BATTLE ROYALE ミラバージョン 最終話BY 417
どこまでも広がる、漆黒の海。
「傷は……痛みませんか?」
遠離る島影を見つめ、船尾に佇む高耶に、直江が心配そうに声をかけた。
高耶は振り向くと首を振り、
「先生こそ……」
と笑った。
島には、首輪があるからどうせ逃げられないとタカをくくっていたのだろう、島民の古びた小さな漁船が係留されたままになっていた。
明日の朝になれば、プログラム担当の国の清掃業者が死体を片づけに来ると云う話だったから、二人は怪我をおしても、今夜中に島を離れなければならなかった。
***
あの時、千秋は空に向けて2発を発砲した後、茫然としている二人に向かって唇に指を立て、メモを手渡した。くしゃくしゃになった小さな紙切れには、「今からお前達の首輪を外すから絶対に声を出すな」と書かれていた。
そして、何処から調達したのか、千秋はバッグから取り出した配線コードの切れ端と、マイナスドライバー1本を使って呆気なく二人の首輪を外し、更に、二人に島からの脱出方法と自分の知り合いだと云う、とある医者の連絡先を書いたメモを手渡した。
メモによれば、その医者は裏で反政府運動をしている活動家で、二人の第三国への亡命の手筈を整えてくれると云うことだった。盗聴されている可能性があるからと、千秋とはあの後、メモでの筆談のみで、ろくな会話もできずに別れた。
高耶の、三人で一緒に行こうと云う誘いを、千秋はあっさり断わった。
二度もこのゲームに参加させられ、やむを得ず友人を手にかけさせられ、挙げ句に政府に家族まで殺された千秋には、この国に対して言葉にはできない思いがあるに違いない。『国をひっくり返すなんて、そう簡単にできるわけがない。だが、いつか、せめて一泡ぐらいは吹かせてやる。お前らは無事に脱出できたら、国を潰すなんてバカなこと考えず、二人で仲良く暮らしてくれよ。……死ぬなよ、仰木、センセイ』
千秋は最後に、そう走り書きすると、笑顔を見せて去って行った。
せっかく、いい友達になれたのに。もっと話がしたかった。
助けてくれた礼を云いたかった。生き残った最後の一人だけは家に戻れる──それが「プログラム」のルールだが、あの後、優勝者として武装を解き、政府に投降した千秋は、本当に大丈夫だったのだろうか?
あの、織田と名乗った政府関係者に、彼が自分達を庇ったことが、万に一つもバレてはいないだろうか……高耶は心配でならなかった。
「今は……」
押し黙っていた高耶が、突然口を開いた。
「今は、逃げるしかないけど……いつか必ず、オレがこの手でこの国を潰してやる」
ぽつりと、だが、決意を込めた声。
強く、清冽な瞳。
このひとがやると決めたのなら、きっとやるだろうと直江は思った。
直江は眩し気に高耶を見つめ、
「高耶さん……あなたの行く処へ、何処へでも行きますよ」
直江のその言葉に、高耶は照れくさそうに頷いた。
***
千秋のメモにあった通り、まだ夜が明けきらないうちに、兵庫県のとある海岸に無事上陸を果たした二人は、人目を避けるようにして、手渡されたメモの住所を訪ねた。
応対に出た、中川と云う名のその医者は、全身血だらけの二人を見て、驚いた様子だったが、千秋が書いてくれた手書きのメモを見せるや否や、すぐに病院内に二人を招き入れ、親身になって怪我の手当てをしてくれた。
それから二日後、傷が癒える時間を待つ余裕もなく、二人は互いに包帯だらけの体をコートで隠して、大阪駅にいた。あの医者が、二人の亡命の手筈を整えてくれていた。
驚くほど迅速だった。まず、大阪から電車で金沢まで行き、そこから既に金を渡して了解済という外国籍の漁船に乗り、更に領海外で米国の船に乗りかえるのだと云う。
もし、途中で政府に捕えられ、素性がバレるようなことがあれば、二人ともその場で容赦なく射殺されるだろう。二人が抱えているバッグには、島に残っていた銃や弾薬を、それぞれありったけ詰め込んである。高耶のジーンズの腰にはハンドガンと、最初に自分に支給された、銀色のバタフライナイフがまるで御守のように入っていた。
生きて第三国へ渡れる保障はないが、やるしかなかった。妹の美弥とは、昨夜、中川が第三者を通じて連絡を取ってくれた。
万一の盗聴の心配がある為、電話でほんの数分しか話すことはできなかったが、死んだとばかり思っていた兄の声を聞いた最初こそ泣き崩れたものの、「必ず迎えに行くから」と云う高耶の力強い言葉に、美弥は気丈にも「お兄ちゃんを信じて待っている」と電話口で笑ってみせた。
