夜ラチ2003
intoroduction


presented by
黒417



「………」
目覚めた時、最初に視界に飛び込んできたのは、見知らぬ部屋の天井に埋め込まれた淡いダウンライトの光だった。
寝乱れたベッドの上で、咄嗟に起きあがろうとした体を、容赦なく貫く激痛。
「……ッ!」

昨夜、バイト帰りの自分を襲った悪夢。
男に拉致され、この部屋で無理矢理体を奪われた――
それが、夢ではなく現実であることを嫌でもその身に思い知らされて、高耶は思わず悲鳴をあげそうになるのを必死で堪えた。




高耶の視線は一点に注がれている。
彼の視線の先にあるのは、扉。




少しだけ開いたままのドアから、灯が洩れている。
微かに聞こえてくるのは、自分の失踪を伝えるニュース番組。
テーブルにグラスを置くようなコトッという音、仄かに香る紫煙。
間違いなく、隣室にあの男がいる。

様子を窺いながら息を潜めてしばらくじっとしていると、どうやら男は今のところ、こちらに来る気配はないようだ。
幸い、両手首の戒めは解かれていた。
あの男は到底、マトモではない。逃げなければ……!

(……電話ッ!電話は?)
だが、室内を見まわしても、ガランとしたこの部屋には電話はおろか、窓すらなく、家具らしい家具と云えば、今、自分が寝ているベッドとその脇に置かれた小さなサイドテーブルだけで、取り上げられた衣服も見当たらない。
(畜生……ッ)
高耶はギリギリと唇を噛み締めた。
耳を凝らしても、聞こえるのは隣室からのテレビの音だけで、外の物音はまったく聞こえない。その為、今いる場所が何処なのかもまったくわからなかった。

もう一度、無駄と知りつつ室内を慎重に見まわす。
部屋の隅の、つくりつけのクロゼットと思われるルーバーの扉。
あの中に何かないだろうか。もし、自分のリュックさえ見つけられれば、中には携帯が入っている。いつまでも携帯を持とうとしない自分に、妹から半ば強引に、プレゼントされたものだ。

幼い頃、両親が離婚した為に、高耶達兄妹には母親がいない。父親も仕事で家を空けることが多く、もし自分がいなくなれば、妹は一人になってしまう。
妹の為にも、何がなんでも逃げなければならない。

僅かな望みを頼りに、気づかれないよう、高耶は慎重に身を起こした。
その途端、引き裂かれた箇所からとろっとしたものが伝い、同時に全身を貫くほどの激痛が走って、思わず声を上げそうになるのを必死で堪えた。

二人分の体液と自分が流した血液でどろどろになったシーツ。
男の所有物になると誓わされて、男を受け入れて女のように泣かされた、昨夜の狂乱が嫌でも思い出されて、高耶は屈辱と嫌悪で込み上げる吐き気に口元を覆った。

しっかりしろ!

高耶は自らを叱咤し、苦痛を堪えて必死に立ちあがると、ベッドカバーで体を覆い、そっとクロゼットへと歩み寄った。
男の様子を窺いながら、音を立てないよう慎重に扉に手をかける。
木製の扉は音もなく静かに開いた。
中を覗くと、驚いたことにそこはクロゼットではなく、奥へと続く通路になっていた。
(いったい……)

その時だった。
薄暗かった室内に突然、煌煌と灯が灯ったかと思うと、背後で楽しげな声が云った。

「おはようございます。高耶さん。何かいいものは見つかりましたか?」
「……ッ!」
咄嗟に振り向く体に、行く手を阻むようにローブ姿の男が立ちふさがる。
「まだ眠っているとばかり思っていたのに……さすがですね。繋いでおいてあげないと、油断も隙もない」
楽しげに笑う男に、高耶は舌打ちをした。
「……顔色が真っ青ですよ――無理もない。夕べ、処女をなくしたばかりで、あれだけ抱いてあげた後ですからね……大丈夫ですか?」

当然のように伸ばされる腕。
「触るなっ!」
腕を掴まれるすんでのところで悲鳴に近い声を上げて後退った高耶に、男は怪訝な顔をした。
「どうして逃げるんです?昨日、あんなに俺に抱かれてよがったくせに」
「黙れ!」
「あんなに泣いて、俺のものになると誓ったくせに。俺のを奥まで銜えて、俺の名前を叫んで、自分から腰を振って……いったい何回イったと思ってるの?忘れたとは云わせませんよ」
「うるさい!黙れって云ってんだろ!」
それ以上、淫らな言葉を聞きたくなくて、高耶は喚いた。
男の腕から逃れる為、その体はロゼットの奥……通路へと追い込まれていく。
「……そんなに怯えて……俺が怖いの?」
「誰が!てめーなんか……!」
叫ぶ高耶の声は掠れ、その顔面は色をなくして、恐怖のあまり倒れてしまいそうに見える。

高耶は喧嘩には自信があった。相手が普通の相手ならば。
だが、この男は……高耶はすでに、自分がこの狂った男から逃れられないことを本能で悟っていた。

男は諭すように云う。
「無駄なことはやめなさい。まだ逃げられるとでも思っているんですか、あなたは……」
「うるさい!来るなって云ってんだろうが!」
薄暗い通路を、じりじりと追いつめられて、高耶はついに突き当たりまで追いつめられてしまった。





現れたのは、灰色の鉄製の扉。
咄嗟に中に逃げ込もうとしたが、その扉にはノブも取っ手もなく、脇にオートロックらしい小さなパネルがついているだけで、開け方がわからない。
パニック状態の高耶はその扉をドンドンと叩き、なんとか開けようとするが、無論、そんなことでは扉は開かない。
間合いをつめられ、絶体絶命に陥り、扉に張りついた高耶が悲鳴をあげる。

