「BODY Check2〜後編」




Presented by 黒417




繁華街から少し外れたコンドミニアムの最上階。
意識のない体を軽々と横抱きにして、男が室内へと入ってきた。

とある事件の捜査の為、男が本庁より松本市警に派遣されて一ヶ月。
当初は市内のホテルを泊まり歩いていたものの、捜査が難航し、長期滞在が避けられなくなった為に、つい先日、この部屋に移ったばかりである。

いかにも仮住まいと云った、私物らしきものが殆ど見当たらない殺風景な寝室の、セミダブルのベッドに意識のない細い体を横たえる。
今日、出会った時から気にかかっていた、細い右手に無造作に巻かれた包帯を取り去ると、ガラスか何かの破片で切ったような、無数の切り傷をそこに認めて、男の顔が曇った。

備え付けの救急箱から、取り出した清潔なガーゼを傷口にあてがい、その上からきちんと包帯を巻きなおしてやる。
そうしておいて、徐に腕を伸ばして、シャツのボタンに手をかけてはだけると、下着ごとジーンズも取り去って一糸纏わぬ姿にさせ、高耶が目覚めた時、暴れないように両腕をそれぞれベッドの柱に手錠で繋いだ。


こんなことをして……どうかしている。
そう理性ではわかっていても、高耶を前に、自分を止めることなど出来ない。男は自嘲するように微笑んで、ゆっくりとシャワー室へと向かった。







高耶が目覚めたのは、それからまもなくのことだった。
最初に視界に飛び込んできたのは、見覚えのない白い天井。わけもわからず起き上がろうとして、胸に重い鈍痛を感じ、無意識に手をやろうとして自由にならず……両手首に冷たい金属の感触を感じて、ようやく両腕が手錠で戒められていることに気づく。
「なっ……、」
それだけではなかった。素肌に感じるシーツの感触。
知らない間に衣服を剥がれて、全裸で繋がれていると云う現実に、高耶の端正な顔が見る間に青ざめる。
「……ッ!」

一瞬、置いて、何が起きたか理解した。ここが何処かは知らないが、あの駐車場で男を刺そうとして失敗し、再び犯された上、連れて来られた……。
「ち、くしょっ……!」
滅茶苦茶に両腕を動かしても、頭上で鎖が虚しい音を立てるだけで、当然、手錠はビクともしない。暴れたせいで、体内に残っていた男の残滓が内腿を伝うのをリアルに感じて、高耶は屈辱に顔を歪めた。


鎖の音を聞きつけたのだろう、あの男が何処からともなく現れた。
「気がついたようですね。そんなに暴れるものではありませんよ。手首を怪我してしまいますよ」
男はいつもの黒いスーツ姿ではなかった。シャワーを浴びていたのだろう、濡れた髪もそのままで、バスローブを羽織っている。

ギリッと唇を噛み締める高耶の横に、男はゆったりと腰を下ろして柔らかな前髪に腕を伸ばす。嫌がる高耶が顔を背けるのも構わず、男は性のいい髪に強引に指を差しいれた。
「触るな……ッ!」
形のいい唇から、零れる拒絶の言葉さえ、いとおしい。まだ青年になりきれない、しなやかな肢体を見下ろして、このひとには衣服などいらないと男は思った。
男は口端に冷たい笑を浮かべて、高耶を真上から覗き込む。

「……震えていますね。俺が怖いの……?」
揶揄るように囁くと、高耶は思った通りの反応を返してくる。
「誰が、お前なんか……ッ」
本当は怖くてたまらないくせに。精一杯強がって、きつく見返す瞳。薄い胸が激しく上下している。怯えているのか、それとも……

「……だよ」
顔を背けたまま、高耶が何か呟いたので、男が細い顎に手をかけてこちらを向かせ、覗き込むように問いかけた。
「……何です?」
すると、怒りに燃える瞳が射抜くように男を見据えた。
「ここは何処だよっ……こんな真似しやがって!この手錠外せよっ!オレをいったいどうするつもりだよ!」

喚く高耶を、男は宥めるように微笑して、
「そんなに暴れないで……何をするのかなんて、そんなのわかっているでしょう?あなたを徹底的に調べるんですよ。時間をかけてたっぷりとね。衣服を脱がせたのは、ボディチェックの一環ですし、手錠は……まあ、不自由でしょうけれど、こちらとしても、取調べの最中に、またナイフで襲われたくはありませんからね。心配しなくても、取調べが終われば、ちゃんとおうちまで送り届けてあげますよ」

