「嫉妬2/リローデッド」
静寂を引き裂くように、鳴り響く電話のベル。
あられもない姿で自由を奪われ、一人取り残された高耶は、ビクッと全身を強張らせた。男が出ていく際、さりげなくコール音の音量をあげていったことを、高耶は知る由もない。
一回……二回……三回……。
殊更、不安を煽るように、大音量で激しく響くコール音。六回目で一度、電話は切れたが、僅かな間を置いて、それは再び鳴り始めた。鏡に映る、大きく上下の口を開かれた、あまりに惨めな己の姿に耐えられなくて、高耶はきつく目を瞑る。
そんな高耶を揶揄るように、鳴り続けるけたたましいコール音。
男が出ていってから、実際にはまだ数分しか経っていないが、高耶にとっては一秒一秒が永遠のように感じられる。
十回を超えるコールの後、ようやく諦めたのか電話が切れ、再び室内に静寂が戻ると、強張っていた体から一瞬、力が抜けたが、それは新たな不安を高耶にもたらしただけだった。もしかしたら、急用のあまり、今にも誰かがここにやってきはしないだろうか。
実際には、社長室内には高耶と、秘書である男しか出入りは許されていなかったが、精神的に追いつめられている今の高耶にとって、いつ誰にこんな惨めな姿を見られるかもしれないと云う恐怖は、想像以上のものだった。
「……ンッ……グッ……」
喉の奥から堪えきれずに零れる啜り泣きが、情けないうめきとなって開かれたままの唇から漏れる。
のろのろと顔をあげ、目を開けると、涙に濡れ、飲み込むことすらできずに口端から銀の糸を滴らせ、淫らな姿勢で男の帰りをひたすら待つ……惨めな自分がそこにいた。高耶は己を嘲笑うかのように、鏡を見据え、端正な顔を歪める。
(目をそらすな。今更だろう……?)
金の為、男に身を売った……これが、自分(おまえ)。
後悔なんてしていない。プライドや羞恥心、人としての様々な感情……そんなもの、あの屋敷で飼われた四十日の間に、すべて捨てたはずなのに。
……決して表には出せない、心の奥に封印した、男への密かな感情さえも。張り詰めたままで放置され、ハーネスの食い込むペニスが、ジンジンと痛む。
ぱっくりと開かれたまま閉じることの許されない襞が悲鳴をあげている……からからに乾ききった喉、涙で霞む視界、早鐘のような速さで打ち続ける心臓。
あと、どれだけ放っておかれる……いつになったら、許される?
追いつめられた体と心が生み出す想像を絶する不安と緊張から、一瞬、前後不覚に陥りかけた高耶を、残酷な現実に引き戻したのは、微かなノックの音だった。
途端に、高耶の全身が凍った。
「……!}
社長室内のドアは、二重になっている。
まず、ドアを開けると秘書室を兼ねた受付があり、奥のドアが、高耶がいる社長専用執務室へと続いているのだが、今、受付にいるはずの男はいない……。数回のノックに返事がない為、痺れを切らしたのか、「失礼します」という若い男の声とともに、ノブが回る音がした。
「……ッ!」
扉一枚隔てた向こうに、誰かがいる。そして、この部屋へと続くドアに鍵はかかっていない……高耶の緊張は限界に達し、怯えるこめかみを冷たい汗が伝う。鏡の中の自分。その背後に映っている灰色の扉を、高耶は祈るように凝視する。
幸い、相手はこちらのドアをノックすることはせず、すぐに出ていった。
ドアが閉まる音とともに、強張っていた全身からがっくりと力が抜けたが、体の震えはすぐには収まらなかった。
だが、その僅かな安堵すら許さないとでも云うように、次の瞬間、再び無情に鳴り響く電話。高耶は泣きながら首を振った。
(……もう、許してくれ……直江……)
それから、どれだけの時間が過っただろうか。
再び、隣室に誰かが入ってきた。
