「untitled」3







やがて、ようやく唇を放した男が、背後で何かを取り出す気配がしたが、視力を奪われている今の高耶には男の意図がわからない。

潤滑剤を吸い上げた小型のシリンジを手にした男は、震えている背に諭すように、
「高耶さん、すぐに済みますよ。少し気持ち悪いかもしれませんが、あなたの為ですから……痛くはありませんから、力を抜いていて下さいね」
「なに、す……アッ、」
男の唾液でしっとりと濡れた蕾に、細長い異物が侵入する。

「ヒッ―――やめ……!」
「我慢して」
叱咤するような囁きとともに、嫌がる腰が押さえつけられ、体内に侵入した異物から、生暖かな液体が注ぎ込まれた。
「―――……ッ」
液体に犯される異様な感覚に、高耶の皮膚が粟めく。


「もう終わりましたよ。いい子ですね」
「…………ッ、」
信じられない行為を次から次へと強要されて、高耶は言葉もなく、小刻みに身を震わせている。

後の結合を楽にする為の行為で、注がれた潤滑剤は少量だったが、それでも、異物が抜き去られるのと同時に、飲みきれなかったものが蕾から溢れて会陰を伝い、萎えたままのペニスを伝って、ぽたぽたとシーツを濡らした。

「こんなに零して……はしたないひとですね」
揶揄るような囁きとともに、再び、蕾の淵を淫らになぞられて、高耶はひいっと悲鳴をあげた。

男が見守る中、用いられた潤滑剤が持つ、強い催淫作用は、高耶の体内でじわじわと効果を発揮しはじめたらしい。

そこがジンジンと熱く、痛痒いような、切ない焦燥感に襲われ、意志とは関係なく、堪え切れない喘ぎが、唇をついて出る。
「ひっ……クッ……、」
己の身に起きた異変に、怯えたように震え、啜り泣く背に、男はいとおしげに口づけた。


「高耶さん……」
名前を呼ばれただけなのに、細い体がゾクッと震えた。

濡れそぼる入り口を、侵入の機会を伺うように、淫らに行き来する指に、入れられまいとする本能からか、ピンク色の蕾がきゅっと強張る。

「やだ……や……」
「高耶さん……力を抜いて」
宥めるように、繰り返し名前を呼んで、男がいちばん細い指先に力を入れる。

異物の侵入を拒み続ける襞に、潤滑剤の助けを借りた指先が、遂に沈んだ。

「アア――ッ……や……ッ」
「……熱いですね」
震えている背に口づけながら、想像以上に狭く、熱い襞の感触に、男はうっとりと囁く。

「ほら、あなたの中に、私の指が入っていますよ……いちばん細い指だから、痛くはないでしょう」
男が沈めた小指を蠢かす度、敏感な粘膜を擦り上げられ、上げたくなくても女のような喘ぎが、口をついて出てしまう。

「やだっ……クッ……、ア……ッ」
「ココを弄られて、高耶さんはとっても気持ちがいいようだから、今度はもう少し、太い指をあげましょうね」

小指が引き抜かれると、形のいい唇から、一瞬、安堵の声が洩れたが、すぐに新たな指が侵入して、高耶は悲鳴を上げて身を捩った。

「ア――ッ……」
次に差し込まれたのは人差し指だった。
「や……痛い……抜い……」
「我慢して……すぐに良くなる」

男は、高耶の体内で、しきりと何かを探るような仕草を繰り返す。
やがて、指先が求める栗の実大のそれを探りあてると、高耶の唇から、あられもない悲鳴が零れた。

「やあっ……アッ……、」
執拗に前立腺を刺激されて、先ほど放ったばかりの楔が、急速に鎌首をもたげる。
「ひいっ……ひ……」
「……さっき、飲んであげたばかりなのに、もう、こんなにしてしまったの?やんちゃなぼうやですね」

クスクスと笑って、男が前に回した指で勃ちあがったペニスを指で弾くと、甘い悲鳴とともに、長い指を根元まで銜えている箇所がきゅっと締まった。

きつい襞が、少し解れてきたのを感じて、男が、二本目の指を潜り込ませようとすると、初めての体ではさすがにつらいのか、たちまち苦痛の悲鳴があがる。

男は考えて、あっさりと指を引き抜くと、予め用意していた淫具の中から、先端が細く、根元にいくほど太くなっている初心者用の細身のディルドーにたっぷりと潤滑剤を塗りつけ、変わりに潜り込ませた。

「や……なにっ……アアッ……」
「大丈夫だから、力を抜いて」
異物の侵入に、たちまち竦みあがる体に、宥めるように囁いて、男は指の届かない奥までを解すように、小刻みに抜き差しを繰り返しながら、慎重に根元まで沈めていく。

「アアッ……ア、……クッ、」
苦痛と快楽がないまぜになったような切ない喘ぎが、ひっきりなしに零れ、体内からの刺激で、腹につくほどになってしまった楔の先端からは、いつしか二度目の先走りの蜜が、糸を引いて滴りはじめた。


