BATTLE ROYALE ミラバージョン3-2BY 417
直江が目を開けると、視界に、ホッとしたような女子生徒の顔が飛び込んできた。
「直江先生ッ!よかった、気がついたんですね」
覗き込んでいたのは、クラス委員長の浅岡麻衣子だった。「委員長……ここは……」
直江が頭を巡らすと、見知らぬ部屋のベッドに寝かされ、全身を包帯でぐるぐる巻きにされている。起き上がろうとして、直江は全身を貫く激痛に呻いた。
「駄目です、先生、酷い怪我してるんですから、横になっていて下さい。此処は燈台です。私と友達の女の子だけで、このゲームが始ってからずっと立て篭ってます。交代で見張りもしているし、一応、銃とかもあるから心配しないで休んで下さい」
そう云って、浅岡は自分と仲のよい数名の女子生徒の名を告げた。
直江は戸惑ったように、
「私はどうして此処に……君が……助けてくれたのか……?」
すると浅岡は嬉しそうに、
「はい!ちょうど、私が見張りに出た時、双眼鏡で覗いていたら、先生が波打ち際に倒れているのを見つけて、みんなに手伝ってもらって運び込んだんです」
「そうだったのか……それは、重かったでしょう。すまなかったね」
よく、女子生徒だけで、190センチ近い自分を運び込めたものだと、直江は感心した。「でも、先生ぜんぜん意識がなくて、背中にはガラスがたくさん突き刺さっているし、撃たれた痕はあるし、とにかく血だらけで……本当はもう駄目かと思いました。此処にあった救急箱でできる限りの手当てはしたんですけど……ガラスの破片は全部抜いたんですけど、多分、肩とか弾が残ってると思います。でも、どうしようもなくて……先生、怪我、痛むでしょう。大丈夫ですか?」
心配そうな浅岡に、直江は丁寧に頭を下げた。
「大丈夫……委員長、助けてくれて本当にありがとう。感謝するよ」
浅岡は、嬉しそうに笑った。だが、そこで直江はようやく、大事なことに気がついた。見る間にその顔が青ざめる。
「い、今何時ッ──放送は……っ、」
日頃、活発なクラス委員長の表情も、さすがに曇る。
「午後6時半です。……さっき、新しい放送が終わったところです」
「高耶さんっ……いや、仰木君と、千秋君は……?」
「呼ばれていません。これ、先生の上着に入っていたんで……」
そう云って、浅岡は水に濡れ、半ばぼろぼろになりかけている地図を差し出した。
「禁止エリアとか、チェックしておきました。新しく呼ばれた人の名前も……」
地図には、新たな禁止エリアと、数名の男子生徒の名前があった。確かにそこに高耶と千秋の名前はなく、直江はホッと胸をなでおろした。
診療所はすでに禁止エリアに入ってしまったが、万一はぐれた場合の待ち合わせ場所に指定した神社のあるエリアは、まだ禁止エリアにはなっていない。
二人と合流するチャンスは、まだある。
「先生、お腹すいてませんか?」
ふと、明るい声で浅岡が云った。云われてみれば、空腹なような気もするのだが……それより何より、今、直江が切実に欲しいのは水だった。
浅岡は立ち上がると、
「此処、レトルトだけど、シチューとかあるんで今すぐ用意してきます。あと、喉乾いていると思うんで、お水と、効くかどうかわからないけど鎮痛剤も持ってきますね。普通の、頭痛薬とかですけど」
「ありがとう……委員長」
元々、頭の良い生徒だが、本当に気がきく。直江が改めて礼を云うと、浅岡は少し淋し気に笑いながら、ぽつりと云った。「先生。先生は仰木君のこと、好きだったんですね」
突然、云われて、直江はひどく焦る。
「な……っ」
「仰木君は高耶さんで、私は委員長。ちょっと悔しいな」
直江は、咄嗟に何と応えていいかわからない。
「私、先生のことなら、何でもわかるんです。──先生、この意味わかりますか?」
直江が口ごもっていると、浅岡はそれ以上、その話題をやめて笑顔を見せ、
「男の人がいるのを怖がる子もいるんで、この部屋、外から鍵だけかけさせて下さいね。すぐ御飯とお水とお薬、持ってきます!」
そう云って、浅岡は直江を残し、元気に部屋を出て行った。
それから間もなく、一人、部屋に残された直江の耳に、がシャンと云う音とともに、すでにいやと云うほど聞き慣れた、あの、ぱらららら、と云う音が飛び込んできた。