半ば朦朧となっていた高耶の全身が、ハッとしたように強張る。
人の動く気配……聞き慣れた靴音であの男だと確信したものの、それでも鏡を凝視する高耶の緊張は極限に達した。
鏡に映るドアノブがゆっくりと回る。そして、開いたドアから、男が姿を現すと、高耶は安堵からか、力尽きたようにがっくりと項垂れた。「ただいま戻りました。……いい子にしていましたか?」
男は怜悧な笑を浮かべ、肩で息をしている高耶の坐らされている椅子にゆっくりと歩み寄ると、背後からその顎に手をかけて上向かせた。
泣きそうな瞳が男を見る。
男は、鏡の中の高耶に向かって何かの書類を示して、こともなげに云った。
「受付に置いてありました……私が留守の間に来客があったようですね」
「……」
「どうやら、ここには入ってはこなかったようですが……淫乱なあなたのことだ。本当はこんな姿を見て欲しかったのではないですか?」
力なく、だが必死で首を振る高耶に、男は手にした書類に張りつけられている付箋紙のメモを剥がして、徐に読み上げた。
「……庶務からですね。大至急、あなたに目を通してほしいそうですよ」
男はクスッと笑って、こんなもの、どうでもいいでも云うように、『緊急』と云う朱印の押されたその書類の束をデスクに放り投げた。
デスクには、あの武藤潮撮影の高耶の笑顔の映ったページが、今も開いたままになっていた。
決して自分の前には向けられることのない、笑顔。(……高耶さん……)
微かな痛みを押しやるように、男は椅子の背を掴むと、勢いよく自分の方に向けさせた。
「……ッ」
涙に濡れた目が、縋るように自分を見る。
大きく開いた唇から、飲み込むこともできない新たな銀の糸がツーッと伝った。
「おやおや、随分お行儀の悪い……」
殊更、揶揄るように、口端を長く指先で拭ってやると、高耶は涙をいっぱいにたたえた瞳で必死で許しを乞うてきた。こんな目で見られたら、誰だって欲しくなる。
自分がどれだけひとを迷わすか、まったくわかっていない高耶を、無償に泣かせてやりたくなって、男はデスクの抽斗からポラロイドカメラと、アタッシェから淫らな玩具を取り出した。
「………ッ」
まだ、許してはもらえない……そのことを悟って、高耶の目から新たな涙が零れる。こうした淫らな姿を撮られることを、高耶が何より嫌がると知っている男は、皮肉な笑を浮かべて云った。
「私はプロのカメラマンではありませんので、残念ながら彼のように綺麗に撮ってあげることはできませんが……せっかくこんなに淫らな今日のあなたを、記念に残しておきましょうね」次の瞬間、男の取り出した細い蛇のような淫具が、解放プラグで開かれた高耶の奥へと差し込まれ、容赦なくスイッチが入れられた。
うねる淫具に敏感な奥の粘膜を刺激され、ひいっと仰け反る細い体に向け、容赦なくたかれるフラッシュ。後ろへの刺激で、緊張のあまり、一度は萎えかけたペニスが再び、痛々しいほど勃ちあがる。男は淫具のスイッチはそのままに、荒荒しく己のスラックスの前をはだけると、残酷な欲望に突き上げられるまま、パンパンに張り詰めた中のモノを取り出し、開いたままの唇に強引に飲み込ませた。
無理な態勢で男のモノを喉奥まで受け入れさせられ、あまりの苦しさに高耶がぼろぼろと涙を零すのも構わず、男は無造作に掴んだ髪を出し入れするよう前後に揺すり立てる……。
まさしく、欲望を処理する為だけにつくられた、淫らな肉の人形と化した高耶の唇を、男は己の昂りで甘く残酷にいたぶった。「……ッ!」
下の口を犯すのと、同じように深く口腔を犯され、必死で吐き気を堪える高耶の喉奥に、やがて、叩きつけるように大量の白濁が流し込まれる。男の放ったものは、決して零していけないと教えられてはいたけれど、銜えさせられたマウスピースのせいで、上手く飲み込むことすらできない。
