「嫉妬」




東京、港区にある某地下駐車場。
促されるまま、助手席に乗り込んだ高耶に、男はねぎらいの言葉をかけた。
「お疲れ様でした」
「………」
高耶は無言でシートに凭れて、目を閉じている。

この日、数社で争っていた某地区の再開発を、高耶の自社が見事勝ち取ったのである。
取引先はこの業界大手の織田ビルで、十数億の収支が見込まれるだけに、何がなんでも取りたかった仕事である。
高耶自身も先頭に立ってプランを練り、コンペでのプレゼンも高耶自ら行っただけに、口に出さなくとも、内心、高耶は胸をなでおろしていた。


男は高耶送迎の公用車と化した、愛車のウィンダムを馴れた手つきで発進させると、こともなげに云った。

「先方も大変乗り気のようですし、この取引は我が社にとって今後、大きなプラスになるでしょう。相手が織田ビルともなれば、テレビや雑誌の取材も入るでしょうから、来週から忙しくなりますよ。覚悟しておいて下さいね……夕食はどうなさいますか?」

だが、高耶は一瞥をくれただけで無言だった。この男は、高耶から一切の選択枝を奪っておいて、わざと聞いてくるのである。
答えない高耶に、男は満足げに微笑んで、
「……特にご希望がなければ、私の方で手配してしまってかまいませんね?」
そうして、男は意味ありげに続けた。
……もちろん、ホテルもね。

わかっていはいたが、今夜は自宅には帰れないことを改めて告げられて、高耶は一瞬、つらそうに顔を歪めたが、すぐに諦めたように流れる車窓の沈む夕日に目をやった。
今日は金曜日──また、悪夢の週末がはじまる。




ウォーターフロントにある、男の行きつけの会員制レストラン。
眼下に海を見下ろす個室で夕食を済ませ、店を出る間際、突然、スーツを脱ぐよう命じられて、高耶は顔を歪めた。

客のプライバシーを最優先にうたっている店である。
こちらから呼ばない限り、個室内に店員が入ってくることはない……わかってはいても、もしかしたら見られるかもしれない……そう思うと、どうしても躊躇われる。
すぐに男の叱責が飛んだ。

「何をもたもたしているんです?今更、恥かしがることもないでしょう?」
揶揄するように笑われて、ギリギリと唇を噛み締めながらも全裸になった高耶に、男はスチール製のアタッシェケースから取り出した、黒いボディハーネスを事務的に装着し始めた。

萎えたままのペニスが根元の袋ごとコックリングで締めつけられると、高耶の唇から声にならないうめきが漏れる。
次に、男は高耶にテーブルに手をついて、大きく足を開いて腰を突き出すように命じた。

のろのろと云われるまま差し出された双丘の狭間に、容赦なくハーネスに繋がれた電動プラグが沈められていく。
「……ッ」
高耶はされるまま、異物の侵入を必死で堪えるしかない。
やがて、奥までプラグが沈むと、男は抜けないようにしっかりと腰にハーネスを固定させて、満足げに微笑んだ。

「とてもよくお似合いですよ。あなたのココのサイズをきちんと図ってつくらせた特製ですからね……ぴったりでしょう?」
淫らに囁かれ、ハーネスの食い込む狭間を指でなぞられて、高耶は紅くなった顔を背けた。




店を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。スーツの下にハーネスを強要されている高耶の動きは、酷くぎこちない。

エスコートされるように恭しく開かれる車のドア。
意を決して、そっと助手席に腰を下ろすと、真下からプラグに突き上げられ、根元のリングが尚も根元をきつく戒める形となって、高耶は歯を食いしばる。
身じろぎすれば、その動きが自らを苛む結果となる為に、高耶はシートで身を固くして、ひたすらこの時が終わるのを待つしかなかった。

とはいえ、今夜の行き先はまだ告げられていない……聞くつもりもなかった。
どこに連れていかれるとしても、自分の運命が変わることはないのだから。死ぬほど抱かれて、女のように泣かされるだけ。

だが、ウィンダムが憶えのある海沿いを走り出すと、高耶の表情に怯えが走った。
何処に連れて行かれるにしても、あの場所だけはもう二度と嫌だと思っていたのに……!