高耶が射精してしまわないよう、張り詰めた楔の根元を抑え、淫具を引き抜いた男が、再び、揃えた二本の指を慎重に潜り込ませる。
すると、きついながらも今度はどうにか飲み込ませることができた。

「ひぃっ……クッ……や……ッ、」
くちゅくちゅと淫らな音を立てて、抜き差しされる長い指。
「も……やめ……」
切なく啜り泣きながら、必死に許しを乞う高耶に、自らも限界を感じていた男は、意味ありげに微笑むと、敏感な襞を嬲っていた二本の指を引き抜いて、いちばん太い指を潜り込ませた。

「そうですね……じゃあ、今から聞く質問に、答えられたら許してあげる。今、あなたの中に入っている指は、誰の、何指ですか?」
「!」
一瞬、我に返った高耶は真赤になっている顔を更に赤くして、唇を切れるほど噛み締めた。

そんなこと、己の口から、云えるはずがないではないか。
「…………」
真赤になった高耶が答えられずにいると、男は、だったら仕方ありませんね、と意地悪く囁いて、再び、根元まで沈めた太い指を蠢かせて、淫らに苛みはじめる。

「やあっ―――も、やめ……ッ!」
たちまち、悲鳴を上げる高耶に、男は残酷に囁く。
「―――だったら、答えて?私の名前はさっき、教えてあげたでしょう?それに、今、あなたを犯している指が、どの指か……わからないとは云わせませんよ?」
「………ッ、」
追い上げられた体は、もはや限界だった。

「い……う……。いう……から……も、ゆる、し……」
「高耶さん……」
男は、いとしいひとが、初めて自分の名を呼ぶその時を待つ。

「……なお……、の………」
耳をすまさなければ聞き取れないほどの、微かな声だった。

「……おや、ゆ…ッ、」

屈辱の嗚咽が洩れ、見えない瞳から、新たな涙が溢れてシーツを濡らす。
鏡に映る泣き顔を見た男は、その背に、癒すように口づけた。

「いい子ですね……高耶さん。ご褒美ですよ」
指が引き抜かれ、放心しかけた高耶の背後で、男が徐に衣服を脱いだ。



長時間、あられもない姿勢を強いていた膝裏の手錠がようやく外され、前手錠にかけなおされたものの、もはや高耶に抗う力は殆ど残っていない。

強い力で仰向けに抱き起こされると、微かに視力が戻りかけているのか、霞む視界に、自分を見下ろす男の輪郭が、影のように滲んで見えた。

「……おまえ……誰なんだよっ……どうして、オレ、を……」
「高耶さん……」
熱く名前を呼んで、男がゆっくりと体重をかけて覆い被さってくる。

目尻を伝う涙を拭われ、尚も何かを云いかける唇を唇で塞がれ、はじめて重ねたひとの肌の熱さに、組み敷かれた細い体がビクンと震えた。

「―――こわくない」
熱い囁きとともに、有無を云わせず、左右に割られ、高々と抱えられる長い脚。
しっとりと濡れそぼり、赤く充血した蕾に、押し当てられる、熱く滾る凶器。

「や、め―――」
本能的な恐怖と嫌悪がその瞬間、高耶に最後の抵抗をさせたが、拒もうとする体を、男の熱が強引に抉じ開けた。

「―――!」
容赦なく打ち込まれる所有の証。
見えない瞳が、眦が切れるほど見開かれ、細い体が弓なりに撓る。
「アアアアア―――!」
凄惨な悲鳴が、響き渡った。



耐えがたい破瓜の苦痛から本能的に逃れようと、高耶は手錠で戒められている両腕で、覆い被さる男の胸を、押し戻そうと哀れにもがく。
暴れる腕を、頭上でやすやすと縫い止めて、男はグッと上体を倒し、尚も深く押し入った。

「クッ―――アアア……ッ」
「高耶さん……」
「………ッ、」
呼ぶ声に、答えはない。体を二つに折り曲げられ、無残な姿勢で限界まで貫かれた高耶は、唇を切れるほど噛み締め、失神寸前で耐えている。

見えない眼から溢れる涙を、男はいとおしげに唇で拭った。

高耶が見せる、どの表情も見逃すまいと、背ける頬に手を当てて、熱い結合の感触を、己が肉塊で確かめるように、男は僅かに引いた腰を、再び、ゆっくりと突き入れる。

「―――うごく、なあっ……!」
切ない悲鳴に、男は素直に動きを止めたが、はじめての体は、すぐに再開されるだろう、抽送への恐怖に竦みあがっていた。

「……力を抜いて」
震える耳朶に囁いて、男はひとつになった腰を、あやすように揺すってやる。

そうして、揺さぶられているうちに、たっぷりと用いられた潤滑剤の持つ催淫作用が効果を発揮しはじめたのだろう、いまにも張り裂けそうな激痛が、微かに和らいだ。

苦痛と快楽がないまぜになったような、痺れにも似た異様な感覚に、噛み締めた唇を割って、声が零れる。
霞がかった高耶の視界に、己を犯す男の輪郭が、ゆらゆらと滲んで見えた。