「……ッ」
ギリッと唇を噛み締める高耶に、男は尚も囁く。
「あなたには、いろいろと聞きたいことがあるんです。それに……」
鳶色の瞳がスッと細められる。込み上げる欲望を隠しもせず、微かに口端を歪ませて、細い首筋を、男は卑猥な手付きで撫であげた。

「知りたいんですよ……あなたを。保護観察中のあなたと、親睦を深めるのは当然でしょう?どこをどうしてあげたら、いちばん嬉しいか、どうしてあげたら、いい声で鳴くのか……あなたが隠している、あなた自身も知らない、あなたの何もかもを、俺が暴いてあげる。大人ぶって悪ぶってみせていたって、あなたは所詮子供だ。あなたに、本当の大人の快楽を教えてあげる。いい子で捜査に協力してくれれば、ちゃんとご褒美もあげますよ」

耳を塞ぎたくなるほどのあまりの淫らな囁きに、真赤になり、それまで言葉をなくしていた高耶が、激昂して叫んだ。
「だ、黙って聞いてりゃ云いたい放題ほざきやがって……ふざけんなッ!!」

一瞬の沈黙の後、男は細い顎を掴んで云った。
「……あなたのせいですよ、仰木高耶」
男の云わんとすることが、高耶にはわからない。
「何云……ッ、」
男の顔からいつしか笑が消えている。驚くほど真剣な、苦しげな声で、男は繰り返した。
「……あなたのせいだ」

──あなたが、俺を狂わせた。

「……ッ、」
男の変化に、尋常でないものを感じたのだろう、真剣に怯えはじめた高耶に、男はまたいつもの微笑を浮かべ、ゆっくりと体を倒して覆い被さった。
「やめろッ……!」
また犯される……恐怖と嫌悪と屈辱に強張る体に、男は残酷に囁く。
「そんなに怖がらないで……あなただって、わかっているでしょう?俺とのこの行為が、痛いだけじゃないことを」

嫌がってもがく体を抱き込むように、回された男の手には高耶も気づかぬうちに、小さな錠剤が握られている。
体を繋げるあの場所に、容赦なく錠剤が押し当てられ、先の行為の残滓に濡れる蕾は、高耶の意志と関係なく、錠剤と男の指をぬるりと飲み込んでいく。
体の深いところに押し込まれた小さな異物と、生き物のように動く指の感触に、ビクンと体を仰け反らせ、悲鳴をあげた耳元に、淫らな声が囁いた。

どうせ逃げられはしないのだから──あなたもうんと楽しめばいい。








「ち、くしょ……っ」
何をされようと、絶対に感じてなんてやらない……そんな高耶の、ささやかな抵抗を嘲笑うかのように、男は無理矢理飲み込ませた長い指で容赦なく熱い襞を責め立てる。
悔し涙を滲ませ、必死に声を堪えようとする高耶の、探り当てた栗の実大のソレを、男は執拗に指先で刺激しながら、紅く尖った胸の片方を口に含んで吸い上げた。

「やぁっ……」
思わずあげてしまった自らの声に、真赤になって顔を背ける高耶に、男は楽しげに笑を浮かべながら、含んだソレに軽く歯を立ててやる。
「ヒッ」
甘い痛みに耐えられず、掠れた悲鳴とともに、細い体が男の腕の中でビクンと撓り、指を銜えた襞がきゅっと締まると、男は高耶を覗き込んで揶揄るように囁いた。

「……男のくせに、高耶さんはココがいいみたいですね」
男は笑って、嫌がる高耶の胸の尖りを再び口に含んではきつく吸い上げる。
「よ……せっ、やっ……」
そうしている間も、埋め込まれた指で敏感な襞を出し入れされて、否定しようと口を開けば、とんでもない言葉を口走ってしまいそうで、高耶は泣きながら歯を食いしばった。


両方の胸の突起が、腫れあがるほどきつく、唇と指で執拗に愛されて、堪えきれない切ない喘ぎがひっきりなしに零れはじめる頃、淫らな尋問がはじまった。

「高耶さん……あなたのファイルを見ましたよ……去年のクリスマスイブ、あなたは麻薬密売容疑で松本市警に拘置されていますね」
埋め込んだ指でぐるりと内部を掻き回しながら、男は耳朶に囁く。
「……んなのっ……お前に……ッ」
感じやすい襞を蹂躙され、激しく喘ぎながらも、精一杯の抵抗とばかりに憎まれ口を叩く高耶に、
「関係ない、とは云わせませんよ」
と、男は冷たく告げて、容赦なく二本目の指を潜り込ませた。