かつて、後ろ盾を得る為に、男の所有となることを了承した時、四十日もの間、衣服も与えられずに首輪をつけられ、閉じ込められて、陵辱の限りを尽くされた悪夢の館。
狂乱のあの日々が思い出されて、無意識に握り締められた掌に、じっとりと汗が滲む。
「……どうかなさいましたか?」
楽しげな声に、高耶は顔を歪めたまま、視線を逸らせた。


やがて、ウィンダムは海沿いの一本道を外れて脇道に入った。
しばらく進むと民家は途絶え、辺りは真暗になる。すでに観念しているのか、高耶は無言でシートに身を預けたまま、こちらを見ようともしない。

「……退屈そうですね」
男は楽しげに話しかける。
「ダッシュボードを開けてごらんなさい?」
高耶は云われるまま、のろのろと腕を伸ばして、ダッシュボードに手をかけた。
出てきたのは、黒いリモコン。

「今、あなたの中に入っているオモチャのリモコンですよ。到着までまだ少し時間がありますから、それで遊んでいるといい。ただし」
男は徐に付け加えた。
「わかっていると思いますが、勝手にイっては駄目ですよ」




自ら入れさせられたリモコンスイッチによって、暴れ出した体内の玩具に苛まれ、必死で喘ぎ声を堪える高耶の痴態を横目で楽しみながら、尚も男が十分ほど車を走らせると、見なれた看板が目に入った。
この先、私有地につき侵入禁止。

だが、ウィンダムはかまわずに大木の生い茂る道を進んでいく。
やがて正面に侵入者を拒む、灰色の高い塀が姿を現した。
固く閉ざされた門の脇に守衛室がある。警備服に身を包んだ初老の男性に、男が手で軽く合図しただけで、門はあっけなく開いた。

敷地内に入ると、暗い上り坂の一本道が続いている。
男は悠々と車を走らせながら、片手を高耶の股間へと伸ばした。
不意に、敏感なそこに触れられて、細い体がビクンと震える。リングで締めつけられているにも関わらず、そこはすでに玩具の刺激でパンパンに勃ちあがってしまっていた。

「……ッ!」
「もう、こんなにして……いやらしいひとだ。まあ、ここに来るのは、ひさしぶりですからね……思い出して、待ちきれなくなってしまったんでしょう?」
卑下するような笑とともに、スラックスの上から撫で上げられて、高耶は嫌々と身を捩った。

「ほら。あの木を憶えているでしょう?いつか、あなたをあの木に繋いで犯してあげた時は、あなたは嬉しくて、それはよがっていましたからね」
「よ、せっ……!」
淫らな囁きに耐えられず、咄嗟に股間を弄ぶ手を払ってしまってから、高耶はハッとしたように唇を噛み締めた。見る間にその顔が青ざめる。

「主人の手を払いのけるなんて……悪い子だ」
ひどく楽しげな囁き。
「まあ、いいでしょう。時間はたっぷりありますからね……今日と明日と、時間をかけて躾けなおしてあげますよ」

そうして、木々の間をぬうように暗い坂道を昇りきった時、突然目の前が開けて、瀟洒な洋館が姿を現した。
「着きましたよ、高耶さん。あなたのケージに」





ここに連れて来られるのは、約一年ぶりだろうか。
開かれた扉から覗くエントランスは、何もかも当時のままである。
表向きは「経営学を学ぶ為」と称して、実際には男の玩具となる為に。高校卒業後の約四十日間を、高耶はこの屋敷で男と二人きりで過ごしたのだった。

悪夢のようなあの日々が蘇り、思わず怯えたように歩みを止めてしまった高耶の腰に、男は腕を回して微笑んだ。
「どうしたんですか?さあ、どうぞ」
柔らかな口調とは裏腹に、強引に奥へと連れ込まれて、高耶は声にならない声をあげる。
体内のプラグのスイッチは、切ることを許されず、いまだに入ったままである。
シンと静まり返ったエントランスに、微かなモーター音が響き渡って、高耶は羞恥に俯いた。


エントランスホールを突っ切って、正面の扉が開かれると、そこは驚くほど広いパーティルームになっていた。
円形のテーブルがいくつも置かれたホールの正面に、ステージのようなものがつくられている。男の手で、徐につけられるスポットライト。

男は嫌がる高耶を半ば引き摺るようにして、ライトの降り注ぐ無人のステージの中央まで連れていくと、背後から羽交い締めにして、揶揄るように笑った。
「どうですか?懐かしいでしょう。あなたはここで、大勢のお客様が見ている前で、こうして俺に抱かれて処女を無くしたのでしたね……」
「云うな……ッ!」
それ以上聞きたくなくて、高耶は端正な顔を歪めて叫ぶ。

目許を覆うあやしげなマスクで顔は隠されてはいたものの、破瓜の苦痛にうめく高耶を、同じマスクの奥から舐めるように見つめていた無数の視線が、一瞬、フラッシュバックする。