大きく開いた口端から、己がたった今放ったばかりの白濁を滴らせ、尚も差し込まれたままの淫具の責めに啜り泣く高耶に、男は残酷にファインダーを向けては、その姿を新たな印画紙に焼きつけた。
解放プラグから男がようやく淫具を抜いてやる頃には、ハーネスの食い込むペニスの鈴口から堪えきれずに零れた透明な蜜と、それまで散々、敏感な奥の粘膜を刺激されたせいか、プラグ内を淫らな体液が伝い落ちて、シートには小さな染みができてしまっていた。
男は指先でソレを拭うと、高耶のしろいものに塗れ、開いたままの唇を辿って、尚も激しく言葉で嬲った。「男も感じると濡れるそうですが……こんなオモチャで濡れるなんて、本当に、あなたと云うひとは、なんてはしたないひとなんでしょうね」
「……ッ」
泣きながら嫌々をするように首を振る高耶に向けて、男は再び容赦なくシャッターを切る。
酷いことをしているとわかっている。
でも、止められない。
こうしている今だけは、こんなにもあなたが、俺のものだと感じられる……。
「ほら、こんなにいい顔に撮れていますよ」
淫らな写真を嫌がる高耶に目の前に翳して、男は楽しげに微笑んだ。
「……少しは反省しましたか?」
すべてのフィルムを使いきり、ようやくポラロイドを置いて、男が触れるほど近くで問いかけると、高耶はぼろぼろと泣きながら子供のように頷いた。
「また、そんな目で男を誘う……本当に悪い子ですよ、あなたは」
男はすっかり乱れてしまった前髪をかきあげてやり、マウスピースのせいで満足に飲み込むこともできず、零してしまった白濁を指先で拭ってやりながら、諭すように云った。
「もう一度聞きますよ。わからないなら、何度でも教えてあげる。あなたは……この体は誰のものです?」
「……ッ」
縋るような瞳が、必死に「おまえのものだ」と云っている。
涙に濡れた漆黒の瞳が、間近で覗き込む自分を顔をくっきりと映し出している様を、男はうっとりと見つめた。
「……そう。あなたは俺だけのものだ。この綺麗な目で、俺以外の誰かを見ることも、この唇で俺以外の名を呼ぶことも、絶対に許さない。そのことを、忘れないで……」
まるで麻薬のような甘く残酷な囁きとともに、ようやく外された口枷。「なお、え……」
酷く掠れ、震えてはいたけれど、自由を許された唇が、はっきりと男の名を呼んだ。
男は満足気に微笑むと、ゆっくりと手を伸ばして、高耶のペニスを握り込む。
「アッ……」
途端に、ビクンと痙攣するかのように跳ねる体。
感じやすい高耶の、わざと反応を楽しむように、男は尚も指を滑らせて、解放プラグでぱっくりと開かれた襞をぐるりと辿った。
「ひっ……」
悲鳴をあげて仰のく首筋。
片手でペニスと襞の入り口を弄んでやりながら、もう片方の指で胸の突起を揉むように摘んでやると、たちまち細い体がビクンと痙攣するように跳ねる。
長時間、戒められ、放置され、散々焦らされ続けた体は、これ以上もう一秒も耐えられそうになかった。「なおっ……も……」
「もう、何ですか?ちゃんと云えない子には、あげられませんよ。前にそう、教えたでしょう?」
意地の悪い囁き。高耶は、泣きながらも男を見つめ、おずおずと、だが、はっきりと……淫らな願いを口にした。「高耶さん……ッ!」
荒荒しく、ハーネスの留め具が外され、ようやく解放プラグが引き抜かれた。
「ヒーッ……」
長時間、びっちりと埋まっていたソレが出ていく時、高耶はあられもない悲鳴をあげて身を仰け反らせた。ようやく閉じることを許され、高耶の意志と関係なく激しく収縮する襞に、すぐに男の凶器が押し当てられる。
