアスを意地悪く蠢かすと、切ない喘ぎとともにたちまち鈴口から透明な蜜が溢れ出し、ツーッと幹を伝い落ちた。
「なお……も……くれ、よ……」
それは壊れ果てた、今の高耶のただひとつの願いだった。
早く……オレのなかに、おまえを、くれ。

きつい目元を、切なげに潤ませ、ひたすら行為をねだる高耶に、自らも限界になったのか、男は細い体を軽々と抱き上げた。
欲しがるこのひとに、思うままあげてしまっては、躾の為にはよくないけれど。
「今日は淋しい思いをさせてしまいましたからね」
……ご褒美をあげますよ。
ベッドに運ばれるまでの僅かな間、男の首に両腕をまわした高耶は幸せそうに微笑んでいた。





+++





ここには、時計もカレンダーも、時を告げるものは何もない。
昼も夜もわからず、果てもなく与えられる快楽に、いつしか壊れた高耶が、唯一、時の流れを知らされる日がある。
「……高耶さん、お誕生日おめでとう」
閉ざされたこの部屋で、男の口から高耶は二度、その言葉を聞いた。

お誕生日おめでとう。
自分を膝に抱いて、その言葉を囁く時、直江はいつにも増して優しくて、その日はたくさん愛してくれるから、誕生日は好きだと高耶は思う。

屋敷に連れ込まれるまで、自分が何を考え、どんな夢を抱き、どんな風に生き……繰り返される狂宴の果てに、いつ正気を手放したのか……高耶にはわからない。
甘い口づけとともに目覚め、生きる為のすべてを男の手で施され、獣のように体を繋げ……壊れるほど男の名を呼び、欲望のまま腰を振り、体の奥深くに熱い白濁を受けとめ、自らも悲鳴とともにしろいものを吐き出して、甘く気だるい満足感の中、たくましい腕の中で眠る時、高耶は幸せだった。

なおえ。
おまえが……ほしい。
おまえを、もっと。……オレにくれよ。





+++





ベッドに運ばれた高耶は、荒荒しくシャツを脱ぎ捨て、すぐに覆い被さってくる逞しい男の背に細い腕を回して縋りついた。
愛しい唇が自分の名を呼び、壊れた瞳が自分だけを映し、切なくなるほど行為を求めてくる様を、男は眩暈のするような思いで見つめる。
狂った男と囚われの獣を支配するのは、凄まじいほどの互いへの飢餓。

細く引き締まった足首が掴まれ、大きく広げられて胸につくほど折り曲げられ、苦しい態勢を強いられながらも、ようやく望むものを与えられた時、高耶は声にならない声をあげ、大きく喉を仰け反らせた。
ろくに馴らしもせず、突き入れられた箇所が悲鳴をあげている。
「クッ……ア……、」
苦しげに寄せられた眉。貫かれる最初の苦痛と衝撃を堪えようと、きつく眼を閉じ、肩で息をしていた高耶の眼が、やがて、おずおずと開かれ、狂気に囚われた男の視線とかちあった。
形のいい唇が、男の名を紡ぐ。
なおえ、と。

「高耶さん……!」
唇に唇が触れるほど間近で見つめながら、男は大きく腰をグラインドさせる。愛しいひとが乱れる様をその眼に焼き付けるかのように。
「アー……ッ、」
狭い襞を、猛る凶器で蹂躪されて、高耶はたまらず男の背に回した指に爪を立てた。無意識にきゅうきゅうと締め付けてくる襞に、男の口からも吐息が洩れる。
愛しい唇を指先で辿りながら、男は悪戯そうに、
「高耶さん……いくら欲しかったからって、そんなに締めつけないで。もう少し緩めてくれないと、愛してあげられませんよ?」
その途端、今にも泣きそうになる高耶があまりにいとおしく、
男は甘く諭すように囁いた。

「力を抜いて……高耶さん」
「あ……」
高耶は必死に、これまで散々この部屋で教え込まれた通り、大きく口を開けて息を吐く。すると、強張っていた体から、少しづつ力が抜けていった。
男が微笑む。
……いい子ですね。
愛していますよ。囁きとともに、ゆっくりと開始された抽送に、高耶の目尻から涙が伝う。
それは、ようやく男と繋がれたことへの、安堵の涙だった。





「ヒイ……ア!……クッ……!」
ギシギシと軋むベッドの上で、男は思うまま、いとしいひとを貪る。
犯しても犯しても犯したりない、欲しくて欲しくてたまらない……底無しの飢えが、男を、囚われ、壊れた獣を突き動かす。
後ろを攻められ、透明な蜜を零し続け、今にも弾けてしまいそうなほど、張り詰めた若いペニス。あられもなく開かせた長い脚の付け根に、自分の肉が出入りする様を、男はうっとりと見下ろした。

本当にいやらしいひとだ。
こんなに小さなお口で、俺のを奥まで飲み込んで。男のくせに男に犯されて、ぼうやをこんなにして。
淫らな、揶揄るような囁き。
「いう……なっ……」
言葉とは裏腹に、快楽に囚われた高耶の瞳は潤んで、尚も男を誘う。
「高耶さん……」
喘ぐ唇を、男の唇が塞いだ。
「ン……クッ……」
奥深く繋がったままでの、激しい口づけ。差し込まれた舌が、形のいい歯列をなぞり、甘い唾液を吸い上げ……熱く絡んだ舌と舌が、糸を引いて離れていく。
「高耶さん……」
愛している……愛している。狂っていても、愚かな行為とわかっていても、こうすることでしか、このひとを愛せない。

