「BODY Check2〜前編」




Presented by 黒417




真っ青な顔で戻ってくるなり、自室にこもってしまった高耶を、案じる者はいない。
案の定、朝から浴びるほど酒を飲んでいた父親は、居間で正体をなくしている。

両手首には、手錠の跡がくっきりと残り、引き裂かれた体はずきずきと痛んで、その身に起きたことが紛れもなく事実であることを高耶に教えていた。
まだ、耳元に生々しく残る淫らな囁き、自分の中を出入りする熱くて固い肉の感触。噛まされた猿轡の奥に消えた悲鳴と喘ぎ……。

思わず、ゾクッとなった体の奥から、トロリと何かが伝うのを感じて、高耶は震える体で浴室に駆け込み、制服を脱ぎ捨てると、頭から真水のシャワーを浴びた。



洗っても洗っても、流れてくる男の残滓。
無理矢理犯されたというのに、あの時、確かに『感じて』いた自分への激しい嫌悪、込み上げる屈辱の涙……。

どのぐらいの時間が過ぎただろうか。
ようやく浴室から出てきた高耶の全身は氷のように冷え切って、その目は赤く腫れていたが、彼はもう泣いてはいなかった。

洗面台の鏡に、花びらを散らしたような陵辱の跡だらけの体が移っている。
発作的に、鏡の中の自分に向かって拳を打ちつけると、派手な音を立てて鏡はあっけなく割れた。
ボトボトと流れる鮮血。だが、痛みなどまったく感じない。
割れた鏡に映る己の姿を見つめる瞳は、激しい怒りに燃えていた。
(畜生……!)
あの野郎……あんなことしやがって……絶対に許さねえ。
端正な唇が、本人すら気づかぬうちに呟いていた。

……殺してやる。







仰木高耶と「関係」を持った翌日。
松本市警を訪れた男は、少年課を訪れ、本来の仕事そっちのけで仰木高耶の補導ファイルに目を通していた。

本庁から派遣されている麻薬捜査官が、何故少年課にいるのか、いぶかる者はいない。なぜなら高耶には、昨年冬に覚醒剤密売容疑で拘置された「前科」があったからだった。
男としては、もしかしたらスリや万引きなどの補導歴があるのではと思い、立ち寄っただけだったのだが……覚醒剤密売容疑とは。
男は正直、驚きを隠せなかったが、ファイルによれば高耶は濡れ衣を着せられただけのようで、丸一日の拘置の末、無罪放免となっている。
男は内心、胸をなでおろしたが、同時に例え一日とはいえ、拘置所の檻の中で高耶が一夜を過ごしたのだと思うと、例えようのない感情に襲われた。

ファイルは高耶の家庭環境にも触れており、問題有と指摘していた。
父親のアルコール中毒と暴力に耐えかねた母親が、幼い高耶と妹を捨てて家を出ており、現在、小学六年になる妹は民生委員の判断により、この春から施設に入所させられている。
高耶だけが、自宅に残って父親と暮らしているようだったが、だとすれば、高耶のあの腫れた口元は、父親の暴力によるものだろうか?



気がつけば昨日から、高耶のことばかり考えている。麻薬中毒患者が、麻薬以外のことを考えられなくなるように、すべての思考が「仰木高耶」で埋め尽くされてしまっている。

男は自嘲するような笑を浮かべた。
心がない。そう云われ続けた自分が、あんな風に我を忘れてしまったのは、はじめてだった。
子供相手に酷いことをしてしまったと思う。
自由を奪い、力でねじ伏せてのレイプ……だが、理性では止められなかった。
これまで、どんな女を抱いても、あれほどの快楽は得られなかった。
次に高耶に逢えば、きっと同じことをしてしまう。
だが、このまま逢わずにいられるはずもなかった。
それだけは、絶対に。







数日後。待ち合わせ場所に指定された例の駐車場へと向かう高耶のジーンズのポケットには、密かにバタフライナイフが忍ばせてあった。

屋内駐車場はこの日も閑散としていて、男の車以外は見当たらない。
ウィンダムに寄りかかるようにして、男が立っている。
こちらへと歩いてくる彼を認めて、サングラスに隠された鳶色の瞳が一瞬、綻んだが、高耶の幽鬼のような表情と、何よりその右手に無造作に巻かれた包帯を認めるや否や、男の瞳が曇った。
無言で対峙する形となり、先に沈黙を破ったのは男の方だった。
「ちゃんといいつけを守って来てくれましたね……その手は、いったいどうしたんです?」
サングラスを外して、男が問いかけると、思いつめたような表情で立ち尽くしていた高耶が、ふいにジーンズのポケットからナイフを取り出し、叫び声をあげて切りかかってきた。


