HIDOI 1



BY SHIINA



この日、何度目かの楔を奥深くまで打ち込まれた高耶が、男の下で喘いでいた。

男の指と口で何度も抜かれて、すでに出すものもない高耶には、行為が苦痛でしかなくなってしまっている。
体を二つに折り曲げられて、脚を肩にかけられたこの体位も、酷くつらかった。
「……も、やめっ……、許し……明日は、美弥に会…、」
高耶の口から切れ切れに言葉が洩れた途端、男の目がスーッと細められた。

「ベッドの上では、俺以外の名前を呼んではいけないと、教えたはずですよ」
「あっ……、」
それが例え妹の名であろうと、男は決して許さない。
「約束を破った悪い子には……、」

男は体を倒すと、高耶の首筋に噛み付くように吸い付いた。その動きで打ち込まれた楔の角度が変わり、高耶が激しく身を仰のかせた。
「アアッ!──あ!」
その喉元に、男は容赦なく紅い痕を散らして行く。

「やめっ……、も、許し……」
散々に白い首筋を嬲ってから、ようやく顔を上げた男は、サディスティックな微笑を浮かべ、耳朶を甘噛みしながら囁いた。

「高耶さん、あなたの首筋……花びらを散らしたように、とっても綺麗になりましたよ。明日はうんと襟の開いた服を着て行くといい。俺が選んであげますよ……きっとみんな、あなたに釘づけになる」
「……ヒッ……、ク……、」

啜り泣く高耶を、直江はさらに酷い言葉で嬲り続ける。
「さあ、高耶さん……もっともっとあげましょうね。明日は久しぶりに家に帰るのですから、あなたが夜中に欲しくなっても、俺はシてあげられませんからね……淫乱なあなたは、きっと一日だって我慢できないでしょう?……そうならないように、今夜はたくさんシてあげる」
「も……、なおっ……許し、」
許しを乞う青ざめた唇に、ついばむように何度も口づけて、男はしっかりと高耶の脚を抱え直した。


明日は、高耶の妹の誕生日。高耶が久しぶりに実家に戻り、家族と会うことを許された日だった。
高耶が直江に金で買われて、この家に来てから半年。元々、家族の誕生日ぐらいは、実家に戻っていいと云ったのは、当の直江だったのだが……

心がないと云われつづけた自分が、初めて執着したもの。それが高耶だった。生まれた時から何でも手に入る金も権力もあって、「欲しい」と思ったものはすべて手に入れてきた。最初は高耶も、その一つに過ぎなかった……筈なのに。

例え一日とは云え、家に戻れるというその日が近づくにつれて、おそらく本人も無意識なのだろうが、嬉しそうな表情の高耶を見る度に、酷く苛立つのを抑え切れなかった。

それが、直江がはじめて知った「嫉妬」と云う感情だった。高耶が自分以外の人間を思うことが腹立たしく、そんな高耶を無性に傷つけたくてたまらなくなった。

あてがわれた自分の部屋で、嬉しそうに一泊分の荷物をバッグにつめている高耶を見た時、気がつくと高耶の腕を掴んで寝室に連れ込み、衣服を剥いで押し入っていた。

嫉妬という感情がどういうものか知った時、はじめて直江は自分が高耶をどれだけ「愛していた」のか思い知らされた。


今、直江の体の下で、高耶は唇まで青ざめ、死んだように動かない。ぐったりと投げ出された手脚は氷のように冷えきって、頬を伝う涙だけが暖かかった。
激情が去った後、暖かなその涙に触れ、どす黒い自責の念が直江を襲った。
(酷いことを……)
自らの嫉妬で、高耶を酷い目に会わせてしまった。全身に散らされた陵辱の痕。限界を超えて責め続けられた体は、明日は起きることすらままならないかもしれない。

今更ではないか。高耶の父親の会社が倒産するよう仕向けたのも、負債を肩代わりする条件として、高耶を買い取ったのも、すべて自分。
無論、この事実を高耶は知る由もなかったが、今更、高耶に自分を愛してほしいと云うのは虫がよすぎる話だった。そんな資格がどこにある?

ふと、体の下で高耶が小さく身じろぎをした。意識が戻ったのかと覗き込むと、そうではなかった。死んだように目を閉じ、昏々と眠り続けている。直江は青ざめたその顔を、そっと両手で包み込んだ。

金で買った主と、買われた奴隷。
自分と高耶はそれ以外の関係にはなりえない。この関係でしか高耶と繋がっていられないのなら……この関係でしか側にいられないのなら。

永遠に残酷な主でい続けよう。

このひとは、自分のもの。絶対、他の誰にも渡さない。
(……オウギタカヤ……あなたを、……愛している)
決して云えないその言葉を直江は心の中で囁いて、愛しい唇にそっと自らの唇を押し当てた。


翌日の午後二時──松本市内の団地の一画に、不釣り合いなダークグリーンの高級車が横づけされた。
「……顔色が、悪いですよ」
男は意地の悪い笑を浮かべ、助手席の少年を見遣った。

まだ暑い時期だというのに、首をすっぽりと被うハイネックのシャツを着込んだ高耶は、一瞬、男を睨み付けたが、すぐにそんな権利はなかったのだと自分に云い聞かせるように、視線を逸らした。

男の手で助手席側のドアが開けられた。
高耶はこちらを見ないように、小声で「行ってくる」と云って車を降りた。その動きも、緩慢で、どこかぎこちない。


振り返らず、そのまま行こうとする高耶を、直江は主の声で呼び止めた。

「高耶さん」

……逆らうことはできない。直江の言葉は絶対だった。
やはり、体がきついのだろう。
ゆっくりと振り向いた高耶に、直江は云った。

「明日の二時にここで……わかっていますね?」

青ざめた顔で目を伏せたまま頷き、許された二十四時間だけ、かつての我が家へ向かう高耶の背中を見送って……直江はウィンダムを発進させた。

END



酷い話ですいませんιこの身売り高耶さんの話は続きがあって(汗)そっちはもっとえろくて酷いです(苦)UPするかどうかは、今のところ不明です(ーー;

読んで下さった方、ありがとうございました!(逃げっ/><;)


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