突如、激しくなった抽送に、ついていけなくなったのか、高耶が悲鳴を上げた。
「アアッ……なおっ……ヒッ……!」
パンパンと、音を立てて打ちつけられる肉に、大きく体内を抉られて、もう何も考えられない。ガクガクと揺さぶられ続ける、肉の人形と化した高耶の襞を、男は己の凶器で容赦なく攻め立てた。

「高耶さん……ッ、高耶さん……!」
「クッ……ア……!ひい、ひ……」
大きく固く、熱い凶器が狭い襞を奥まで突き上げ、抜けるギリギリまで引きずり出されては、再び強く押し入ってくる男に、目の前がしろくなる。
痙攣する内腿、込み上げる射精への欲求。
「なおっ……も、駄目……」
男の背にきつく爪を立て、高耶が「出る」と、あられもなく口走った時、男ももはや限界だったのだろう。
「高耶さん、出しますよ、飲んで……」
熱い囁きとともに、グッと腰を入れられ、一際深く突き上げられた。

「アー……!」
その瞬間、大きく顎を突き上げ、悲鳴とともに高耶が果てた。
パンパンに撓りかえっていた若い楔の、ピアスを噛んだ鈴口から、しろいものが迸り、射精と同時にきゅうっと収縮する熱い襞に導かれるように、深く突き上げた男の腰が、ぶるっと震えた。


「アアッ……ア……」
小刻みに痙攣する細い体の、いちばん深いところへ、男の白濁がドクドクと注ぎ込まれていく。
男を受け入れ、後ろでイクことの快楽を嫌というほど教え込まれた襞は、高耶の意志と関係なく、尚も放出を続ける男のモノを貪欲に締めつける。
「ヒッ……ク、……う、あ……」
男は、思いの丈を、一滴残らず愛しい体に注ぎ込みながら、前後で果て、半ば意識を飛ばしかけている愛しいひとに囁いた。
「あなたのものですよ……仰木高耶」
うっすらと眼を開けた高耶の眼から、スーッと流れる涙を、男は唇で拭って、尚も甘く囁く。
何度も何度もそうしたように、男は繰り返し教え込んだ。

俺はあなたのものですよ。
そして、あなたも……俺だけのものだ。



熱く囁いて、男は大きく開かせたままの細い足首を握りなおすと、互いに放出の余韻の色濃く残る、まだ繋がったままの腰から、萎えた凶器を名残惜しげに引き抜いた。
「……アッ……」
たちまち、高耶の唇から掠れたうめきが洩れる。
男が出ていく感触とともに、たった今、注ぎ込まれたばかりの白濁が、ピクピクと震える蕾からトロリと溢れてシーツに滲んだ。

「せっかく飲ませてあげたのに……こんなに零して」
男は徐に顔を寄せ、ヒクつく蕾に躊躇いなく尖らせた舌先を差し入れた。
「やっ!……ア……」
とっくに壊れてしまったはずなのに、そこを唇で愛されることだけは、今でも恥かしいのか、嫌々と身を捩る姿が、いとおしくてたまらない。
男は濡れた蕾に深深と舌を埋め、感じやすい皺の一つ一つまで丁寧に拭ってやると、次に自ら放ったものに塗れた、萎えた楔を唇に含んで綺麗に清めてやった。

ようやく顔を上げ、再び上体を倒してきた男の首に、高耶は自ら細い腕を回す。
濡れそぼるその眼は、もっと欲しいと告げていたが、男はクスクスと微笑むと、諭すように云った。

「続きは、後でね」
すると、たちまち高耶は不安そうな表情になった。
「高耶さんは、朝も食欲がなかったでしょう。ご飯も食べずに欲しがってばかりいる悪い子には、ご褒美はあげませんよ?」
「なお……」
ああ、そんな眼をして……俺のいない僅かな間に、おいたをしてしまわないように、こうしておいてあげましょうか。
男は細い手首を頭上で一纏めにして、優しく手錠で繋いでやった。

すぐに戻ってきますよ。
今夜はあなたの好きな和食にしましょうね。
ちゃんとご飯を食べられたら、またたくさん、愛してあげる。



Das Ende.


こんにちは。久しぶりの夜ラチをお届けします(^^;
第八夜を、と思ったんですが;むしょーに甘いのが書きたくなってしまいまして;(コレの何処が甘甘って云われそうですが/笑;)
すみません。掟やぶりの数年後です;いつのまにか、高耶さんの胸と×××(コラ;)ピアスついてるし…(- -;)でも、自分的には最上級の甘甘なんですの(笑;

なんか、本当に久しぶりにこういうの書いたなあ…(しみじみ)
あいかわらず、私にはコレしか書けないらしい…(笑;

完全に壊れてしまっても、高耶さんが女々しくならないように、台詞とか気をつけて書いてるつもりなんですが……やっぱり難しいですね(^^;
ああ、でも高耶さん……あなたというひとは、ほんとにまったく、どーしてそーゆーひとなんですか?(涙)
あなたがそんなにカッコ可愛いから、犯りたくなるんですの(>_<)
仰木高耶以外、誰がヤるかい!キーッ(>_<)>壊れてる(笑;

これからも、ひっそりこっそり、直高もどきオンリーで行きます。
第八夜以降は、すみませんが気長に待ってやって下さいですの(笑;

それでは、読んで下さってありがとうございました。