暗殺者リローデッド



BY milkey417


 

東京・西新宿、午前零時。
とある高層ホテルの28階、ビジネススイートフロアのエレベータが開き、男が姿を現すと、『2811』と書かれた客室のドアを守るように立っていた、開崎誠が頭を下げた。

「お疲れ様でした」
男とたがわぬ長身で、髪を後ろへと撫で付け、眼鏡をかけた開崎は、多少、神経質すぎるきらいはあるが、その腕は確かで、男が最も信頼を置く部下の一人であった。
表向きは公設秘書的な役割に従事し、男の留守中は、代理として全権を任せられている側近中の側近である。
「──あのひとは」
問いかけに、開崎が淡々と、
「仰せの通り、午後四時過ぎにオフィスから直接、こちらにお連れしました。チェックインされてから、一歩も外には出られていません。ディナーはルームサービスで、橘様仰せのメニューをお召し上がりになられたようです」
報告を受ける男の鳶色の目元が、微かに和む。
「御苦労だった。明日、また連絡する。今日はもう下がっていい」
開崎は再び、頭を下げた。

橘義明と名乗る、モデルのように恵まれた顔と体躯を持ったこの男は、表向きは小さな不動産会社の経営者だが、国内外にコネクションを持ち、多額の報酬と引き換えに非合法に暗殺を請け負う、ある組織のエージェントである。
組織が手掛ける事件は、どういう理由からか不思議と公に報道されることがなく、男の素性は謎に包まれていた。
『直江』と云う男の本名は、男と、仰木高耶しか知らない。





男が鍵を開けて室内に脚を踏み入れると、ローブ姿の高耶は、大きく取られた窓のヘリに寄り掛かるようにして、眼下に広がる夜景に眼をやっていた。
「……ただいま戻りました」
男が声をかけても、高耶はこちらを見ようともしない。
立ち尽くしているその後ろ姿は、子供が拗ねているようにも見える。
「──高耶さん」
男はゆっくりと近づくと、いとしい体を確かめるかのように、背後から抱きしめた。

かつて自身の暗殺を依頼し、己の命を男に委ねたあの日から、仰木高耶は男のものだった。高耶の左手首には、男以外、外すことのできないプラチナシルバーのブレスレットが光っている。
所有の証のブレスレットには秘かに発信機が仕込まれていて、高耶が例え何処かに逃げようとも、腕を切り落としでもしない限り、男は高耶の居場所を捕らえることができた。



あなたから、何もかもを奪う。
自分を組み敷いた男がそう宣言した時、もはや抜け殻同然の自分から、いったい何を奪うのかと高耶は自嘲したが、直江との出会いが、過去の不幸な事件から、ただひたすら死に囚われていた彼の、何かを変えたのは確かだった。

連れ込まれた男の屋敷で、ホテルで、オフィスの一室で──あれから、幾度、体を重ねただろうか。

残酷に無様に。あなたがそう望んだように、俺があなたを生かしてあげる。
俺の腕の中でなら、何度でも殺してあげる。

熱い囁きとともに、力強い腕に囚われ、奥深く所有の証を打ち込まれ、受け入れる苦痛とそれを凌駕する激しい快楽に責め立てられる度、高耶は己が生きてこの世にいることを、その身に嫌と云うほど思い知らされた。



自分を抱く男の、黒いスーツから仄かに漂う、もはや嗅ぎ慣れてしまった硝煙のにおい。
男の表情や態度は普段と変わらないものの、それが何を意味するかは、聞かなくとも明白だった。
組織の人間が、常に黒服を纏っているのは、自らの手で死を迎えるターゲットへの喪に服す意味だと、高耶は開崎からそれとなく聞いたことがある。

