解毒



Presented by SHIINA


その日も、まるで外界から施設全体を被い隠すかのように、辺りは深い霧に包まれていた。



午後二時──いつものように足音がして、閉ざされたドアが開かれ、直江医師が現れた。
窓辺に佇み、鉄格子の隙間からぼんやりと外を眺めていた高耶は、ゆっくりと振り向くと、自分を見つめる直江の視線から逃れるように目を伏せた。

「高耶さん……気分はいかがですか?」
おだやかな問いかけにも、高耶は俯いたまま答えない。直江は真直ぐに立ち尽くしている少年に近づくと、細い顎に手をかけ、こちらを向かせた。
高耶の毒に侵され、深紅に染まった左目は、入院以来、霊力のある札とともに包帯で閉ざされている。男の手で促されて、戸惑うような片目が、男を見た。

直江はにっこりと微笑むと、
「お迎えに参りましたよ。……さあ、治療に行きましょうね」
と囁いた。高耶は観念したかのように、コクンと頷いた。




病に侵され、体から発する毒で人を殺める危険のある高耶が、隔離されている病室を出ることを許されるのは、わずかに月に一度の蟲毒薬の投与日と、週に一度の霊浴療法日のみである。

高耶が強制入院させられている、この病院の広大な敷地内には、あらゆる病に効くと云われる霊泉があった。この病院が、これほどまでに人里離れた山奥に建てられている理由はこのせいだ。
霊泉には、かつて死者をも蘇らせたと云う古い伝説があり、伝説によれば、この土地が常に深い霧に被われているのは、この霊泉を外界の穢れから守る為、とのことだった。

週に一度、高耶はその霊泉に体を沈め、毒を抜くと云う治療を受けていた。悪い体ほど激しく反応すると云うその湯に入ることは、体内を毒に侵された高耶には相当の苦痛を伴うが、感染したが最後、これと云った治療法のない高耶の病に、唯一、有効と認められる治療法だった。



高耶が霊泉に向かう間は、病棟から直江以外の一切の職員の姿が消える。
ひっそりと静まり返った隔離病棟のリノリウム張りの白い廊下を歩いていると、聞いたことのない鳥の囀りに、高耶はふと脚を止め、窓の外に頭を巡らせた。
鳴き声は聞こえるものの、今日の霧は特に深く、外は真白で何も見えない。
「高耶さん……」
直江に促され、高耶は諦めたように、また白い廊下を歩き出した。




以前、まだ入院して間もない頃、事情を知らない職員が霊泉に向かう途中の高耶と通路で鉢合わせしたことがある。
常に左目はきつく包帯で被っているものの、右目からもごく微量に洩れ続けている毒をその視線からモロにくらって、職員は血を吐いてその場に卒倒し、大変な騒ぎになった。
幸い、高耶に付き添っていた直江の的確な処置で、職員の命に別状はなかったものの、この時、高耶が受けたショックと、心に受けた傷は相当のものだった。
特に激しく毒を放つのは、今や深紅に染まり、邪眼と化してしまった左目だが、右目からも、呼吸からも、常に高耶の体は、人を殺める毒を吐き続けている。そう聞かされてはいたものの、己の病がどれほど恐ろしいものか、その日、高耶は初めて目の当たりにしたのだ。

自分は人を「見る」だけで傷つける。それを現実として突き付けられ、高耶はその日以来、すっかり人が変わったようにふさぎがちになった。

毒に侵された今の高耶に、直に接触できるのは、霊力を持つ主治医の直江だけ。
もう、高耶には、直江しかいなかった。
直江医師が、自分をこの病に感染させ、自分から何もかも奪い、こうなるようし向けた張本人とも知らずに。





霊泉は、隔離病棟の裏手にある古い建物の中にある。
いつもは他の入院患者や、救いを求めて遠方からはるばるやってくる人々で賑わっているが、今日は無論、二人の他には誰もいない。高耶の治療時間は間違っても誰かがやってくることがないよう、出入りは厳重に管理されていた。

脱衣場で治療着を脱ぎ、片目を覆う包帯はそのままで、薄いガウンのような湯あみ着に着替える。直江も白衣を脱ぐと同じ湯あみ着を羽織って、高耶を促した。

直江が扉を開けると、中は湯気で何も見えないほどだ。
霊威のある湯が気化したその空気を吸い込み、高耶の眉が苦し気に寄せられた。

直江に促されるまま、石段を降り、霊湯に近づくと、高耶はあまりの息苦しさに思わず胸をおさえた。この湯は、悪い体ほど効果があるのだと云う。
毒に侵された体が、嫌がって反応しているのだろうか?
高耶の意志と関係なく、それ以上、進むことを拒否して止まってしまう脚。
直江が強張った体に腕を回して、尚も進むよう促すが、直江がいなければ、すぐにもこの場から逃げ出してしまいたいほどだった。

治療の為とはいえ、この湯に浸かればどれだけ苦しいかを、嫌と云うほと体験させられている高耶の体が、本能的な恐怖に震えている。
そして、霊泉の中で、直江によって行われる秘かな解毒治療──思わず、体がズキンと反応して、高耶は男の視線から逃れるように、顔を背けた。