男は淫らに高耶の耳元に舌を差し入れながら、囁いた。
「あの時いらしていたお客様で、あなたを忘れられないと云う方は多いんですよ……いくらでも構わないから、あなたを譲ってほしいと云うお客様もね。あの時のあなたが、今の上杉物産の社長だとは、皆さん知りませんけどね……」

男は器用に背後から高耶のスーツを脱がせながら、囁く。
口調はいつも通り穏やかだが、なぜかわからないが、今日の男が恐ろしく不機嫌であることを高耶は経験から悟って、恐怖に身を震わせた。

スーツを剥ぎ取られ、ボディハーネスだけのあられもない姿になった高耶を、男はまるで目の前に客がいて、見せつけるかのように背後から嬲る。
首筋に舌を這わせ、片手で胸の突起を捏ね上げ、プラグの刺激とリングで締めつけられてパンパンに昂ぶっているペニスを淫らに扱く。

「……やめっ……ヒッ……!」
「高耶さん……!」
男も限界なのか、喘ぐ高耶から荒荒しく玩具のスイッチが入ったままのハーネスが取り去られる。ひいっと悲鳴をあげた体に、男は容赦なく獣の姿勢を取らせると、含むものを失ってヒクつく蕾に、馴らしもせずに押し入った。

「アアーッ!」
強引な挿入に、細い体が撓る。
無意識に苦痛から逃れようとする腰が強い力で引き寄せられ、大きく固い凶器で尚も深深と穿たれて、悲痛な悲鳴が無人のホールに響く。
「ヒィッ!……ひ……やめ……アアッ……!」
男は高耶の苦痛など構いもせずに、悠々と腰を打ちつけ、奥まで犯しながら囁いた。


「先日のあなたのプレゼンは、それは素晴らしいものでした。見ていて、惚れ惚れするぐらいにね……でも、だからと云って、あなたの実力で今回の仕事が取れたと思ったら大間違いですよ。織田ビルの会長は、若い男好きで裏ではそれは有名ですからね……今回の仕事は、確実にあなたに近づき、手に入れる為に撒かれた餌だ」

為す術なく揺さぶられ、息もできないほど激しく突き上げられながら、高耶はぼろぼろと涙を零す。
「二十歳にも満たないあなたが、今回の織田ビルの仕事を取ったことで、新聞雑誌も黙っていない。新たにあなたを欲しがる連中も現れるでしょう……でも、あなたは俺のものだ。そのことを改めてわからせてあげますよ」

限界まで突きあげられて、悲鳴を上げて仰け反る体。
「やめっ……なおっ……」
「オウギタカヤ……あなたは俺だけのものだ……誰にも渡さない……!」
「ア……」

男の、自分への凄まじい執着。
これほどまでに誰かに求められたことがない。体はすでにこの男の玩具でも、心だけは……そう思っていたのに、このままではいつか流されてしまう。
この男なしでいられなくなる。
悲鳴を上げてしろいものを吐き出し、熱い白濁を体内に受け止めて、泣きながら意識を飛ばした細い体を、男はきつく抱きしめた。

「高耶さん……あなたを……」
その続きを、男は心の中で囁いた。

……愛している。


BY 417


にゃ……(笑;なんか、なんだかなあ……(笑;;
一応、リーマンというか「なんちゃって会社もの」の続きです(^^;
理不尽な嫉妬で、高耶さんに無体をする直江……えへへ(壊れv

この高耶さんは、どうやら衆人監視の中でお初を奪われてしまったようですが、もちろん、高耶さんに触れたのは直江だけですの!(>_<)v417は命かけても高耶さんには直江以外、指一本、髪の毛一筋触らせません(>_<)
お客さんは指を銜え、股間を膨らませてハアハアしながら見ていただけですの(殴打)お初の様子……見たいデスカ……?(^^;

一応、この直江の素性は……劇中にはまだ出てきませんが、政界の首領(笑)が、当時まだ中学生だった某女性を手篭めにして生ませた子です(ありがち/笑v)
生まれが生まれな上、お偉いさんの妾の子なので、あまり公に出るなといわれている代わりに、好き放題な暮らしを保証されてまして、当然、財界政界、各方面に顔が聞きます。ちょっとぐらい悪さをしても大丈夫v怖いものなしです……多分(笑)
私が書いた壊れ直江の中で、手におえなさでは最強かもしれません(爆)

それでわ、あと、もう少し続く予定です。
スーツな高耶さんを脱がせて犯すのって新鮮なんですもの(死刑v
読んで下さってありがとうございましたの(>_<)v