フ×ディ復活記念(笑)



A Nightmare on Matumoto Street 
ACT-2


by 417




静寂を破って鳴り響く救急車のサイレン。
窓にきつく嵌め込まれた鉄格子の隙間から、青年は包帯で片目を封じた不自由な視線を表に向けた。
彼が収容されているこの病室の窓からは、救急患者が運び込まれる裏のゲートがよく見える。救命救急を謳うこの病院では、一日に何度もこうしたシーンが見られた。

仰木高耶、十九歳。
彼の時間は、この病院に強制的に収容されたあの日から止まったままだった。



***




今から二年前、高校二年だった高耶は、連日、繰り返される原因不明の悪夢に悩まされていた。
眠れば、必ず夢の中に黒服の男が現れる。
男は逃げまどう高耶の自由を奪って、こう囁いた。

愛していますよ、高耶さん。
あなたを、愛しているから…こうするんです。

そして、男はもがく高耶を組み敷いて、肉の楔を打ち込んだ。口にするのも憚られるような、淫らな悪夢は果てしなく続いた。

高耶は、実際には誰とも体を繋げたことなどなかったが、夢の中での男との結合は、生々しく、到底あれが夢だとは思えかった。
熱い肉に深々と体を割られる時の苦痛も、壊れるほど貪られて、絶望の中で無理矢理連れて行かれる絶頂も、何もかもあまりにリアルだった。


当時、悪夢に悩まされていたのは高耶だけではない。クラスメートの殆どが、なんらかの悪夢に悩まされていた。
だが、それとなく彼等に話を聞いても、淫らな夢を見ているのは高耶だけのようだった。
高耶は激しい自己嫌悪に陥った。
もしかしたら、自分はひどい淫乱なのではないだろうか?男のくせに、男に抱かれる夢を見るなんて。


眠れば確実に繰り返される淫夢に、高耶は眠るのが怖くなり、必死に睡魔と闘った。
だが、ある日の授業中、度重なる睡眠不足に堪え切れずにほんの一瞬、微睡んだ時。
背後からその体を抱きしめられ、耳元に男が囁いた。

あなたが、何処にも行けないように、俺以外のものにならないように、俺のものだという証をあげる……。

悲鳴をあげて目覚めた時、一斉に自分へと向けられたクラスメート達の視線に浮かんだものは、驚愕と恐怖だった。
高耶と視線があう度に、口から血を吐いてバタバタと倒れるクラスメート達。
「仰木君、左目が…ッ!」
女子生徒の絞り出すような悲鳴に、教室を飛び出してトイレへと駆け込んだ高耶は、洗面台の鏡に映る、ありえない自分の姿を見た。左目が、この世のものとは思えないような、深紅に染まっていた。

これも夢なのか?高耶は思った。
そうだ。これも悪い夢なんだ。そうに違いない。

だが……夢ではなかった。
その場に崩折れた高耶を待っていたのは、防護服に身を固め、銃まで構えた政府関係者達だった。
そして、厳重な警備の中、救急病院へと搬送された高耶は、見る者を害する原因不明の不治の病と診断され、隔離病棟へと強制入院させられた。

皮肉にも、入院とともに、高耶は夢を見なくなったが、悪夢から解放の為に支払った代償は、永遠に与えられることのない自由という、あまりにつらいものだった。




***




ゲートに横付けされた救急車から下ろされた患者は、どうやらまだ幼い子供のようだった。
意識がないらしく、病院内に運び込まれる僅かな瞬間も、救急隊員や待ち構えていた医師達の手で、心臓マッサージが行われている。
その傍らでどうしていいかわからず、ただ茫然と立ち尽くしている若い母親。
忙しなく院内へと消えて行く彼等を見送りながら、高耶は思った。
かわいそうに……あの子は、助かるだろうか?
それとも……。

その時、コツコツという靴音がしたので、高耶はドアの方を振り向いた。消灯前の巡回の看護士がやってくる時刻だった。



内側からは決して開けることのできないドアが開かれる。
いつものように、看護士はコップに入った錠剤を持って現れた。
人を害する左目は、きつく包帯で覆われているものの、若い看護士は必要以上に高耶と視線を合わせようとしない。
親しげに接してくれる看護士もいるにはいるが、彼等は皆、口に出さなくとも、原因不明の病に侵された高耶を恐れているようだった。

差し出された青い小さなその錠剤を、高耶は黙って飲み干す。
口を開けさせられ、高耶がきちんと錠剤を嚥下したことを確認すると、看護士は高耶にベッドに入るよう促した。




閉ざされた病室のベッドで、眠りに就いた高耶の、固く閉じられた瞼の下、微かに眼球が動く。

(高耶さん……)

名前を呼ばれたような気がして、一瞬、夢を見かけた高耶は、すぐにヒプノシルのもたらす、夢のない眠りの世界へと落ちていった。




***




翌朝。
高耶が入院している病院のエントランスに、一台のタクシーが横付けされた。降り立ったのは、二十代後半の、黒いコートに身を包んだ長身の若い男である。
男は薄いフレームの眼鏡の奥から、少し神経質そうな眼差しで、病院の建物を一瞥すると、院内へと入っていった。

ホワイトを基調とした清潔なエントランスホールは、診察を待つ患者やその家族でごったがえしている。
男は、まっすぐ受付に向かうと、応対に出た若い女性スタッフに穏やかに微笑みかけた。

「今日からこちらの心療内科で勤務することになりました、開崎誠です。よろしくお願いします。院長室はどちらでしょうか?」

若く、一目でカシミアとわかる高級そうなコートを身に纏い、いかにも青年実業家といった風情の新人医師の出現に、受付の女は仕事以上の笑を浮かべ、丁寧に説明する。
開崎は短く礼を云って、院長室に続く通路へと消えて行った。



***


闇の中で、男が微笑む。
(高耶さん……待っていて)
もうすぐだから。
今度こそ、あなたを手に入れる。


To Be Continued...



お久しぶりです(>_<) ずっと放置プレイですみませんでした。
新刊発売以降、久びさに書き始めました……こんなんですけど(笑;

とりあえず、書けた分だけアップしてみました。夢魔直江です(^^; こんな話、自分以外嬉しくもなんともないとは思ったんですが;何も更新ないよりはと…;えろもないし…;
そのうち、高耶さんが見せられた淫夢の詳細を、とか思っちゃいるんですが(爆 えへへ…その、アレですよ。触手とか、好きでしょう?奥さん。えへへへへ(壊れてる;

(39巻ショックで)ただでさえ壊れてるのが、今まで以上に崩壊と腐敗が進んぢまいましたが(笑;これからも自分なりの直高を書けたらいいな…と思ってます(^-^;) 

次回は当サイト初・開崎直江が活躍しそうな予感ですが(笑)早く本当の直江にえいえいさせたいにゃ〜;
これに限らず、アレやコレの続きを(えろも!)少しでもアップできるように頑張りますv 読んで下さった方、どうもありがとうございました。