「……高耶さん?」
背後から抱くようにして、力づけるように呼びかけても、高耶は俯いたまま、ただ首を振るばかりだ。それ以上、どうしても進むことのできなくなった体を直江は軽々と抱き上げて、石段を進み、湯に一歩、脚を踏み入れた。
高耶は男の首に腕を回し、顔を埋めて、これから予想される苦痛を耐えようときつく目を閉じた。




高耶を抱いたまま、霊泉の中央まで進んだ直江がゆっくりと腰を落とすと、湯が高耶の体に触れた。
その途端、感電したような衝撃が高耶を襲った。
「ヒッ……!」
思わず高耶が声にならない声を上げ、掴まる男の背に無意識に爪を立てたが、直江は構わず腰を落とし、高耶の体を完全に肩まで湯に沈めた。

堪え切れずに上がる悲鳴。
「なおっ……待っ……!」
「我慢して」
直江の力づけるような囁きも、苦痛に喘ぐ高耶の耳には入らない。
まるで電気の風呂に浸かっているかのような、全身を焼かれるような苦痛と、感電したような凄まじい痺れが、高耶の全身を襲っていた。
直江は逃れられないよう、湯の中で細い体をきつく抱きしめる。
高耶は最初のうちこそ、男の肩に掴まって、歯を食いしばり必死に堪えていたが、絶えまなく襲ってくる苦痛に、たまらずに男の腕の中で身悶えた。
「もっ、なお……っ、ごほっ」
あまりの苦しさについに耐えられなくなり、男の腕の中で溺れるようにもがくうちに、あやまって湯を飲み込んでしまい、高耶が激しく咳き込んだ。
器官に入り込んだ霊泉の湯が、内臓を焼き、骨まで溶かす勢いで沁み込んでいく。

耐え切れずに男の腕を振り切って、必死で湯から這い上がろうとする体を、直江は追いかけ、背後から抱き込んで、再度、容赦なく肩まで沈めた。
「やあっ、なおっ……、苦し……放……っ」
子供のように嫌々をし、もがく高耶の肩を湯の中に押さえつけ、直江は叱咤するように囁く。
「駄目ですよ。毒を抜く為なんですよ。苦しいでしょうけど、もう少し我慢して」
直江は強引に細い体を強引にこちらを向かせると胸に抱き込んで逃れられなくした上で、背後に回した指で湯あみ着を捲りあげ、双丘の狭間を辿った。



「ああああっ」
凄惨な悲鳴が上がった。湯の中で直江の指が何の前触れもなく高耶の秘所を割り、二本の指で思いきり押し広げたのだ。

敏感な箇所にいきなり異物を押し込まれた痛みと、体内に直接湯が入り込んだことで、直腸を焼かれるような苦痛に、高耶がぼろぼろと涙を零す。
止めどなく零れる毒を含んだ涙は、湯に落ちた途端、ジュッと音を立てて一瞬のうちに気化した。

直江は高耶の苦痛に構わず、無理矢理大きく開かせた秘所に、わざと湯を招き入れるように、埋め込んだ指を容赦なく出し入れする。
「やあっ、なおっ、やめっ……!」
男の指と湯で秘所を容赦なく犯されて、高耶はたまらずに男の髪を掴んで身悶えた。仰け反る首筋に男がきつく吸い付き、男のもう片方の手が細い内腿に差し込まれる。
萎えたままの性器をいきなり掴まれ、擦り上げられて、感じた高耶がひいっと身を竦ませた。男は自らのモノも湯あみ着の合わせから引きずり出して、互いの先端を擦りあわせた。
「やっ、なおっ……ヒッ!」
真っ赤になって逃れようとした体は、飲み込まされた指で秘所をより深く抉られ、きつく押し広げられたことで、悲鳴を上げて仰け反った。
「なおっ……!」
直江は容赦なく埋め込んだ二本の指で高耶の後ろを犯しながら、互いの性器を束ねて扱く。
二人のソレはたちまち形を変えて、湯の中でパンパンに撓り返った。
「やだっ……、こんなのっ、なおっ……」
狂ったように首を振り、悶える首筋を吸い上げ、片手で高耶の袋を毒を絞るように揉みしだきながら、直江は熱く囁いた。
「此処から、あなたの体を蝕む毒を、全部絞り出してあげる」

ようやく、後ろを犯していた指が引き抜かれると、高耶は無我夢中で男の腕を振り解いて、息も絶え絶えになりながら湯舟から這い上がった。
そのまま崩れるように洗い場に倒れ込み、肩で息をしている高耶の後を追って、直江が悠々と湯から上がってくる。
「今夜から明後日の夜まで学会で病院を留守にします。今日は二、三日解毒をしなくても大丈夫なように、此処で徹底的に解毒をやりきります」
そう宣言し、湯あみ着を脱ぎ捨てて覆い被さってくる男の前で、高耶は観念したように目を閉じた。