「高耶さん……」
より性感を煽るように、甘く名前を呼ばれ、感じやすい耳朶をぞわりと舐め上げられて、肉塊を受け入れさせられている体が、ビクンと跳ねる。

高耶の体に起きつつある変化は、その表情や、打ち込んだ己が肉塊を通じて、男にもはっきりと伝わった。
それが証拠に、高耶のものは体内からの刺激を受けて、再び、勃ちあがりかけている。

「……もう、そんなに痛くはないでしょう?」
男は、宥めるように甘く囁く。
「あなたのココ……俺のを銜えて、ぴくぴくと震えていますよ?」

結合部を指先で淫らになぞられ、羞恥に震える高耶が嫌々と首を振ると、僅かに引かれた腰が、グッと押し入ってくる。

「ヒッ……!」
たちまち、悲鳴を上げて仰け反る耳朶に、
「嘘をついては駄目ですよ……俺ので奥まで犯されて、ぼうやをこんなにしているくせに」

嬲るような囁きに、高耶は一瞬、見えない眼できつく見返してきたが、直後にはじまった抽送の前に、ささやかな抵抗はあっけなく砕け散った。

「クッ……ア!……ああッ……」
奥まで穿たれた凶器が、くびれまで引き抜かれたと思うと、時間をかけ、再び根元まで沈んでいく。

傷ついた粘膜をゆるゆると擦られる度、高耶の唇から制止を求める、切ない悲鳴が押し出されたが、男は構わず腰を使い、誘うように赤く尖った胸の突起の片方に、軽く歯を立て、吸いあげた。

熱い肉壁も、張りつめた若い楔も、高耶が感じる箇所はすべて、容赦なく責めあげる。
激しく喘ぐ声色には、苦痛以外の甘い色がいつしか滲み、半開きになった口端からは銀色の雫が、糸を引いて滴った。

男の口端に笑が浮かび、ゆったりとしていた抽送が、少しづつ熱を帯びてくる。
「高耶さん……高耶……」
うわ言のように、いとしい名前を繰り返し呼んで、幾度となく打ち込まれる男の肉塊。
男が体内を出入りする度、苦痛に勝る快楽が、穿たれた箇所から駆け上ってくる。

「ヒイッ―――ヒッ!……ア……」
もはや、高耶は自分が何を口走っているかわからない。
いとしいひとの痴態を熱い眼で凝視しながら、男がギリギリまで引いた腰を、勢いよく突き入れた瞬間、それは不意に訪れた。

「ア―――……!」
形のいい顎がグッと突き上げられた。
無残な陵辱の果てに、無理矢理、迎えさせられた淫らな絶頂―――未知の快楽に堕としめられた高耶の意識が、一瞬、ブラックアウトする。

男の肉を噛んだまま、蕾がきゅうっと収縮し、限界まで張りつめていた若い楔が弾けて、引き締まった脇腹にしろい飛沫が飛び散った。

「………ッ」
己の肉に犯されて、高耶がはじめて果てる様を目の当たりにした男の皮膚が、ゾクッと粟めく。
放出の余韻に、まだ震えの収まらない細い腰を引き寄せて、男は、激しく欲望を突き立て、貪った。

「ヒイッ―――!」
遠のきかけていた意識が、現実へと引き戻され、高耶は声にならない悲鳴を上げる。

激しい抜き差し―――細腰を掴む腕に一際、力が込められ、男の腰へと引き寄せた刹那、最奥を貫いている男の肉塊が、高耶のなかでついに爆ぜた。


「クッ―――」
低い吐息をついて、動きを止めた男の、激しく痙攣する肉塊から、しろいものが噴き出して、熱い肉壁にドクドクと注がれる。

最後の一滴までをも吐き出して、男が名残惜しげに萎えたものを引きずり出すと、陵辱され、紅く滲んだ蕾から、注ぎ込まれた白濁と、高耶が流した破瓜の血が、混ざり合って内腿を伝い、乱れたシーツを朱に染めた。

半ば意識を飛ばしかけている高耶の、長い両脚を再び胸につくほど折り曲げさせて、男は、傷つき、血を流している箇所に、そっと顔を寄せていく。

「ヒッ……も、やめ……」
上の口にするのと同じように、深く口づけ、尖らせた舌先で淫らに舐め上げているうちに、たった今放ったばかりだというのに、新たな昂揚が突き上げ、すぐにもこの体と交わりたい衝動に駆られた。

高耶に狂う男の唇が、無意識に言葉を紡ぐ。
「―――俺のものだ……」

男は、もはや抗う力も残っていない、いとしい体に再び体重をかけて覆い被さると、啜り泣く顎を押さえてこちらを向かせた。

奪われた視界のなかで、自分を見下ろす男の影が、蜃気楼のように揺らいだ。
「高耶さん……」
顔の見えない支配者が、甘く残酷に囁く。

「―――あなたは……俺のものだ」
「………ッ」
違うと叫びたいのに―――言葉にならない。

愛している。
真摯な囁きとともに、再び、左右に割られ、抱え上げられる長い脚。

逃れられない獲物の眦から、新たな涙が溢れて頬を伝った。