「……『仕事』だったんだな」
押し黙っていた高耶が告げると、男は最愛のひとの首筋に顔を埋めたまま、小声で謝った。
「……すみません」
「………」
高耶はそれ以上、何も云おうとしない。
「高耶さん……」
男は端正な顎を掴んで無理矢理こちらを向かせると、甘い唇に唇を重ねた。
「………ッ」
男の手は、血に塗れているのに。
どうして──この男の口づけは、こんなにも優しいのだろう。
どんな理由があるにせよ、人殺しのいいわけにはならない。
でも──気がつけば、男が人を殺めることより、危険な場所に赴いて、無事に戻ってきたことに、これほどまでにも安堵している自分がいる。

以前、部下のミスから男が一時は命も危ぶまれるほどの重傷を負ったことがあったのだが、男が目覚めた時、高耶は感情を押し殺したような声で、男を見据えてこう云った。
「二度とこんな怪我をするな。お前が死んだら、オレを殺す奴がいなくなる」
それは、素直になれない高耶の、はじめての、精一杯の告白だった。
その一件から、男は高耶によけいな心配をかけまいと『仕事』に出かけることを伝えなくなった。
いつから、これほどまでにも自分は、弱くなってしまったのか。



背後から、ローブの胸を割って侵入してくる指はとても暖かく、この手がたった今、誰かの命を奪ってきたばかりだとは思えない。
「───ッ、」
おそらく、命乞いをしたに違いない、ターゲットを前に、容赦なく銃の引金を弾いただろう、長い指が高耶の胸の尖りを掠めて、下へと降りて行く。
「ンッ……」
敏感な箇所を袋ごと、包み込むように握り込まれて、細い体がビクン、と跳ねた。

素直に反応をかえす高耶がいとおしく、鳶色の眼を細めて男が「ココがいいの?」と問い掛けると、高耶は嫌々と首を振る。
「ちが……っ」
「ちがわない」
感じやすい耳朶に、囁くようにそう断言して、ゆるゆるとペニスを刺激してやりながら、男が背後からもう片方の手で悠々とローブの紐を解きにかかると、高耶の形のいい唇から掠れた喘ぎが漏れた。

男が『仕事』を終えた直後の行為が、普段のそれより激しいことを、高耶は体で覚えさせられている。
甘い快楽の予感に、秘かに身を震わせている淫らな自分に吐き気がする。





ホテルに隣接する高層ビル群には、深夜にも関わらず、ちらほらと灯が点っていて、カーテンやブラインド越しに行き交う人影がはっきりとその眼で確認できる。
見られることを恐れた高耶が、男の腕から逃れようと身を捩ると、すっかりはだけてしまったローブの下、叱咤するようにペニスをきつく握り込まれた。

ヒッと息を止めたいとしいひとに、「逃がしませんよ」と甘く残酷に囁いて、男は尚も巧みな指で若い楔を弄ぶ。
「やっ……クッ……あ……」
囚われたあの日から、長い時間をかけ、たっぷりとその身に快楽を仕込まれた体は、男による容赦のない刺激に耐えられず、すぐに鎌首をもたげて先端の割れ目から淫らな蜜を零しはじめた。
「ちょっと弄ってあげただけなのに。……もうこんなにぬるぬるにして」

なんていやらしいひとだ。
揶揄るような笑とともに、透明な体液に濡れる先端をガラス窓に押し付けられて、その冷たさに高耶はひいっと声をあげる。
背後で男がスラックスの前をくつろげ、中から自分を貫く凶器を取り出すのを感じた高耶が、この状態で犯されると悟って、必死に許しを乞うた。

「だ、めだ……なおっ……見られる……」
男はあっさりと、
「構いませんよ。見たい奴には見せつけてやればいい」
俺を受けいれて喘ぐあなたを見れば、誰もが自慰をはじめずにはいられなくなる。
淫らに囁いて、男は高耶の体から邪魔なローブを取り去った。
ばさっと音を立てて、バスローブがフローリングの床に落ち、仰木高耶の細く引き締まった体が露になる。
「やめっ……」
今、この瞬間にも、もしかしたら向いのビルの誰かに、この姿を見られているかもしれない。
羞恥でカッと顔を紅くして、なんとか逃れようとしても、男の力にかなう筈もなく──高耶はあられもない姿でガラス窓に追いやられて、腰を突き出すよう命じられた。

