課外授業
by 417
「それでは、昨日のテストの答案を返します」
教壇に立った男は、着席した生徒達をぐるりと見回して、にっこりと微笑んだ。
出席番号順に名前を呼ばれる度、生徒が一人一人教壇へ向かう。
「……仰木君」
無言で立ち上がり、教壇へと進んだ高耶は、担任教諭の顔を見ないように、目を伏せたまま、差し出された答案に手を伸ばした。
教師は意味ありげに微笑み、そそくさと自分の席へと帰って行く高耶の後ろ姿を見守る。
着席し、答案に目をやると、余白に「放課後、いつもの場所で」と書かれていた。
高耶は俯き、唇を噛みしめた。
旧校舎、最上階の視聴覚室。
高耶がこの高校に入学してまもなく、直江と云う名の担任教諭は、朽ち果てたこの教室で、高耶の喫煙写真を餌に脅迫し、半ば強引にその体を奪った。
以来、毎日のように呼び出されては、高耶は男の玩具にされていた。
父親がアル中で入退院を繰り返している仰木家は決して裕福ではなく、高耶は奨学金をもらってこの高校に通っている身だった。
喫煙がバレれば、退学はまぬがれない。
妹がいなければ、高耶は男の云うなりになることはなかったかもしれないが、二年後には妹も奨学生としてこの高校への入学を希望している為、兄の自分が不祥事を起こすわけにはいかなかった。
男の手許には、すでに喫煙どころか、高耶のあられもない姿が撮影されたビデオや写真が、高耶を縛る永遠の枷となって、大量に保管されている。
それらをどうするのも、男次第だった。もはや高耶には、男から逃れる術はなかった。
放課後、重い脚を引きずって、高耶は旧校舎の階段を昇る。
出口の見えない日々。その中で、高耶の心の中にいつしか芽生えつつある、自分でも理解しがたい男への感情──
のろのろとドアを開け、遮光カーテンが引かれたままの室内に踏み出すと、冷ややかな声が飛んだ。
「──随分、遅かったですね」
温和で理想の教師と人望が厚く、生徒からの人気も高いこの男の、高耶以外知る由もない、もう一つの顔。
電気が来ていない為、薄暗い教室内には男の手で灯された蝋燭が無数に揺らめいている。
その灯に照らし出された男の瞳は、高耶への異常とも思える執着にぎらぎらと光っていた。
今からまた、抱かれるのだと思うと、高耶の皮膚が粟めく。
堕とされる恐怖と、男の身で、男によってもたらされる、目眩にも似た禁断の快楽。
ぞくっとしたものが背筋を走り抜け、高耶は思わず男から視線を逸らした。
「何をぼんやりとつっ立っているんです?さっさと脱ぎなさい」
命じられて、高耶は唇を噛みしめる。
「……どうしたんですか?云うことが聞けなくなったの?」
苛立った男がゆっくりと近づいて来たので、高耶は思わず一歩後退った。
「直江、頼むから…もう駄目だ、こんなこと……」
この男に何を云っても無駄だとわかっている。
情事の度に繰り返される、虚しい拒絶。壁際まで追いつめられた高耶は、苦し気に首を振る。
男の目がスッと細められた。
逃れようとする両手首を頭上で軽々と抑え込み、体重をかけて壁に押し付け、男が囁く。
「何が駄目なの……答えて、高耶さん」
だが、高耶は嫌々をするように、弱々しく首を振るばかりだ。
男は片手で高耶の腕の自由を奪ったまま、やんわりとその股間を撫で上げた。
敏感な箇所に前触れなく触れられて、高耶はヒッと喉を反らせる。
「やっ……、そこ、……あ……」
衣服の上からの執拗な責めに、若い果実は高耶の心と裏腹に、すぐに勃ちあがってしまう。淫らな自分の体が呪わしく、高耶は悔しさに顔を歪ませた。男は制服の下ですっかり形を変えてしまったモノをズボンの上から握り込み、いやらしく撫で上げながら諭すように囁く。
「ちょっと弄ってあげただけで、こんなに大きくして……こんなに淫らな体をしているくせに、いったい何が駄目だと云うの、あなたは」
残酷な男の手は、更に背後へと回された。
いつも男を受け入れる箇所を、衣服の上から巧みな指でぐりぐりと刺激されて、高耶は泣き声をあげる。
「やっ、やめっ……」
「──あなたに拒否なんてさせない。あなたはもうとっくに俺のものなんです。わかっているくせに。それを認めたくないと云うのなら、わからせてあげますよ。この体に何度でも」
男は残酷に囁いて、細い両手首を自らの手で戒めたまま、ジャケットから携帯電話を取り出した。
ボタン一つの操作で、小さな液晶ディスプレイに表示された番号は、高耶の自宅の電話番号。
「──妹さんに、『今日は友達の家に泊まるから帰れない』と云いなさい」
「直江ッ、……頼むから……」
すがるような高耶の必死の哀願にも、戻ってくるのは冷ややかな言葉だけ。
「早くしなさい││ああ、大切な妹さんでしたね。なんでしたら、あなたのイイ声を聞かせてあげたっていいんですよ?」