「ヒイッ……やめ……!」
ろくに馴らしもせずに陵辱されたばかりの箇所に、二本目はきつい。痛みに涙を滲ませる高耶を責め立てながら、男は容赦なく、
「答えて、高耶さん。三井と云う少年をリーダーとした数人が、あなたが密売をしていると告げたことがきっかけで、拘置されたそうですが……彼らとは、いったいどんな関係だったんです?」

二本の指をバラバラに動かし、敏感な粘膜を責め立てながら、高耶の過去に関わった、見知らぬ少年達に対する嫉妬を隠しもせずに、男は問い詰める。
あまりの責めに、ぼろぼろと涙を零しながら、高耶は喘ぎつつも掠れた声で、必死に声を絞り出す。
「な…でも……っ、ねえよっ……ただの……」
「友達、ですか?」
男は冷たく笑った。

「まあ、いいでしょう。それはそうと高耶さん。そんな連中とつきあいがあったなんて……あなた、まさか麻薬を使ったことはないでしょうね?」
その問いかけに対して、ほんの一瞬、高耶の表情に走った動揺のようなものを、男は見逃さなかった。
「……あるんですか?」
男の眉が顰められた。飲酒や喫煙ならまだしも、麻薬となれば話は別だ。到底、「おイタ」ではすまされない。

答えようとしない高耶の襞を、男は根元まで沈めた二本の指で容赦なく抉る。
たちまちヒイッと悲鳴をあげて、高耶は息も絶え絶えに答えた。
「一回、だけ、だ……」
「……本当に?嘘をついては駄目ですよ?」
きつく問い詰める男に、高耶は必死で声を振り絞る。
「うそ、じゃね……無理矢理……打たれ……」
「無理矢理押さえ付けられて、打たれたの?誰にやられたんです?その三井と云う少年達にですか?」
甘い責めに喘ぎ、泣きながらも必死に頷く高耶を見つめて、男は何か、考え込んでいるようだった。


数人がかりで押さえ付けられ、薬を打たれる高耶。
薬で恍惚となったこのひとの表情を、自分の知らない少年達が確かに見たのだと思うと、目の前が真赤になる。
当然だが、自分の知らない高耶を知っている人間がこの世にいると云う現実に、男は狂いそうなほどの嫉妬を抑えられずにはいられなかった。
そして、無力な高耶への理不尽な怒り。……いっそ、このまま閉じ込めてやろうか。

自分しか知らない、何処か遠くに。






「あ……」
ふいに、組み敷かれている高耶の唇から切ない喘ぎが漏れたので、男は暗い思考を中断し、涙に濡れた顔に見入った。
自分があげてしまった女のような喘ぎに、真赤になって視線を逸らしたものの、高耶自身、自分に何が起きたのかわからないようで、怯える姿がいとおしい。どうやら、先ほど奥まで飲み込ませた錠剤が、熱い襞の熱で溶け、効果を発揮しだしたらしかった。

(効いてきましたね……)
仕事柄、男は合法、非合法含め、あらゆるドラッグの知識があり、その気になれば入手も容易である。薬などなくとも、経験の少ない高耶を堕とすことなど造作のないことだったが、男はあえて強力な催淫剤を、密かに高耶の体に用いたのだった。
この体に底無しの肉の快楽をたっぷりと教え込んで、自分から離れられなくする為に。

通常は経口投与するべき薬を敏感な粘膜から直接吸収させられたのだから、その効果は激烈なはずである。
淫らな薬を使われたことなど知る由のない高耶に、男は殊更、揶揄るように囁いた。

「どうしたんですか……?急に、そんなに切ない声を出して」
何か云い返す余裕もなく、高耶は唇を切れるほど噛み締めて、尚もあげそうになる声を必死で堪えている。いったい、自分がどうなってしまったのかわからなかった。

突然、全身が灼けるように熱くなり、呼吸が激しく乱れ、男の指を銜えさせられている箇所から、ひっきりなしに甘い痛痒感が込み上げて、其処をもっと太いもので擦ってほしくてたまらなくなった。
それだけではなかった。意志とは関係なく、痛いほど張り詰めるペニス。すべての血液が其処にいってしまったように、ドクドクと脈打っているのが触れずとも自分でもわかる。

