夜の連続高耶さん
ラチカン飼育調教劇場・幕間


BY 椎名



気がつくと、すぐ隣に青ざめ、死んだように眠り続ける高耶の顔が目に入った。

男の顔に笑が溢れた。
改めて、愛しいひとを手に入れたのだという実感に、目眩を覚える。高耶の初めての体を貪り尽くし、昨日はどうやらそのまま眠ってしまったらしい。


直江が初めて高耶の寝顔を見たのは、一週間ほど前。不動産を生業とする直江の手許には、あらゆるマンションやアパートに適合する鍵があり、彼の家に侵入するのはたやすかった。

深夜三時。仰木家の全員が完全に寝静まった頃を見計らい、合鍵で彼の家に入った。

ごくありふれた団地の3DK。ダイニング脇の襖を開けた小さな和室が、彼の部屋だった。

布団の中で、すやすやと寝息をたてる愛しいひと。カーテンを閉めずに眠ってしまったらしく、月明かりに照らされた高耶の寝顔は、想像以上に美しかった。

直江はゴクリと唾を飲んだ。この布団を剥ぎ、パジャマを引き裂いて、今すぐ彼のソコに自分を根元までぶち込みたい。このひとを、今すぐ自分のものにしたい……

だが、そう思った直後、直江は自嘲するように笑った。焦る必要はない。どうせ、もうすぐこのひとは、自分のものになるのだから。

手にしたデジタルカメラで、安らかな寝顔を何枚も撮った。シャッター音もなく、高耶が気づく気配はない。

直江は名残惜し気にもう一度、高耶の寝顔を見つめ、心の中で「一週間後に」と囁いて、仰木家を後にした。


そうして約束の日が訪れ、今、彼の寝顔が目の前にある。
手を伸ばし、滑らかな頬に指先でそっと触れる。愛おしくて堪え切れずに、少し青ざめた唇に唇を寄せると、高耶は微かに身じろいだが、目覚める気配はなかった。

(そう……今はそうして眠っていて下さい。あなたの寝顔を、あなたを……もう少し見ていたい……)

ベッドカバーを外し、ぐったりと投げ出された裸体に目をやると、全身に自分がつけた陵辱の痕が散っていた。長時間縛られていた両手首の痕は、特に酷かった。

それを見た直江の顔に、夢見るような笑が浮かんだ。狂った男には、酷いことをしているという意識はなく、むしろその痕が酷ければ酷いほど、高耶を愛している証に思えた。

この痕が、一日も消えることのないように。淋しくて、このひとが泣くことのないように。あなたの体に、自分を刻みつけてあげる。

高耶をつくりかえる。この目が永遠に自分だけを見、この唇が永遠に自分だけの名を呼び、この腕が、体が、永遠に自分だけを求めるように……

(オウギタカヤ……あなたを、愛している)

凄まじい狂気に侵されていても、男が高耶を見つめる眼差しは、ひどく優しかった。

指先でそっと髪を梳きながら、直江は長い間、高耶の寝顔を見つめていたが、ようやく満足したのか、起こさないようにそっとベッドを降りた。


シャワーを浴び、ローブを羽織って、リビングルームのソファに腰を下ろす。
テレビの電源を入れると、朝のニュースが高耶の失踪を伝えていた。

『……今のところ身の代金要求はないが、家出の線が薄いことから、何らかの事件に巻き込まれた可能性が高いとして、仰木君の安否が気遣われています……』

男の顔が綻んだ。そしてその目が、高耶が眠っている寝室に向けられた。

楽しい番組をやっていますよ、高耶さん。
録画しておいてあげる。目が覚めたら、二人で見ましょうね。




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