男は洗い場に観念したかのようにじっと横たわる高耶の上に覆い被さり、濡れて素肌に貼り付いた薄い布地の上から、胸の紅い突起の片方を口に含んだ。
「っ……」
軽く歯を立て、もう片方を同じく布の上から指先で摘み、弄ぶ。
片手を滑らせ、直に勃ちあがった乳首に触れると、高耶はびくん、と身を竦ませた。
直江は高耶の湯あみ着の腰紐を解くと濡れたそれを脱がせて、肌と肌を重ねた。
病室での治療は、直江は白衣を脱ぐことなく行われるから、こうして肌を直に重ねるのは、この霊泉での解毒の時のみだ。

高耶にはわかっている。
直江が自分をこうして抱くのは、自分を好きだからじゃなく、自分が日本で唯一のこの病の患者で、直江が霊力を持ち、この病を治療できる唯一の医者だからだと。
これは治療。
それでも……
直江の体の熱さと鼓動を自らの体で直に感じて、高耶は潤んだ瞳で男を見上げた。
「高耶さん……」
男はそっと高耶の名を呼んだ。高耶の唇が声を出さずに男の名を呼ぶ。直江は思わず、濡れたその唇に口づけずにはいられなかった。
そのまま、男の唇は高耶の肌に紅い痕を散らしながら、下へ下へと降りて行く。
男は躊躇いなく、勃ちあがった高耶の先端を唇に含んだ。
「あっ……」
高耶の体がびくん、と仰け反る。
「飲んであげるから……出したくなったらいくらでも出していいですよ……」
直江は囁いて、喉奥まで銜えると唇できつく吸い上げるように顔を上下させた。
「やあっ……なおっ……」
感じやすい高耶には、到底耐えられる責めではない。
だが、直江は容赦なく唇と片手でペニスを刺激しながら、もう片手を秘所に潜り込ませ、前立腺を刺激する。
「やだっ……なおっ……」
堪え切れずに直江の髪を掴んで外そうとしたが、叱咤するように軽く歯を立てられて、高耶はひいっと悲鳴を上げて背を仰け反らせた。
鈴口からとろとろと溢れ出す透明な液を一滴残さず舐め取り、絞り出すように袋を揉みしだき、唇で吸い上げ、激しく上下する。
高耶が大きく背を仰のかせ、「でるっ……」と叫んだ時、内腿の痙攣とともに射精が始った。直江は口腔に吐き出されるしろいものを音を立て、躊躇いもなく飲み干した。



自分だけに許された甘美な毒液を残さず呷って、直江はようやく身を起こした。
すぐに高々と抱え上げられる細い脚。その脚が大きく開かされ、胸につくほど折り曲げられる。熱く固い先端が、先ほど指と湯に蹂躙された秘所に押し当てられた。
高耶は、肩で息をし、涙に濡れた右目を大きく見開いたままだった。
「……なおっ……」
「高耶さん……ずっと、そうして俺の目を見ていて……俺のがすべて、あなたの中に入ってしまうまで……」
直江が腰を入れ、圧倒的な容量が限界まで自分の秘所を押し開く。高耶は貫かれる苦痛に歯を食いしばりながらも、直江のとび色の瞳を見つめていた。
先端のくびれまで押し入った時、高耶は背を反らせて悲鳴を上げていた。
「……くっ……ああっ!」
男は腰を揺すって奥深くまで身を進める。
貪られながらも、高耶はかろうじて目を開け、苦痛の中で自分を犯す男を、見た。
奥深くまで繋がって、男のすべてを受け入れた時、高耶の右目からまた新たな涙が零れた。
「高耶さん……」
「なお……っ」
再び、男は自分の名を呼ぶ柔らかな唇に口づけて、抽送を開始した。



「ああっ……、ック、……」
出入りする、直江の凶器。
自分の中でドクドクと脈打っているのがわかる。
「なお……っ、」
直江は高耶を犯しながら、放ったばかりで萎えた高耶のペニスを愛撫する。
前と後ろを同時に犯され、ソレは直江の掌の中ですぐに再び勃ちあがって、鈴口から透明な液体をとろとろと零しはじめる。
「ひいっ……、あ……、」
「高耶さん……気持いいの……?」
高耶はぽろぽろと涙を零し、嫌々をするように首を振る。
その言葉は、治療なのにそんなによがって、と揶揄るように聞こえた。
「高耶さん……泣かないで……イイんでしょう?構わないから……もっとよがって。シテほしいことを云ってごらんなさい?全部、シテあげるから」
高耶は尚も泣きながら首を振る。
ずるい男は、高耶に決して「愛している」とは云わない。
まだ、今は。

啜り泣く高耶の脚を抱え直し、抽送が激しくなる。
高耶はもはや何も考えられずに、なすがまま揺さぶられ続けていた。
深く抉るように突き上げられ、高耶がヒッ、と声を上げた瞬間、二度目の精を放った。
ぴくぴくと痙攣し、きつく収縮する襞に、男も欲望をブチまける。
熱いその体液が自分の中に注がれるのを確かに感じて、また高耶の目から新たな涙が零れ落ちた。

直江がゆっくりと体から出て行き、二度の射精でぐったりとなった高耶の体を抱き起こす。
潤んだ右目が男を見つめた。
「なお……え……」

この日の解毒は、まだ始ったばかりだった。



To Be Continued...