よ……4周年……なんですの……(笑;;






putit rati after?
ANOTHER BODY CHECK




Presented by 417




記録的な冷夏となった夏が終わり、季節が秋に変わっても、高耶と男の「保護監察」と称した禁断の関係は続いていた。
互いに決して言葉に出すことはないが、むしろ切れない鎖を探しあっているかに見える。


退屈な午後の授業。
頬杖をつき、ぼんやりと窓の外を眺めながら、物思いに囚われている高耶の耳を、教師の言葉が素通りしていく。
どんよりと広がる灰色の空は、まるで今の彼の心情を表すかのようだ。

クラスメート達は、高耶のあまりの変貌に、戸惑いを隠せずにいた。
荒れ放題で、見る者すべてに噛みつくような、手負いの獣のようだった高耶が、夏休み以降、まるで別人のように変わった。
いったい、何がここまで彼を変えたのだろう。きつい眼差しはあいかわらずだが、時折見せる、ひどく物憂げな表情。
以前は人前で考え込むなど考えられず、他人に隙を見せることなどなかったのに、今の高耶は隙だらけであまりに無防備に見える。
当人は思ってもみないことだが、そんな高耶に女子生徒は皆、色めきたっていたし、高耶に密かによからぬ欲望を持つ者さえ現れはじめていた。


男を刺そうとして失敗し、男の部屋に連れ込まれ、肉の楔を打ち込まれて、プライドも何もなく己のすべてを暴かれたあの日、何かが変わった。
高耶の中で、常にあの男への、自分でも理解しがたい感情が渦巻いている。

母親が自分を捨てて家を出たあの日から、強くなりたいと思っていた。誰に心を開くことなく、誰にも頼らず、誰にも負けない強さを、力を。
そう思って生きてきたのに。
あんな風に、心をこじ開け、踏み込んできた人間ははじめてだった。
あの男の声が、言葉が、視線が、抱擁が、あの男の何もかもが、見えない鎖となって高耶の全身を雁字搦めに縛りつけている。

このままでは駄目になる。あの男に引き摺られ、あの男なしでは生きられなくなる……そうなる前に、今すぐ、あの男から逃げなければという思いと、もうあの男からは逃げられないという、相反する自虐的な快楽にも似た思い……。
(……ッ!)
背筋を、ゾクリと冷たいものが走る。
いったい、自分はこれからどうなってしまうのだろう。
灰色の窓の外を見つめながら、高耶は密かに自らの体を抱きしめた。





この日は、男の「都合」で久しぶりの逢瀬だった。
指定された時刻に例の駐車場を訪れると、そこに停車しているはずのウィンダムも、直江の姿も見当たらない。
たちまち、本人すら気づかぬうちに、高耶の機嫌が悪くなる。
この場所で落ち合い、既に無数の情事を繰り返したが、高耶の方が待たされるのは、これがはじめてのことだった。
(あのヤロー……)
そう思ってしまってから、高耶は一人ハッとしたように紅くなった顔を背けた。

無人の駐車場で、抱かれる為だけに、所在なく男を待つ。
そんな自分に心底嫌悪しながらも、その視線は無意識に今にもこの場所にやってくるだろう、ウィンダムの姿を追っている。
何処かで事故でもあったのだろうか?先ほどから複数のパトカーか救急車と思しき、けたたましいサイレンが近づいては遠ざかり、それが、より高耶の苛立ちと不安を煽る。