あまりに残酷な囁きとともに、携帯が耳元に押し当てられる。
数回の呼び出し音とともに『はい、仰木です』と云う妹の明るい声が響く。「……もしもし、美弥か?オレだけど…悪ぃ、今日急に友達んち泊まることになった……ごめんな」
つとめて平静な声を装ったが、高耶にはそれだけ云うのが精一杯だった。
この頃、週末の度に外泊を重ねる兄を、妹はいったいどう思っているのだろう──電話が切れ、廃教室に静寂が戻ると、男は楽し気に囁いた。「さあ、はじめましょうね……あなたと私の、二人だけの秘密の授業を」
放置された古びた教壇を抱くようにして、シャツ一枚の高耶は立ったまま、背後から犯されている。
すでに一度、男は高耶を抱いたらしく、男が奥まで打ち込んだ所有の証を抜き差しする度、くちゅくちゅと云ういやらしい音とともに、中に放ったものが内腿を伝ってとろとろと溢れ落ちた。
「やっ……くっ……アアッ……!」
男の抱き方は、まるで容赦がない。高耶から最後のプライドも、何もかもを奪う。
太くて大きなモノが自分の体を出入りする度、男を銜えた箇所から目眩のするような快楽が駆け昇り高耶は髪を振り乱して哀れに身悶える。
「アアッ……なおっ、クッ……」
開いた口端から銀の糸を滴らせ、喘ぐ高耶は禁断の快楽に啜り泣きながらも、自ら腰を振る淫らな人形でしかなかった。
背後から回された手で、撓り返ったペニスの先端を刺激され、腰が浮き上がるほど激しく突き上げられて、高耶は背を反らせて一気に昇りつめた。
「………ッ!」
男の掌に吐き出される、甘くしろい蜜。
教壇に突っ伏した高耶の蕾が、放出とともに収縮してきゅうきゅうと男のモノを締めつける。
「高耶さん……!」
収縮する柔襞に導かれるように、男の腰の動きが早くなった。
細い腰を掴んで、自分へと押し付け、最奥を抉るように男が腰を打ち付けた時、男の凶器からも熱い白濁が高耶の内部にぶちまけられた。
男が高耶の中から、自ら放ったしろいものに塗れた楔をずるりと引きずり出すと、高耶の蕾と己の先端が白い糸を引くのが見えた。
たった今まで繋がっていたと云う、確かな証を目の辺りにして、男がうっとりと微笑む。
含むモノを失った喪失感からだろうか。高耶の唇から無意識に吐息のような声が漏れる。
男はその場に跪くと、両手で双丘を割った。
大きく開かせたその狭間には、濡れた蕾がピクピクと震えて、とめどなくしろいものを零し続けている。
二本の親指で押し広げ、尖らせた舌先で舐めあげると高耶はひいっと悲鳴をあげて、感じたのか、また激しく蕾をヒクつかせ、しろいものをとろとろと溢れさせた。
「せっかくたっぷり飲ませてあげたのに、こんなに零して……」
男は囁き、濡れた内腿を下から上にかけて徐に舐めあげる。
「やっ……」
立っていられなくなったのか、力の抜けかけた高耶の体を掴むと、男は強引にこちらを向かせた。
「………、」
大きくはだけたシャツから覗く綺麗な鎖骨。首筋に散る無数の花びらのような紅、勃ちあがった胸の突起。
涙に濡れ、揺れる瞳が、男を見た。
自らも知らないうちに、男を誘う高耶。このひとを自由にさせておいてはいけない──このひとは自分のものだと云う、気も狂わんばかりの独占欲が男を新たな狂気へと突き動かす。
「高耶さん……!」
男は細い体をその場に押し倒すと、その首筋を胸の突起を、貪るように吸った。
「やっ、も、なお……っ、」
「俺のものだ──あなたは、俺の……!」
力づくでのしかかられ、自由を奪われ、両脚を高々と抱え上げられ、三度、所有の証で貫かれて、高耶は哀れな悲鳴をあげる。
すぐにはじまる、壊れるほどの抽送。
廃教室に、肉の打ち付けられる淫らな音と、哀れな悲鳴が響く。
無数の蝋燭の炎に浮かび上がる、貪る者と、貪られる者、ひとつになった二人の影。
なすがまま揺さぶられて、苦痛と快楽に啜り泣きながら、高耶は死ぬまでこの男から逃れられないことと、心の何処かでいつしか、それを受け入れてしまっている自分を感じていた。このまま堕ちて、身も心も、男の所有物になってしまえ。そうしてもう何も考えず、この腕の中で、死ぬまで与えられる快楽に喘いでいればいい。
高耶の中でしきりに囁きかけるそれは、諦めと云う名の安堵にも似た、残酷で甘美な誘惑だった。
Das Ende.
「書けない病アゲイン」中;オンリー発行の先着プレゼント用としてひさびさに書いた…と云うか、書けた話がコレでした;
自分で読み返してみて、しみじみ自分、こういう話が好きってか、コレしか書けないのねーと実感…(笑;でも、少しでも楽しんで頂けたら幸いです(^-^;)それではお読み下さってありがとうございましたv