指などではなく、男の凶器で思いきり貫かれながら、ソレを思いきり扱いて、しろいものを吐き出したい……狂うほどの淫らな欲求。内腿が引き攣れ、今にも射精したくて睾丸が悲鳴をあげている。

少しでもヨクなろうと無意識に締め付けてくる襞と、パンパンに撓り返った若い昂ぶりを認めて、男はクスクスと笑いながら、
「おやおや。ぼうやをこんなにして……こんなに酷い尋問をされているのに、感じてしまったんですか?酷くされるのが好きだなんて、随分いやらしいひとですね」
意地悪く囁き、すでに先走りの滲んでいる先端を、ピン、と指で弾いてやると、高耶はあられもない悲鳴をあげて身を捩る。
その動きのせいで、今度は指を銜えている後ろの襞から、尚も激しい快楽が突き上げ、どうしていいかわからず、堪えることもできずに高耶は啜り泣いた。

泣き顔がいとおしく、もっと泣かせてやりたいと云う欲望と、跪いて死ぬほど優しくしてあげたいと云う、二つの思いが男の中に交錯する。
「高耶さん……」
今にも、淫らな哀願を紡いでしまいそうな唇を、どんなに噛み締めて堪えようとしても、体内を荒れ狂う快楽への欲求の前に、高耶はあまりにも無力だった。
「………ッ」
切れるほど噛み締められていた唇がおずおずと開かれる。殺してやりたいほど憎い、自分にこんなことをする酷い男の名を……泣きながら、なおえ、と。



「高耶さん……!」
名前を呼ばれて、男の中の何かが切れた。
触れそうなほど近くで、自分の名を呼ぶ唇に、噛みつくように口づけ、弱々しく逃れようとする唇に強引に舌を挿し入れて激しく絡ませ。
若い昂ぶりに己の凶器をローブ越しに押しつけながら、奥深くまで埋め込んだままの指で熱い襞を蹂躪する。
口付けを振りきり、悲鳴をあげる細い体の胸の突起に、脇腹に、男は執拗に唇を這わせ、ついには今にも弾けそうな若い楔に指を絡ませ、口に含んだ。

「やあっ……そこっ……ア……ッ、」
後ろを二本の指で犯されながら、生まれてはじめてひとの口に含まれ、もう片方の指で、根元の袋から搾り出すようにされては、ただでさえ感じやすく、淫らな薬に支配されている今の高耶にはひとたまりもない。

「はな、せ……そこっ……アアッ、も……出……ッ、」
今、この瞬間にも、男の口の中に放ってしまう……最後の抵抗とばかりに弱々しく身を捩る細い体を叱咤するように、男は尚もきつく吸い上げる。
「ヒイッ……!」
叫んだ高耶が、顎を突き上げ、内腿が痙攣するや否や、男の唇の中で、あっけなく若い楔が弾けた。

「アーッ……」
激しく痙攣し、飲み込んだ指をきゅうきゅうと締めつけながら、断続的に吐き出される蜜を、男は躊躇いもせずに飲み干す。
放出の余韻を味わう余裕などない。
すべてを出しきっても、若いペニスは萎えることがなかった。催淫剤の効果だが、それを知らない高耶は、放っても尚、張り詰めたままの己の淫らさにぼろぼろと涙を零す。
高耶の生命を伝える甘美な蜜を、一滴たりとも零さずしっかりと味わい、飲み切って、ようやく男は顔を上げた。

「高耶さん……あなたの蜜は……甘いですよ……」
肩で激しく息をしながら、真赤になって背ける顎を抑えつけ、鳶色の瞳がうっとりと囁く。
「今度は俺のを、飲ませてあげる。あなたの可愛い、下のお口に」
ローブを脱ぎ捨てた男の、心臓の上辺りに、あきらかにそれとわかる銃創を認めて、高耶は一瞬、声をなくす。

構わず、覆い被さってくる男の肌の熱さと確かさ。
容赦なく両足を高々と抱え上げられ、逃れることもできずに圧倒的な力で深深と貫かれた瞬間。
高耶は悲鳴をあげ、すべての思考を停止させた。








「アアッ……ヒッ……、なおっ……」
淫らな熱に荒れ狂う襞を、熱くて固い肉の凶器が容赦なく引き裂き、出入りする。
すでに幾度、吐精し、男の白濁を飲み込んだだろうか。