「やだ……なおっ……」
弱々しく抵抗する腕を掴んで、男は悪戯そうに微笑む。
「しょうのないひとですね」
おいたする悪い手は、こうしてしまいますよ?
甘く囁くと、男は床に落ちているローブの紐を引き抜き、一纏めにさせた細い両手首をやすやすと縛り上げた。
「……ほどけよっ……」
嫌がる唇に、背後からまわされた指を強引に銜えさせられる。
「ンン…ッ、」
高耶が苦しがるのも構わず、男は下の口を犯すように、揃えた二本の指で口腔を淫らに掻き回しながら、諭すように囁いた。
「奉仕の仕方は、前に教えてあげたでしょう?指だからって手を抜いたら駄目ですよ。俺のをしゃぶる時のように、もっと舌を使ってしっかり舐めて。ちゃんと濡らさないと、後で痛い思いをするのはあなたなんですよ?」
「ンン──クッ、」

口腔を散々に蹂躙し、唾液に濡れた指が徐に引き抜かれると、再び、何の前触れもなくペニスを背後から握り込まれて、高耶は背を仰け反らせる。
急所を掴まれ、咄嗟にひけてしまった腰が、結果的に男に向けて腰を突き出す形になってしまう。
男はその場に屈むと背後からまわした手で勃ちあがったソレを尚も刺激してやりながら、形のいい双丘の狭間に躊躇いなく顔を埋めて、隠されている紅い蕾に躊躇いなく口づけた。
「ヒッ……!」
あまりの刺激と激しい羞恥に、震える膝が崩れそうになり、高耶はローブの紐で戒められた両手をガラスについて、甘い責に必死に耐える。
二つのボールごと包み込むこうように執拗に前を責められ、ヒクつく蕾を舌先でちろちろと舐め上げられて、ビクビクと震える体に、やがて高耶自身の唾液で濡れた指がつぷ…、と沈んだ。
「ああ……ッ、」

異物の侵入に震えながら仰け反る背が、とても綺麗だと男は思う。
ペニスを扱いてやりながら、飲み込ませた指先で男の体でいちばん弱いとされる、栗の実大のそれを刺激するように出し入れを繰り返すと、高耶の唇から堪え切れない喘ぎが溢れた。
「やっ……なおっ……も、……」
両手を戒められた不自由な体で、必死に顔をこちらに向け、涙を讃えた目元が、男を見る。
「高耶さん……」
その眼に誘われるように男は立ち上がって、徐に指を引き抜くと、今にも弾けてしまいそうな若い楔を掴んだまま、細腰を己の方へと引き寄せた。


力を抜いて。
耳朶へ囁くのと同時に、それまでの指淫で綻んだ蕾に先端をあてがう。
「クッ……」
そのまま、圧倒的な力で押し入ってくる、熱くて太い直江の凶器。
体を割られる痛みに、たまらず悲鳴をあげて、本能的に苦痛から逃れようとする腰を再び、己の方へと引き寄せて、男は強引に押し入った。

「あああ───ッ」
静寂を引き裂くように、男の侵入に合わせ、反らせた喉奥から押し出される悲鳴。
突き入れられたソレで、それまで散々に指先で弄ばれていた前立腺を容赦なく擦り上げられ、根元まで深々と貫かれる。
耐え切れず、結合と同時に高耶は男の掌に握られたまま、放ってしまっていた。
「ああ……っ、あ……」
熱い襞がきゅうっと中にいる男のペニスを締めつけたと思うと、断続的な収縮にあわせて、ガラス窓にしろいものが吐き出される。
「クッ……」
高耶の肉によってもたらされる目眩のするような快楽。
女とは比べ物にならない熱くきつい締め付けに、直江の口からも、吐息のような声が漏れる。
「ッ……」
前後で同時に果て、今にも崩折れてしまいそうな体を、打ち込んだ己の肉と強い腕で背後からしっかりと支えてやりながら、男はまだ快楽の余韻にあるのか、荒い呼吸を繰り返し、小刻みに身を震わせている、いとしいひとの首筋に口づけた。