二年後に美弥も中学三年になる。彼女がプログラムに選ばれないと云う保障はない。高耶は本気だった。今は無力で、一時的に逃げるしかないが、二年以内に必ず戻ってきて、この国を潰してやると。
正午の鐘とともに、オーロラビジョンに午後のニュースが写し出され、高耶のクラスで行われたプログラムの優勝者を告げる映像が流れた。『×月×日より3日間、高知県土佐清水市の××中学校3年B組で実施された第××回プログラムで、2日と17時間43分の苛酷なゲームを勝ち抜いた優勝者・千秋修平君です』
アナウンサーが告げるのと同時に、血で汚れた制服姿で立っている千秋が映し出された。
画面には映っていないが、おそらく両脇には政府の人間が銃を構えて立ち、千秋に無理矢理「笑え」と脅していただろう。
やがて、カメラに向かって千秋は親指を突き立ててにっと笑い、その途端、ニュースを見ていた通りすがりの何人もの人間が、表情を歪めた。
おそらく、千秋が勝利を鼓舞したように見えたのだろう。次に画面は切り替わり、上空からヘリで撮影されたと思われる映像が映された。
それは高耶達がバスごと拉致され、最初に目覚めたあの廃校だった。その校庭に無造作に積み上げられた、島中からかき集められた生徒達の死体の山。それをバックに、今回の生徒達の死亡原因の内訳が淡々と読み上げられた。『……死因の内訳は、銃殺20名、刺殺6名、毒殺1名……自殺者は計4名で、首吊り2名、飛び下り2名でした。尚、飛び下り自殺者2名の他、銃殺された担任教諭と生徒1名の計4名の遺体は海に沈んだと思われ、現時点で発見できていません。政府は引き続き、遺体の捜索を行うとしていますが、発見は絶望かとも見られています」
ここで画面は再びアナウンサーに切り替わり、
『プログラムに参加した生徒の家族には、国から見舞金がそれぞれ支払われ、優勝した千秋修平君には、我が国が認める健全な国民の代表として、総統から色紙の表彰と、生涯の生活保障が与えられます』そこでプログラム関係のニュースは終わり、アナウンサーは口調を変えて、脳天気に告げた。
「次は、たった今入ってきたばかりの、人気俳優××さんと人気アイドル××さんの電撃入籍のニュースです……」
よかった。千秋は生きている。また、傷が癒えれば何処かの学校に強制的に転校させられるだろうが、彼はこの国で彼の戦いを続けて行くだろう。オーロラビジョンに見入っていた高耶の肩に、直江がそっと手をかけた。
「……行きましょう、高耶さん」
微笑む直江に、高耶は頷き、二人は寄り添うように雑踏へと消えた。
今は逃げても、必ず戻ってくる。こんなくだらない国に生まれたせいで、死ななければならなかったクラスメートの分も、オレがこの手でやってやる。
この国を、ブッ壊してやるぜ。END.
長い間、おつきあい下さった皆様、ありがとうございました。
原作のBRにはまったのがきっかけで、ついこんな話を書いてしまいました;元々UPする気はありませんで、一人で喜ぶだけのつもりだったのですが…;い、いかがでしたでせうか?(^^;
思ったより、と云いますか、お読み下さって感想を下さった方の殆どが原作のBRを知らない方ばかりで…でも、読んで頂けてとても嬉しかったです。にしても、やっぱり話が話だけに難しかったです;ってか無謀でした(笑;
ミラの登場人物を出すと、結局最後に死ぬことになっちゃうので、出せないし……殺しても苦情が来ないキャラクターって吉村ぐらい?(爆;本当はもっといろんなキャラクターを出して活躍させたかったんですが…;
直江と高耶さんの影が薄くて、すっかり最初から最後まで、千秋が主役のまま終わっちゃいましたし;でも、初めてってかおそらく、当サイト最初で最後(爆)のマトモな直江が書けて嬉しかったですv個人的には、ぜひとも相馬光子役を出したかったんですけど、でもそんな役、ミラキャラのいったい誰にやらせるっちゅーねん;ってことで、あっけなく断念;他にも、吉村がバリバリ土佐弁なのに女生徒はなぜか東京弁だったり…(笑;もう駄目駄目な感じです(苦笑)
読み返してみて、文章力のなさが改めて露呈って感じでもう本当にお恥ずかしい限りなんですが;でも書いてて自分的にはめちゃ楽しかったので、読んで下さった方も、少しでも楽しんで頂けたとしましたら幸いです(^^;
それでは、こんなところまでおつきあい頂いてありがとうございました!