「来るなッ!」
叫びながらも、なんとか扉を開けようとあがく高耶に、
「そんなにその部屋に入りたいの?いいですよ。だってそこはあなたの部屋ですからね」
男は意味ありげに笑いながら、更に歩みよった。
「うわああああ」
男に向かって振り上げられた手は、虚しく宙を切り、次の瞬間、高耶はその手首を凄まじい力で押さえ込まれていた。
「離せッ!畜生!」
もがく体からベッドカバーが外れて床に落ち、陵辱の痕だらけの無残な体があらわになる。
まるで手負いの獣のような死に物狂いの抵抗を、男はやすやすと押さえつけて、パネルに自らの掌を軽く押し当てた。

次の瞬間、小さな電子音とともにロックが外れて、鉄の扉が静かに開いた。
男の腕の中で哀れにもがく高耶の視界にも、中の様子は目に入る。
室内のあまりの異様な光景に、一瞬、固まってしまった体を、半ば引き摺るようにして、男は部屋の中央へと進んだ。




背後で音を立てて、閉まる扉。
身動きできないほど、きつく腕を掴まれ、囚われた高耶の顔が絶望に歪む。
「この部屋へは、私の掌紋でしか出入りできないようになっています。今日からここがあなたのお部屋ですよ……気に入りましたか?」
茫然としている耳元に、男はうっとりと囁く。

室内は驚くほどの広さがあり、やはり窓はなかった。
天井には格子状に鉄パイプが張り巡らされて、そこから鎖に繋がれた枷がいくつも下りている。
打ちっぱなしのコンクリートの壁一面に張られた鏡、中央に置かれた鉄製のベッド。
奥は透明なガラスで仕切られたバスルームになっている。

無造作に積みあげられた何台ものテレビモニター。
明らかに拘束を目的としたあやしげな形態の椅子や柱。
人間が余裕で入れるほどの檻。
無造作に放置されているステンレスのカートには、目を背けたくなるような淫らな玩具。

「元々はパニックルームとしてつくられた部屋を改装したんですよ……あなたの調教の為に。ここなら、どんなにイイ声を出したって誰にも聞こえない……嬉しいでしょう?あのベッドも、あの椅子も……全部、あなたの為に取り寄せたものですよ」
怒りと屈辱と絶望のあまり声も出ない高耶を見つめて、男は微笑んだ。
「そんな顔をして……何も心配はいりませんよ。愛していると云ったでしょう?外のことなんてすぐに忘れる。あなたは俺なしでいられなくなる。でも、まずは昨日の誓いを破ったお仕置きをしないとね」
狂った男は歌うように云った。

一つは、せっかくの綺麗な体を、勝手にベッドカバーで覆って隠した罪。
一つは、身も心も完全な所有物になると誓ったのに、自分から逃れようとした罪。

ベッドに押し倒され、逃れる間もなくのしかかられて、悲鳴をあげる体。
「やめろって云ってんだろ!なんで俺なんだよっ!どーしてこんなことするんだよっ!あんたのことは誰にも云わねえ…約束する……だから帰してくれ……ッ」
「まだ、そんなことを云っているんですか、あなたは……」
最後の抵抗を軽々と抑え込み、擦過傷と鬱血の残る両手首を手際よく枷で繋ぎながら、男は苦笑した。

「昨日、あれだけ抱いてあげたのに、こんなに愛しているのに……ぜんぜんわかっていないんですね」

愚かなこのひとに、教えてあげなければ。
もう逃げられないのだということを、たっぷりと、この体に。
あなたは髪の一本から爪の先まで、すべて俺のものなのだと。

両腕を戒められ、ばたつく脚も、大きく左右に開かれた状態でベッドに拘束されて、全身の自由を奪われても、じたばたと哀れな抵抗をしていた体は、男が淫具を積んだカートを徐に引き寄せ、昨夜、嫌と云うほと使われたあの薬のボトルを取り上げるのを見て、途端に青ざめ、大人しくなった。

あの薬を使われて、再び正気を失って、組み敷かれて男を受け入れ、女のように泣かされる。
それだけは、嫌だった。
それなのに。

「昨日、高耶さんはこのお薬が随分気に入っていたようですからね……たっぷりとあげましょうね」
歌うような男の声に、つぶやく声が、恐怖で掠れる。
「い、いや……だ……、やめ……」

本気で怯えている高耶が、男はたまらなくいとおしいと思った。
こんなに震えて……かわいそうに。
怖いことなんて、何もないのに。



To Be Continued.


お、お久しぶりです(こそこそ…;夜ラチ再開しました……(爆死;
もう、皆さんどんな話かも忘れていると思うので、ご挨拶がわりにイントロダクションを…(笑;;
いえ、はじめた当初はこんなに放置するはずでわ……;うう…;;;いいわけですね;ごめんなさい。
でも、2年近く(爆)ブランクが開いたおかげで、これを書き始めた当時よりは、今の方が少しはマトモなえろ(笑;というか文章が書けるようになっていると……思うので…;いくらかマシって程度ですが、はい;

とりあえず、やっと夜ラチを書ける気分になったので……これからガンガンいきます。黒だし(笑)
高耶さんが少しづつ壊れていく様を、時間かけてじっくりこれでもかって感じで書けたらいいなvv もちろん、うんと気持ち良くv(死刑

それでは、読んで下さってありがとうございましたv