強力な催淫剤の効果で、箍が外れてしまった高耶に、男は思いつく限りの淫らな行為を強要する。
マトモな精神状態なら、決して見せることのない激しい痴態を晒す高耶に、男は繰り返しファインダーを向けては、その姿を何枚も印画紙に焼きつけた。

同時に、男は高耶にすべてを白状させた。
どうされると気持ちいいか、どうしてほしいか、今、どんな感じなのか……高耶は喘ぎ、啜り泣きながら必死に言葉を紡ぐ。少しでも言葉が途切れれば、容赦のない責めが加えられた。

肉による淫らな尋問は、高耶の過去にも及んだ。
それまで誰にも話したことのない、心の奥底に閉じ込めていた母親に捨てられた時の淋しさ、アルコール中毒の父親への憤り、密売容疑で拘置されたあの夜、檻の中で感じた凍えるような孤独……
これまでに高耶が関わったすべての人間の名や、幼い頃、連れられて行った場所や覚えのある風景、今まで高耶の身に起こったどんなに些細な出来事さえも、男は執拗に問い詰めた。





「やあっ……なおっ……い……アアッ……」
何度吐き出しても、萎えることを忘れた昂ぶりを、淫らに扱かれ、後ろを激しく突き上げられて、いったい自分が何を口走っているのか、今の高耶には理解できない。
組み敷いた細い体を、壊れるほど突き上げながら、男は狂ったようにいとしい名前を繰り返し、その囁きが、高耶を呪縛する。
「も、なおっ……駄目……ッ、ヒッ……!」
「高耶さん……!」
互いの名を叫び、これ以上ないほど深いところで繋がったまま、二人同時に達する度、男の中の獣が叫ぶ。
まだまだだ。ぜんぜん足りない。もっと知りたい。
このひとが欲しい。このひとをもっと搾りつくしたい。

このひとへの思いは、こんなものじゃない。
正気をなくした獣同志のSEXは、まさしく底無しで果てが無かった。









日の暮れかけた室内。
寝乱れたベッドと、フローリングを敷き詰めた床のあちらこちらに、この数時間の狂気を焼きつけた、淫らなポラロイドが散乱している。

開かれた両足を高々と抱え上げられたまま、あられもなく肢体を晒し、完全に意識を無くした高耶の上で、男は肩で息をしていた。
まだ繋がったままの襞から、萎えた肉塊をずるりと引き摺り出すと、紅く爛れた蕾から、男が放った白濁がとめどもなく零れて内腿を伝う。

激しすぎる行為を物語るように、細い体のあちこちにはまるで花びらのような痕が全身に散っている。ずっと手錠をかけられたままだった細い両手首は、擦過傷を起こして、ところどころ血が滲んでいた。

酷いことをした……今もしていると、わかっている。
それでも……。
意識のない高耶の首筋に、胸に、男は顔を埋める。
薄い胸に顔を押し当て、トクン、トクン、と云う心臓の音を聞きながら、男は思った。

本当に……このまま、攫ってしまおうか。
このひとを、自由にさせておいては駄目だ。
このひとを知れば、誰だって欲しくなる。何を迷っている?
今すぐ攫ってしまえ。
この、簡単に折ってしまえそうな、細くて綺麗な首に、首輪をつけて閉じ込めて。

振り払っても振り払っても、込み上げる愚かな妄想。
男は細い体をかき抱く腕に、力を込めた。
(高耶さん……!)
あなたを……帰したくない。










翌朝早朝。
取調べが終わったら、送り届けると云う最初の言葉通り、男は高耶を自宅のある団地の入り口まで送ってきていた。

「着きましたよ……」
車が止まっても、なかなか降りようとしない高耶に、男が怪訝そうに問いかける。
「……どうしたんですか?」
昨夜、あの激しい行為の後、ぐったりした高耶をバスルームに運んで、その身を清めてやっている時、バスタブの中で目覚めた時から、高耶は寡黙だった。
昨日は白昼、ナイフを振り翳して、自分を殺そうとした高耶だ。その体を力づくで犯し、部屋に連れ込み、尚もあれだけのことをしたのだから、どれだけ恨まれても仕方ないとはわかっているが……。
到底、口など聞きたくもないだろうが、あまりに寡黙すぎる高耶の様子に、もしかしたらショックで失語症でも起こしたのではと不安になって、男は再度呼びかけた。