「あなたの中にようやく入ったばかりだというのに。ひとりでイってしまうなんて、随分、ひどいひとですね」
咎めるように囁いて、深く結合したまま、背後から胸の尖りの片方をつぶすように弄ぶ。
「やっ……クッ……」
放出後のより敏感な体を思うさま嬲ってやりながら、男は、手首を戒めていたローブの紐を解いてやると、形のいい耳朶に何か囁いた。
その途端、高耶がカッと顔を紅くして、嫌々と首を振る。
男はクスッと微笑んで、
「俺を置いて、一人でイったお仕置きですよ。今更、できなくはないでしょう。処女ぶって恥ずかしがっていないで、いい子だから云われた通りにして……」
男は、だだっ子を諭す親のように、嫌がる高耶の両手首を掴むと、双丘に持って行かせ、自らの指で尻を割り開くよう命じた。

「………ッ、」
ガラス窓に片方の肩をついて体を支え、男に向けて腰を突き出し、両側から男のペニスを銜えたままの尻を掴んで割り開く、淫らなポーズを強いられて、高耶の眼から涙が伝う。
「いい格好ですね。高耶さん……本当に、あなたほどの淫乱は見たことがない。いまも俺のを銜えているくせに、そうしていると、まるで、俺にもっと犯してほしいって、せがんでるように見えますよ」
「いうっ……な……!」
羞恥に身を震わせているその背に、男はいとおしげに口づけ、甘く囁いた。
「そのまま、じっとしていて下さいね」
うんとヨクしてあげるから。

男はくびれ部分まで己を引き抜くと、再び腰を入れてグッと押し入った。
「ヒッ……!」
自らの手で其処を広げさせられている為に、より結合が深くなり、あまりの刺激に悲鳴をあげて撓る背がいとおしくてたまらない。
ぱっくりと開かれた、高耶の肉と己の肉が結合する箇所を熱く見つめながら、男はゆっくりと抽送をはじめた。
自分の動きに合わせてめくれる紅い襞をその眼で楽しみ、ひとつに繋がっている蕾の縁を指先で辿りながら、男は揶揄るように云う。

「本当に、あなたのココは貪欲ですね。こんなに小さなお口で、ピクピク震えながら、俺のを根元まで飲み込んでしまう」
「だま、れ……っ、やあっ……!あ……」
淫らな指摘に必死に抗おうとする高耶の意志とは裏腹に、受け入れる快楽を教え込まれた体は、男が行き来する度、より激しい快楽を貪ろうと男のペニスを無意識に締め付ける。
男は感嘆するかのように吐息をついて、
「すごい締め付けだ。俺に、まるで出ていくなって云ってるようですよ?」
高耶は否定することもできず、ただ泣きながら、嫌々と首を振るしかできなかった。



愛している。
あの日から、数え切れないほど体を繋げ、言葉にするのも憚られるほど、無惨な行為をその身に強いて、欲するまま、滾る肉を突き立てどれほど貪っても、そうする度に高耶への飢えは激しくなるばかりだった。
高耶を組み敷き、白濁を飲み込ませる度、このひとに囚われたのは、自分の方なのだと思い知らされる。
気違いじみた執愛は、いつか高耶を壊してしまうかもしれない。それでも男は、今、腕のなかにいるこの存在を手離すことなどできなかった。

「高耶さん……俺を感じて……」
あなたのなかにいる。
男は細い腰を掴んで、時間をかけて殊更、ゆっくりと出し入れを繰り返す。
「ああっ……なお……っ、あ……」
熱く脈打つソレで、深く後ろを犯され続けるうちに、放ったばかりの楔が再び頭をもたげる。
いつしか高耶の唇から止めどなく溢れる喘ぎには、こうしている姿をいつ誰かに見られるかもしれない、羞恥や屈辱を超えた、甘い声色が滲んでいた。

