夜ラチ2003 番外
拉致十日目


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黒417



男の父親は、宇都宮で代々続く資産家の家に生まれた。
両親が早くに亡くなる不幸があったが、彼は最高学府在学中に知り合った女性と恋に落ち、結婚。
その年に長男、翌年には次男に恵まれ、絵に描いたような幸せな日々が続いた。


結婚十年目に、妻は三番目の子供を身篭った。
十時間以上に及ぶ難産の果て、妻の命と引き換えに誕生した三番目の我が子。
彼は自分と妻の名前の一文字づつを取って「信綱」と命名した。
だが、この子さえ生まれなければ、もしかしたら妻は死なずに済んだかもしれない…そう思うと、彼はその子をどうしても愛することができなかった。

妻を亡くした痛手から、彼は仕事もせずに屋敷に引きこもるようになった。
壊れた彼の精神状態を表すように、いつしか屋敷の窓と云う窓には鉄格子が嵌められた。



そうして、まるで広大な牢獄のような屋敷の中で男は育った。
ひとまわりも年の違う二人の兄は、幼い弟を可愛がり、何かと面倒をみてくれたが、父親は男を遠ざけ、膝に抱こうともしなかった。
目を合わせれば、お前が妻を殺した、生まれてこなければよかったと、叫んでしまいそうだったから。


大学進学の為に兄二人が、それぞれ東京へ出てしまうと、屋敷には小学校に上がったばかりの男と父親の二人だけになったが、それでも父親は自室にこもったまま男と顔を合わせようとしなかった。
通いでやってくるお手伝いの中年女性だけが、男の親代わりであり、唯一の話し相手だった。


中学生になった時、それまで病死とだけ聞かされていた母親の本当の死因を知った男は、ショックから鬱状態に陥った。
自分が父親に愛されていないことは幼い頃から感じていたが、それは自分が母親を殺したから。
自分は、人殺しだ。男は発作的に手首を切った。

幸い、大学を卒業して屋敷に戻っていた長兄に発見されてすぐに病院に運ばれ、大事には至らなかったが、その時でさえ、父親は見舞にも来なかった。


喋らなくなった弟を長兄は心配した。
だが、自分の心の何処かにも、この弟の誕生と引き換えに母が亡くなったのだと思う心がないとは云えず、父親を咎めることもできなかった。



大学を卒業後、長兄の経営する会社で働きはじめた男の心は空虚だった。
高級ブランドを身に纏い、浴びるほど酒を飲み、金で買った女と寝る自堕落な日々。

そんなある日、ついに男に一度も心を開くことなく父親が死んだ。
睡眠薬を大量に飲んでの自殺だった。
皮肉にも第一発見者は男だった。
父親の、これほどまでの安らかな顔を、男は見たことがなかった。


財産分与の段階になって、問題が持ちあがった。
本来なら長兄が受け継ぐべき屋敷だが、すべての窓が鉄格子で塞がれたまるで牢獄のようなその屋敷への居住を、長男の妻もその子供達も、かたくなに拒んだのである。
次男は大学院卒業後、外資系企業で研究者として働いており、海外に生活基盤がある為、日本に戻るつもりはないと云う。
こうして、父親が死ぬまで引きこもっていた広大な屋敷は、三男である男が相続することになった。



屋敷を相続してまもなく、仕事で滞在していた松本市で、男は仰木高耶に出会った。
天啓、とでも云うのだろうか。
高耶との出会いは、それまでの空虚な心を埋めるにあまりあるものだった。
ようやく、男は見つけたのだった。母親の命を犠牲にしてまで、自分がこの世に生まれてきた意味を。
このひとを愛する為に、自分は生まれてきた。
幸い、屋敷には自分だけ。誰も邪魔する者はいない。
あのひとと死ぬまで、二人きりで暮らそう。

それまで、誰かを愛したことも愛されたこともなかった男は、ひとの愛し方を知らず、すでに自分が狂いかけていることにも気づかなかった。

男は早速、屋敷の改装に取りかかった。
窓の鉄格子はそのままで、あのひとを迎える日の為に。
その顔には、それまで男が浮かべたことのないような幸福な笑が浮かんでいた。










大手不動産宇都宮支社。
正午を知らせる電子音とともに、それまで静かだったフロアが一気に賑やかになる。
この日、社長室で打ち合わせに臨んでいた男と男の兄も、久し振りに一緒に昼食をと、近くの喫茶店に入った。

男の兄が事業拡大の為、支社を弟に任せて宇都宮を離れ、生活基盤を東京に移して久しい。目の前にいる弟は、しばらく会わぬ間に見違えるほど生き生きとして見える。
いったい何がこの弟を変えたのだろう。


店内に置かれたモニターが、正午のニュースを伝えている。
『……松本市の高校生、仰木高耶君失踪事件は、警察の必死の捜査にも関わらず、何ら進展のないまま、今日で十日が過ぎました。身代金目的の電話なども一切なく、家族には焦燥感が募っています……』
テレビは消えた兄の身を案じ、涙を堪えて必死に無事を訴える妹の姿を映し出した。

松本といえば、かつて仕事でリゾートホテルの建設の為、男も、男の兄も、度々訪れた街である。しかも、まだ中学生ぐらいの少女が、必死で家族を探している。
コーヒーカップを手に、ニュースに見入っていた男の兄は、自分にも同じ年代の娘がいることもあって事件を身近に感じたのだろうか。呟くように云った。

「……かわいそうに。誘拐だとすれば、犯人から連絡があるだろうが、それもないとなると、よけいに心配だろうな」
人のいいこの兄は、目の前にいる自分の弟が彼を誘拐し、閉じ込めている張本人と夢に思わない。
「そうですねえ。妹さんの為にも、このひとが早く見つかるといいですね」
相槌を打ちながら、屋敷のあの部屋で一人、自分の帰りを待っている高耶を思い、男は口元に込み上げる笑を押さえることができなかった。