「高耶さん?」
「………」
躊躇いがちに、何かを云いかけて再び口を噤んだ細い顎に、拒絶されるかと思いつつ伸ばした腕は、以外にも払われることはなかった。
こちらを向かせ、もう一度名前を呼んでやると、高耶はようやく口を開いた。
「お前……」
昨夜、散々泣かされた高耶の声は、すっかり枯れてしまっている。
とりあえず、高耶が言葉を発したので、内心、男は安堵したように微笑んだ。
「なんです?」
ひどく怒っているような、戸惑ったような。子供が拗ねているような口調で、高耶は云った。
「胸の傷……どうしたんだよ……」

思ってもみなかった言葉が高耶の唇から飛び出したので、男は心底驚いたが、すぐに、なんだそんなことかと苦笑して、
「こういう仕事をしていますからね……あと1センチずれていたら、今、こうして生きてはいなかったでしょうね。悔しいですか?俺がその時死んでいれば、あなたはこんな目にあわずに済んだのにね……」

あと1センチずれていたら、出会う前に死んでいた。男のその言葉が、高耶の心の何処かを深く突き刺した。
「……帰る」
ふいに云い捨てて、ドアに手をかけた高耶を抱き寄せて、男は強引に自らの唇を押し当てた。
「……ッ!」
逃れる舌に強引に舌を絡ませ、甘い唇を貪って……ようやく唇を離すと、男は触れそうなほど近くで囁いた。

「あなたの保護観察は、終わったわけではありませんよ。一度とはいえ、麻薬経験があるということもわかりましたし……あなたが、二度と悪い仲間と付き合うことがないように、これからはもっと厳しくチェックしますから、覚悟していて下さいね。明日も、うんと調べてあげたいのですが、どうしても抜けられない会議がありましてね……あなたも、体がつらいでしょうから、明日はゆっくり休んで下さい。明後日、この前と同じ時間に、あの駐車場にいらっしゃい。昨日、撮ったばかりのあなたの写を見せてあげますよ」

カッと顔を紅くして、何かを叫びかけてその言葉を飲み込み、せめてもの抵抗とばかりに背を向けたまま車を降りた高耶に、男は告げた。
「それでは明後日に、お待ちしていますよ」








高耶が自宅に戻ると、あいかわらず父親が居間で酔いつぶれていた。
まっすぐに自室にこもり、布団に頭まで潜り込む。
あの男がローブを脱いだ時、視界に飛び込んできた胸の銃創が、焼きついて離れない。
自分にあんなことをしたあの男を、今も殺してやりたいほど憎んでいるはずなのに……。
男への、この感情はいったいなんなのか。
激しすぎる行為で、泥のように疲れ切っていた体は、すぐに眠りに落ちた。



夢の中で、高耶は巨大な蜘蛛の巣に囚われていた。
もがけばもがくほど、手足を戒める糸は尚もきつく絡まって、逃れることができない。
やがて、あの男が現れて、圧倒的な強さで深深と押し入ってきた。
びっちりと繋がった肉の、何処から何処までが男で、何処からが自分なのかわからない。
悲鳴をあげ、成す術なく揺さぶられ、男の名を叫んだところで目覚めた高耶は、自分があの男に完全に囚われてしまったのを感じて、一人、涙を流した。



To Be Continued...?






後編ですの(^-^;) 直江に「関係ないとは云わせませんよ」を云わせたくて(笑;それだけの為に書き出したら、こんなんなりました…;
最初、考えていたより、実際に書いてみたら、それほどキチクにはなりませんでした(笑; むしろ甘甘っぽい気が…(当サイト比ですけど/笑;)
キチクを期待されていた方は、ごめんなさいです;まあ、これもプチラチだからってことで…(^-^;)

一時の「書けない病」は、どうにか脱出(?)できたものの、今度は「書いても書いても気に入らない病」です;いや、もう文章力ないのは今更なんですけど…(涙; てか最近、こんなに直高ラチカンもどきを、繰り返し書いているおバカは、もしかして自分だけ?ιと云うのに、今更ながら気づきました(爆)
……いいんだい(>_<) だって好きなんですもの(殴打 

ちなみに、これを書くのにネットで松本駅近辺の地図を見て、直江が派遣されている松本×察や(すっかり給料ドロと化してますけど/笑;)、ウィー×リーマ×ションの所在地を調べたりして、楽しかったのでした(お馬鹿)v 
このお話、もしかしたら続く…かもです(^-^;)
それでは、読んで下さってありがとうございました(ぺこ