快楽に蕩け始めた体は、もはやガラス窓に押し付けた肩だけでその身を支えることは困難だった。己の双丘を掴んでいた手を窓につき、もう片手がおずおずと屹立へと伸ばされるのを、男は許さない。
細い手首をやすやすと掴んで、耳朶に甘く叱咤する。
「駄目ですよ。あなたと云うひとは。また、そうして勝手にぼうやを擦って、ひとりでイってしまおうとするの?」
高耶は子供のように嫌々と首を振る。
「なおっ……」
後ろに顔をねじ曲げて、きつい目元を涙で潤ませ、切なく男の名を呼ぶ高耶。
何気ない仕種の一つ一つが、どれほど男を狂わすのか、おそらく本人は気付いてもいないのだろう。
男が仕方ありませんね、と苦笑して、高耶の右手に自分の手を重ね、再び勃ちあがった若い幹を握らせ、上下に扱いてやると、たちまち細い体がビクンと撓った。

「ああっ……あ、……クッ……」
奥深く貫かれたまま、許された自慰に、形のいい唇から、ひっきりなしに溢れる喘ぎは、もはや意味をなさなくなっている。
「いい声ですね。高耶さん……ゾクゾクしますよ」
繋がったままの腰を揺すってやりながら、淫らな言葉を吐き続ける男の声色にも、いつしか余裕がなくなっていたが、それ以上に快楽に喘ぐ今の高耶が男の変化に気付くはずもなかった。
「──仰木高耶。もっと、啼かせてあげる。ほしいだけあげる。あなたが望むことを、なんだってしてあげる」
熱い囁きは高耶の全身を呪縛する。
「なおっ……」
この男の腕の中で、今、自分はこれほどまでにも生かされているのだと思うと、高耶の目尻から涙が伝った。

「ひいっ……や……ああーっ……!」
繰り返し加えられる、激しい抽送。
男は、今にも崩れてしまいそうな高耶をガラス窓に押し付け、細い腰を掴み、飲み込ませた凶器で狭く熱い襞を繰り返し抉る。
あまりの刺激に、壊れてしまったかのように、高耶はもはや何も考えられなくなって、甘い嬌声をあげ続け、己の中を出入りする男の肉塊を追うだけの淫らな人形と成り果てた。
「ヒィッ……ヒッ!……、ああっ……!」

やがて、男を受け入れ、ひとつに繋がったあの場所から、痺れにも似たあの感覚が駆け昇ってきた。絶頂は近い。
「──なおっ……、も、でる……ッ」
抑えられない言葉が、迸った。
「高耶さん──」
いとしいひとの限界を感じた男が、僅かに引いた己の腰をこれ以上ないほど打ちつける。
「アア──ッ」
細い体を仰け反らせ、掠れた悲鳴をあげて、またしても、先に果てたのは高耶の方だった。ガラス窓に、しろい飛沫が飛び散る。
「ああっ……あ………」
きつく収縮する襞が再び、射精に合わせて中の男をきゅうきゅうと締めつけ、それに合わせて、男が一瞬、息を止める。
その直後。
「──クッ」
微かな呻きとともに、男はいとしい体内に欲望を解放した。

「あ──」
前後で同時に果てると同時に、己の体の奥深くに、直江が放った熱い白濁がドクドクと注がれるのを感じて、高耶の唇から声にならない声が漏れる。
「高耶……ッ、」
「くっ……あ……、」
男は己の肉で繋がったままの細い腰を揺すって、思いの丈の最後の一滴までをも高耶の体の奥深くに注ぎ込むと、やがて名残りを惜しむかのように、放ったばかりのペニスを殊更ゆっくりと引き抜いた。
たった今まで二人が結合していた証のように、陵辱に綻んだ蕾と、己の放った白濁に塗れた男のペニスの先端が、淫らなしろい糸を引いて、ふつっと切れる。
高耶の散らされた蕾からは、飲み込み切れずに溢れた男の白濁がツーッと内腿を伝い落ちた。