そして、この日。高耶がどれだけ待っても、ついに男が姿を現すことはなかった。





「……何処をほっつき歩いていやがった」
完全に日が落ちた頃、ようやく自宅へと戻った高耶への、父親の第一声はそれだった。
室内に充満する、いつにもまして激しいアルコール臭。
定職にも就かず、毎日、朝から正体をなくすほど飲んだくれては暴力を振るう父親に、吐き気を通り越して殺意すら覚える。
すっぽかしをくらって、ただでさえ虫の居所の最悪だった高耶は、今にも殴りかかりそうになるのを必死に堪え、無視して自室に篭ろうとしたが、こんな日に限って父親は高耶の腕を掴んで、執拗に絡んできた。
「毎日フラフラと出歩きやがって……ガキが。いっちょまえに女でもできたか?」
真赤に充血した目でせせら笑う父親への、怒りと嫌悪から派手にその腕を振り払うと、父親はカッとなって殴りかかってきた。
鈍い音とともに、壁までふっとばされて、高耶が切れた口端から滴る鮮血を拭いながら立ちあがり、きつく睨み返すと、父親はチッと舌打ちして、表へ出ていってしまった。





翌朝、高耶が最悪の気分で目覚めると、すでに始業時刻を過ぎていた。
いつのまに戻ってきたのか、ダイニングの床には父親がいつものように酔いつぶれて眠り込んでいる。凄まじいアルコール臭を撒き散らし、だらしなく伸びている姿に舌打ちしつつ、洗面に向かい、鏡に映る自分の顔を見て、高耶は自嘲した。

昨夜、殴られたせいで黒く腫れあがった口端、暗い野良犬のような目つき。
自分とろくでなしのあの父親の、いったい何処が違うというのだろう。
やり場のない苛立ちをどうすることもできず、頭から冷水をかぶる。
このまま、家にいたくはなかった。学校にも行きたくない。かといって、何処かに繰り出す金などあるはずもなく、高耶は鏡の中の自分に向かい、口端を歪めて笑った。
(……久しぶりに、やるか)

あてもなく家を出た高耶の足は、いつもの繁華街に向かっていた。小遣い稼ぎのスリは、男とはじめて出会ったあの日、「二度としない」と誓わされて以来である。
もし、それを指摘されれば、本人は怒って否定するだろうが、まるで男への当て付けといわんばかりに、ポケットの小銭で買い求めた煙草をふかし、カモを求めてぶらついていると、ふと通りの隅に、打ち捨てられている号外の大きな見出しが眼に止まった。

『夕暮の松本郊外、麻薬捜査で銃撃戦。犯人、捜査官共に重傷』
(……!)
黒地に大きく白抜きで印刷されたその文字に、高耶は反射的に駆け寄って、ぼろぼろの号外を奪うように拾い上げ、食い入るように見入った。
発行された日付は昨日の夜となっている。
新聞どころか、テレビすら見ていなかったのでまったく知らなかったが、昨夜、盛んにサイレンが鳴っていたのは、この事件のせいだったのか。

高耶は、必死に記事を眼で追った。犯人グループは複数の外国人で、潜伏していた廃墟に突入した捜査官ともども、多数の負傷者が出たとある。
そして、警察側の負傷者名に男の名と、意識不明の文字を見つけた時、高耶はその場に茫然と立ち尽した。
あいつが……直江が、意識不明?

男の左胸の銃創と、いつか交わした会話が蘇る。
(……お前)
(なんです?)
(……胸の傷……どうしたんだよ)
(こういう仕事をしていますからね。あと1cmずれていたら、こうして生きてはいなかったでしょうね。残念ですか?)

「……ッ」
新聞によれば、直江は長野市内の警察病院に収容されているらしい。
発作的に駅に向かって駆けだしそうになって、高耶はギリギリのところで踏み止まった。
自分のような素行の悪いガキがのこのこ出かけていって、あっさり面会などできるわけがないし、第一、自分と直江の関係を、どう説明する?
それに、病院には男の家族も来ているだろうし、自分が行くことは、男にとっては迷惑なだけに違いない。

そう、自分に云い聞かせつつも、高耶は酷く動揺していた。
いつも自分を支配し、好き勝手に弄ぶあの男が、病院のベッドで呼吸器をつけられて横たわっている……。
散々、翻弄した上に、勝手に死にかけている男に対して、込み上げてきたのは、やり場のない怒りだった。
(……ふざけるな)
なんでオレが、あいつの心配をしなければいけない?
自分にあんなことをして……一時は殺してやりたいほど憎んでいた相手ではないか。
(お前なんか……!)
高耶は号外を投げ捨て、きつく顔を上げると、何事もなかったように歩きはじめた。