仕事柄、あらゆる護身術を身につけている男にとって、子供の高耶が繰り出したナイフの一閃など、よけるのは造作のないことである。軽々と右手首を掴まれ、容赦なく後ろに捻じ曲げられると、ナイフはカシャンと派手な音を立ててコンクリートに転がった。
「畜生ッ!放せよっ!」
男は死に物狂いでもがく上体をウィンダムのパンパーに押しつけて自由を奪い、背後から覆い被さるようにきつく抱き込んで、形のいい耳朶に囁いた。
「こんなに細い腕で。本気で俺を刺せるとでも思っているんですか?そんなに俺が憎かった?俺に犯されて、女のように泣かされたことが、そんなに悔しかったの?」
「黙れッ!!お前なんか……ッ!」
細い体の震えが、体を通して伝わってきて、ゾクゾクするほどいとおしい。
高耶が、自分を殺したいほど憎んでいる。そのことが、むしろ男には心地よかった。



あの出会いから、自分が高耶のことしか考えられなくなっているのと同じように、高耶も離れている間、自分のことを考えていたのだ。その気になれば、簡単に折ってしまえるほど細い腕で、自分を殺そうと、ナイフを用意してまで……。

自分の中に眠っていた獣が目覚めるのを、身震いするほどの欲望を、男は感じていた。
目覚めさせたのは、高耶だ。
自分を狂わせたこのひとに、わからせなければ。この綺麗な体に。


気がつけば、無我夢中でバンパーに押しつけた高耶のジーンズを下着ごと引き摺り下ろし、予め用意していた小型のチューブに入った潤滑剤を強引に双丘の狭間に流し込んで、食らいつくように押し入っていた。
「ヒーッ!」
強引に破瓜を迎えさせられてからわずか数日。完全には癒えていない箇所を再び、馴らしもせずに突き入れられて、掠れた悲鳴が白昼の駐車場に響く。
男は根元まで繋がったまま、グッと体を倒して、やわらかな耳朶に揶揄るように囁いた。
「そんなにいい声を出して……誰かに見られても知りませんよ?それとも、男に犯されているこんな姿を、見られたいんですか?」
「ち……きしょ……ッ」
呪詛の言葉を吐きつつ、それでも必死で声を堪えようとする高耶の苦痛などおかまいなしで、男は悠々と腰を使う。
本当に、誰かにこんなところを見られれば、破滅するのは男の方だ。だが、この状況が、男に狂うほどの快楽を与えていた。
見られてもいい。
むしろ、こんなにも自分と高耶がひとつになっていることを、見せつけてやりたい……!

熱く絡みついてくる淫らな襞を、激情のまま壊れるほど貪っても、尚も生命の白濁を宿す箇所に、痛いほどの欲望が突き上げる。
「やあっ……やめ……ヒッ!」
どんなに堪えようとしても、高耶の端正な口端から零れる、堪えきれない嬌声。
飢えにも似た、激しい抽送の果てに、一方的に男が高耶の中に吐き出してしまうと、高耶の口からかぼそい悲鳴が零れた。

自分の中にドクドクと注ぎ込まれる熱い体液。
高耶の瞳から、屈辱の涙が零れる。
やがて、侵入してきたのと同じ早急さで男が出ていくと、腕を掴まれてこちらを向かされた。
陵辱されたばかりの体は、ろくに力が入らず、次の瞬間、高耶は男の腕に思いきり抱きしめられて、深深と口付けられていた。
逃れようと身を捩っても、男の力にはかなわない。呼吸を求めて、ようやく男の唇を振りきった時、肩で息をする耳元に男が囁いた。



「これで終わったとは思わないで下さいね…この前は煙草にスリ、今日は凶器の所持に殺人未遂。あなたのような悪い子には、お仕置きと徹底した取調べが必要なようですからね…どうせ一日ぐらい家に帰らなくたって大丈夫でしょう?あなたには、いろいろと聞きたいこともありますし…俺がうんと調べてあげる。もちろん、あなたが捜査に協力してくれれば、ちゃんとご褒美もあげますよ」

場所を変えましょう。それまで、少し眠っているといい。
囁きとともに、鳩尾に一撃が入った。
「……ッ!」
自分に何が起こったのかもわからず、男の腕の中に崩れる高耶。
意識を無くした体をしっかりと抱いて、助手席に坐らせ、コンクリートの床に落ちたままになっていたバタフライナイフを拾い上げて、ダッシュボードに突っ込む。

運転席に着いた男が、サングラスをかけ、何事もなかったかのようにウィンダムを発進させた時、親子連れを乗せたファミリーカーが駐車場に入ってきた。



To Be Continued...





あいかわらず椎名がリハビリ中の為、ワタクシ黒417が代理で更新中ですのv
短いですが……ボディチェックのお初直後の二人ですの(笑;
毎日覗いて下さっている奇特な方もいらっしゃるみたいなので(どうもありがとうデスv)、とりあえず書けた分だけでもアップしてみました(^^; こんなんでも、ちょっとでも更新があった方が……いいですよ……ね?ι 

そんなわけで、一泊二日のプチラチ後編は……できるだけ早くお届けできるよう、頑張りますデス;ってか、ガンバレ黒417!(>_<)このサイトが更新できるかどうか、今はあんたが頼りなの(笑;;

ということで、また近々お会いできると…お会いできたら…いいですね(殴打
読んで下さってありがとうございました(>_<)