男のソレは、高耶が乱れた呼吸を整える余裕すらなく、一気に奥まで押し入ってきた。「───ッ!」
両脚を左右に大きく開いた態勢で、放ったばかりとは思えないほど大きく固く猛る肉塊を突き立てられて、これ以上ないほどの深い結合に、再び異物で大きく割られた襞と、細い体が悲鳴をあげる。
「なおっ……ヒッ……アアッ……!」
男はグッと体を倒して、尚も深く繋がろうとするかのように腰を入れ、熱い襞を抉るように犯す。限界まで突き上げられるのと同時に、まだ根元をリングで戒められたままのペニスが男の腹で擦れ、高耶は狂いそうな苦痛と快楽に身悶えた。「高耶さん……気持いいの?」
喘ぐ耳朶に囁かれる、甘く残酷な言葉。
「ひっ……クッ……」
「みんな、あなたの望んだ通りですよ……俺のでこんなに奥まで繋がって……ぼうやをこうしてもらえて……嬉しいでしょう?」
「……う……あ……」
ぼろぼろと啜り泣く高耶が、たまらなくいとおしい。繋がったままの腰を出し入れすることなく、ただ優しく揺すってやりながら、男は尚も呟いた。
それは、高耶にではなく、日頃あまり感情をあらわにすることのない男の、自分へと向けられた本音だった。
「……やっぱり、あのまま閉じ込めてしまえばよかった……」
不穏な言葉に、苦痛と快楽に喘ぎながらも一瞬、怯えた表情を見せる高耶に、男は微笑して、
「なんて顔をするの……?本当に、あなたというひとは。こんなに限界なほど泣かされているのに……あなたがそんな風だから、閉じ込めてしまいたくなるんですよ」
「なおっ……」
真剣に怯えた表情を見せる高耶に、男は自嘲したように、
「安心して……あなたのお父さんが遺したこの会社を守る……その代償に俺はあなたを買った。……約束は、守りますよ……だからせいぜいあなたも、俺を楽しませて下さいね……」
男の口からその言葉を改めて聞かされた高耶の心の何処かが、微かに痛む。そして、その言葉を吐いた男が、高耶以上に傷ついていると、高耶は知る由もない。「ああ……今更でしたね、こんな話は。さあ、あなたももっと欲しいでしょう?あげますよ。ココも、ココも。あなたが欲しいだけ、何度でもしてあげるから」
不意打ちのように再開された壊れるほどの抽送に、たちまち奪われる思考。
ガクガクと揺さぶられ、啜り泣きながら、ただ欲望を貪られる肉塊へと落ちていく哀れな獣。
「ヒッ……ア……ッ」
「高耶さんっ……!」
幾度となくその身の奥で男の白濁を受けとめ、ようやく果てることを許され、辿り着いた高みで、意識を無くした体を男はきつく抱きしめながら、デスクの上の雑誌の中で微笑む高耶に目をやった。例え……心が手に入らなくても。
この笑顔が、生涯、自分に向けられることがないとわかっていても。オウギタカヤ……このひとを、誰にも渡さない。
BY 黒417
そういうわけで、キチクにしようとすると、なぜか甘くなってしまういつもの悪い癖が出ちまいました(え?/笑; )本当は、もっとガンガンあーしてこーするはずだったのにおかしいにゃ〜(笑;黒のはずなのに(笑;
とりあえず、ぱっくり開いた上下のお口を直江のおっきいので塞いであげるというノルマはどうにか達成したつもりなのですが(って、ノルマなのかよ/笑;)あんまりえろくないような気もします…うーんι最近は、やってるシーン(コラ;)より、やるまでの(爆)あんなこんなを書く方が楽しいので、どうしてもえろシーンがはしょり気味に…(笑;
とはいえ、「直江は高耶さんに本物をあげてこそナンボ(爆)」という、爛れた信念の元、今後も全身全霊かけて精進したいと思いますデスv(バカですわ…ええ、バカですともv)それでは、読んで下さってありがとうございました(^-^;)