それから一週間。
多数の負傷者を出した銃撃戦のニュースは、連日、新聞やテレビで大きく取り上げられ、報道によって高耶は、直江が命を取りとめたことを知った。

この日も授業を終えた高耶の足は、自宅ではなく、繁華街へと向かっていた。
連日、入り浸っているゲームセンターで、得意のゲームを選んで小銭を投げ入れるが、まったく集中できず、あっという間にゲームオーバーになってしまい、高耶はチッと舌打ちした。
あんな奴、どうなろうと構うものかと虚勢をはっていても、実際は男の体調が気になって何も手につかず、この一週間、食事もろくに喉を通らない有り様だった。
そんな自分に苛立ちながら、煙草を銜え、火をつけて一息つくと、まもなく、いつも男と待ち合わせていた時刻になる。
無意識に、時計に眼をやってしまう自分が嫌で、ゲームセンターを飛び出してみたものの、行くあてがあるはずもなく、結局、高耶の足は例の駐車場へと向かってしまっていた。

当然だが、駐車場にウィンダムの姿はない。わかっている。
愚かな自分に、自虐的な笑を浮かべ、それと同時に、意志と関係なく涙が込み上げてくる。
(……畜生ッ)
感情のコントロールができず、不意に泣きそうになり、慌てて目元を拭って、足早にその場を立ち去ろうとした時。
涙に濡れた視界に、見慣れたダークグリーンの高級車がスローモーションのようにこちらに向かって滑り込んで来るのが映った。



驚いたように立ち尽くしている高耶のすぐ脇に、ウィンダムが横付けされるや否や、すぐに運転席のドアが開いて男が降り立った。
いつものように黒いスーツを着込んでいる為、怪我の度合いはわからない。
今回の入院のせいで幾分、やつれているようにも見えるが、その表情は以前と変わりなく穏やかだった。
「……高耶さん」
聞きなれたイントネーションで名前を呼ばれて、涙の滲む瞳を見られまいと、高耶は視線を逸らせた。久しぶりに見る、怒っているような、拗ねているような横顔を眩しげに見つめ、男はすまなそうに微笑みかける。

「……どうやら、お待たせしてしまったようですね」
「……」
高耶は応えない。つれない肩に腕を伸ばし、そっと引き寄せてこちらを向かせ、もう一度、慈しむように名前を呼んでやると、その体が微かだが、ビクンと跳ねた。
「高耶さん……」
抱きしめてくる男の体からは、いつもの香水の残り香ではなく、仄かに病院特有の消毒薬の匂いがする。
いとしい体が小刻みに震えているのをその身で感じて、男は眼を細めた。

「この前はすっぽかしてしまってすみませんでした。……ちょっと仕事がたて込んでしまいましてね……怒っていますか?」
更に何かを云いかけて、男は高耶の制服のシャツの胸ポケットに煙草が入っているのに気づくと、苦笑しながらその箱を取り上げた。

「俺がほんの少し眼を離した隙に、また煙草を吸って……煙草は未成年の体にはよくないと云ったでしょう。もう吸わないと誓ったくせに。本当に困ったひとですねえ。それとも……お仕置きされたかったんですか?」
高耶は不貞腐れた様子でそっぽを向いたが、男の口調は、諌めるどころか、どこか楽しげで、その声には甘い毒すら孕んでいた。
「煙草以外にも、俺の眼を盗んで、おイタをしていたのではありませんか?あなたのような悪い子は、身柄を確保して、念入りに取調べをしないといけませんね」
男は高耶を助手席へと促しながら、言葉の端々に見え隠れする欲望を隠しもせず、シートに沈んだ耳朶に唇を寄せて甘く囁いた。
「久しぶりですからね……明日は学校はお休みでしょう?今夜は私の部屋で、たっぷりと調べて差し上げますよ」
高耶の体に、ゾクリとするものが走った。