広大な屋敷の奥に隠された、男だけが開けることのできる、重い扉。
「ただいま。高耶さん……さみしい思いをさせてしまいましたね。いい子にしていましたか?」
兄との打ち合わせを終え、数時間ぶりに自宅に戻ってきた男は、にこやかに話しかけながら、愛しいひとに近づいた。
「ンン……クッ……、」
声にならない声が開口具の奥から零れた。
涙に濡れた瞳が、縋るように男を見上げている。

ベッド脇に置かれた、黒いレザー張りの医療用の内診台に、高耶は大きく脚を開かされた状態で全裸で拘束されていた。
身につけているのは、マウスピース型の開口具と首輪、手脚を戒める拘束具、上体を背もたれに固定する為、胸に巻かれた黒い皮のベルトのみ。
むきだしになった蕾には、射精にいたらない程度の、ごく弱い刺激に設定されたプラグが埋め込まれ、後ろへの刺激で勃ちあがったペニスには導尿用のカテーテルが差し込まれて、抜けないようにサージカルテープで止められていた。

この部屋で飼われるようになって、すでに十日。
男が仕事で長時間、この部屋を空ける時は、高耶はいつもこうして一人、長い時を耐えなければならなかった。

「……ンン……ン、」
必死に何かを訴えようとする高耶の髪を、男はいとおしげに何度も撫でながら囁く。
「高耶さん……泣かないで。さみしかったの?」
唇を寄せて、溢れる涙を吸いとってやるが、涙ははらはらと、とめどもなく流れる。
「高耶さん……可愛いですよ……ああ、喉が乾いているでしょう。新鮮なミルクをあげましょうね」

あまりのいとおしさに、欲望を抑えられなくなったのか、男はスラックスの前をはだけて己の昂ぶりを引きずり出すと、マウスピースで開かせたままの唇に容赦なく突っ込んだ。
「ンン……グッ……」
深深と銜えさせたまま、頭を前後に揺すると、喉奥から苦しげなうめきが洩れる。そのうめき声すらいとおしい。
男は高耶の苦しみなどおかまいなしで、下の口を犯す時と同じように、猛るモノを散散、喉奥に打ちつける。



「高耶さん……そろそろ出しますよ……飲んで」
囁きとともに、グッと頭を押さえつけられた瞬間、男の凶器が高耶の口内で弾けて、開いたままの喉に男のしろいものがどくどくと注ぎ込まれた。

男が名残惜しげに自らを引き抜くと、大きく開いたままの高耶の口内には、たった今、男が放ったしろいものが小さな池をつくっているのが見えた。
「ンン……ン、」
銜えさせられているマウスピースのせいで、嚥下するには時間がかかる。無理して飲み込もうとすれば、器官に入り込んで激しくむせてしまう。
男は諭すように、再びその髪を撫でた。
「無理しないで……少しずつ味わって飲むんですよ……」
「ンン……ぐっ……ン……」
この部屋に閉じ込められてから、嫌と云うほど教え込まれた男の体液を、時間をかけてようやく飲み切って、涙に濡れた瞳が男を見た。

「いい子ですね……おいしかったでしょう?」
男はにっこりと微笑む。
高耶さんは本当にいい子だから、ご褒美をあげましょうね。



男は高耶の反応を楽しみながら、カテーテルが入ったままの先走りに濡れる鈴口をゆるゆると指で辿った。
ほんの少し、差し込んだカテーテルを出し入れするように弄んでやると、細い体がビクンと震えて、薄いイエローの液体が透明な管を伝ってビニールバッグに落ちていく。
静まり返った室内に、排泄の音が殊更大きく響いて、真赤になって顔を背けようとする顎を押さえて、男はわざと羞恥を煽るように囁いた。

「おもらしするほど気持ちよかったの?」
高耶は真赤になりながらも、ぼろぼろと涙を零し、嫌々をするように身悶える。その姿があまりにいとおしくて、男は目を細めた。
「いいんですよ……恥かしがらないで。高耶さんはココと後ろを弄られるのが大好きですからね……いい子でお留守番できたご褒美をあげましょうね」
と囁いて、後ろに銜えさせているプラグのスイッチを強にした。

「!!」
声にならない悲鳴が響いた。
プラグが発する強い低周波の刺激に、両目が見開かれたのと同時に、細い体がビクンと跳ねる。
次の瞬間、カテーテルを伝ってしろいものが放出されて、薄いイエローの液体の詰まったビニールバッグが、たちまち白く濁った。
「……ッ、」
涙をぼろぼろと零しながら、痙攣したように内腿を震わせる高耶に、
「気持ちよかったんですね……」
と、優しく男は囁いて、涙の滲む目許に口づけた。
「可愛いですよ……高耶さん。お腹が空いているでしょう、ご飯にしましょうね。食事が済んだら、最近の高耶さんはとてもいい子だから、とっておきのご褒美をあげますよ。楽しみに待っていて下さいね」


誰でもいい……自分をこの快楽の檻から解放してほしい。
完全に正気をなくして、この男なしでいられなくなる前に。

プラグの振動に喘ぎ、涙を零しながら、高耶は永遠に訪れることのないその時をひたすら待った。



Das Ende.


続きは仕切り直しの第八夜のつもりが、いきなり番外でごめんなさい(爆;
なんとなく直江が壊れたきっかけを書きたくなったので、今回はこんなんなりました(^-^;) ってか、ありがちな過去だなあ…(笑;

それでは、読んで下さってありがとうございました。