「──……ッ、」
男が出て行くと同時に、力を失った高耶は、壊れた人形のように、ガラス窓越しにずるずるとその場に崩れ落ちた。
はあはあと、まだ苦し気な呼吸を繰り返す体が、男の力強い腕に抱き起こされる。
「──高耶さん……」
高耶のきつい眼は、いまは涙と快楽の余韻に切なく潤んで、自分を抱きあげる男に向けられていた。





どちらからともなく、互いに引き寄せられるように重なる唇。
二度の放出と、激しく貪られた為に力の入らない腕が、男の首に回される。
「高……」
男は少し、驚いたように腕の中のいとしいひとを見つめた。高耶の方から、こうして自分に触れてくることは滅多にない。
「高耶さん……?」
少しの間、高耶は男の硝煙のにおいの微かに残る、黒いスーツの胸に顔を埋めていたが、やがて、ぽつりと口を開いた。

「直江。……お前、明日も『仕事』なのか?」
高耶が吐いた思い掛けないその言葉に、男は心底驚いたようだった。
「……開崎から聞いたんですか?」
すると高耶は首を振って、
「『黒幕』だかなんだか知らねえけどな。……お前のことなら、わかる」
それは暗に、自分がお前のいちばん近くにいるのだから、と告白しているようなものだった。
いつも自信たっぷりに自分を犯すこの男の、戸惑ったようなこんな表情ははじめて見ると、高耶はその口端に微かな笑を浮かべて、
「わかってると思うけどな。勝手に死んだりしたら、オレはお前を許さない」
「高耶さん……」
たった今、あれほど貪ったばかりだと云うのに、どうしてこのひとは、こんなにも綺麗なのだろう。男は、本当にこのひとにはかなわないと云うように、観念したようにいとしい体を抱きしめた。

「──わかったら、いますぐベッドへ連れていけ」
さみーんだよ。
照れたようにつぶやく高耶を、男は恭しく抱き上げた。
「御意」


オレをこの世界に繋ぎ止めたのは、おまえ。
オレが生きてこの世にいる限り、何があろうと、お前はオレの元に戻ってくる。
──そうだろう?

あの日、強引に自分を奪った男の腕で、ベッドに運ばれる間、仰木高耶の顔には、かつて死に囚われていた頃の彼にはありえなかった、幸福な笑が浮かんでいた。


Das Ende.



おひさしぶりです。当サイトの良心(え?;)甘甘担当、milkey417ですv
これは、椎名が書いた「暗殺者」の、なんちゃってなその後ですの(^-^;)
てか、単にやってるだけです(爆)だって、えろが書きたかったんですもの(>_<)v

ちなみに、この直江が高耶さんを閉じ込めずに自由にさせているのは、仕事柄、もし自分に万が一のことがあったら、と云うことがあるからです。(とはいえ逃げられないよう、発信機つきの腕輪をつけさせた上、高耶さんが一人で外出する時は、しっかり開崎に見張らせてますけど/笑)
仕事はアレでも、うちではめずらしく、案外、マトモなこの直江ですが、ここにいたるまでの躾は厳しかったんですの。ほほほv(調教中のアレコレは、御自由に想像して下さいv)

もっとシリアスに書くつもりだったんですけど…、そうすると、誰もそんなの読みたくねえよ、みたいなどろどろな話になっちゃいそうなのでιとりあえず高耶さんを犯れればいいや(爆)みたいな感じで書き始めたら、なんだか、ただの甘甘(当社比)になっちゃいましたね(^-^;)

とりあえず、「暗殺者」はこれで本当におしまいです。
今回、甘甘だった反動で黒417がものすごーく、キチクを書きたがっているみたいです(爆)
次の更新が何になるかはわかりませんが、また何か書けたら読んでやって下さいませ(^-^)