男の部屋に着き、先に室内に入るように促され、背後でドアの閉まる音を聞くや否や、高耶は男の腕の中にきつく抱き込まれていた。
「……ッ!」
そのまま、もつれるように寝室へ雪崩れ込み、細い体をベッドへ押し倒すと体重をかけて覆い被さり、細い顎を押さえて、噛みつくように口づける。
「……ンンッ!」
強引に差し込まれた舌で、散々、口内を蹂躪されて、呼吸を求めて逃れようとする唇を再び吸われる。
久しぶりの唇を散々に貪り、ようやく唇を離すと、男は細い顎を押さえたまま、触れるほど近くで囁いた。
「高耶さん……少し痩せましたね。……もしかして、心配して下さっていたとか?」
「誰がっ!」
それまでずっと無言だったくせに、反射的に憎まれ口を叩く高耶が、たまらなくいとおしい。

「それはそうと、高耶さん」
男は真顔になって、形のいい唇の端を指先で撫でた。
途端、高耶の体がビクッと震える。消えかけているが、まだ微かに傷が残っている。先週、父親に殴られた痕だ。
「……これはどうしたんです?……また、お父さんに?」
「違うっ」
高耶は否定したが、その態度から、父親に殴られたのは一目瞭然だった。
男は眉を顰める。このひとに手をあげ、この体に傷をつけるなんて、例え、実の親だろうと許せない。
警部補と云う自らの立場を利用すれば、虐待から保護する名目で高耶を父親から引き離すのは簡単だろうが、どんな酷い親でも、高耶にとってはたった一人の親である。
必死に庇おうとする姿に、男は少しの間、何かを思案していたが、今はそれ以上、考えるのをやめた。

……腕の中に高耶がいる。
病院で意識のない間、男はずっと高耶の夢を見ていた。
再び、目覚めることができたなら、二度とあのひとを放さないと。

「高耶さん……」
男は、熱くその名を囁きながら、徐にジャケットを脱ぎにかかった。
ネクタイを緩め、徐にシャツも脱ぎ捨てる。すると、たくましい左肩から胸にかけて真っ白い包帯がきつく巻かれているのを見て、高耶はゴクリと息を飲んだ。
見る間に青ざめるいとしいひとに、
「たいしたことはないんですよ」
と、なだめるように男は微笑むが、高耶は言葉もない。
「……でも、今日の取調べは、あなたにもうんと協力して頂かないとね?」
その言葉の真の意味を察して、カッと赤くなる頬を男はいとおしげに撫でた。男にとっては、己の怪我ですら、高耶をとらえる武器でしかない。
男はゆっくりと愛しい体の上に上体を倒して、甘く囁いた。

「さあ、高耶さん。俺のいない間、どうしていたの?いまからたっぷりと調べてあげますよ……」


つ…つづく…かな…(笑;



お…おひさしぶりです…(コソコソ;
Xデー以降、初の更新がこんな、思いきり中途半端な話でごめんなさい(>_<;
なんとか、最後まで…と思ったんですが、今は事情でどうしても時間がなくて、間に合いませんでしたιιがっくり;;;
しかも、お誕生日とまったく関係ないし(爆;;だって…だって…(>_<。。。書けなかったんだもん;;;こんなんでも…何もないよりは……(苦;

これは、去年の夏頃、ちらっと書いていたものです。それに、魔のXデー以降(笑;こそこそ書き足していったら、なんか前の2作と繋がらなくなってしまったような……;;
まあ、前2作は黒417作なので(笑;コレは417が書いたプチラチのパラレルってことで…まあ、そういうことで……ははは(^-^;)>って、おい;
他にも、書きかけがたくさんあるのはわかってるんですが、今はあまり暗い話は書きたくない気分というか、書けないので…;;;
すみませんが;アレやコレやソレの続きは…もう少し、待っていて下さいです(^-^;)

それでは読んで下さってありがとうございました。