「暗殺者・後編」



BY 椎名


 

「──まずは、これを奪いますよ。俺はまだ、あなたのこれを知らない」
直江は柔らかな唇をいとおしげに指先で辿った。
どんな味がするんでしょうね?
囁いて、そっと唇を寄せていく。
「……!」
高耶の瞳が驚きに見開かれたが、使われた薬のせいで弛緩した体は、抵抗する術もなく、男の口づけを受け入れた。


「ンン……ンッ……」
汗ばむ前髪に指を差し入れ、少し顔を仰のかせて半開きにさせた唇を、男は容赦なく奪う。
「や──クッ……、」
力の入らぬ体で、差し込まれる舌から逃れようと、弱々しく背ける顎を押さえ込み、散々に甘い唇を貪って、ようやく許してやると、涙を湛えた瞳がこちらを見上げた。
「なんて眼をするんですか、本当に、あなたというひとは……」
おそらく、今の自分がどれだけ男の欲望を煽るのかなんて、このひとはきっと、思いもしないのだろう。


首筋に深く顔を埋めて痕がつくほど吸いあげてやる度に、ビクビクと身を震わせる高耶がいとおしい。胸の飾りの片方を、指先で摘んで捏ねるようにしてやると、感じすぎるのか、高耶はつらそうに身を捩る。
「や、めっ……クッ……」
「ココ……そんなに感じるの?」
男は目を細め、いとしい体の反応を確かめるように、指での愛撫を続けながら、もう片方の突起を徐に唇に含んで吸い上げた。


「や、……クッ……あ、……」
堪えようとしても、女のような喘ぎが口をついて出てしまう。
きつい目元を潤ませて、必死に制止を求めても、それで許されるはずもなく、無垢な体に、容赦なく加えられていく愛撫。

唇で胸の突起を責め立てながら、男の手は薄い胸を滑り、脇腹を掠めてすでに形を変え始めている若い楔へと降りて行った。
敏感な箇所を、生まれてはじめて他人の手で握り込まれて、高耶は息を詰める。
「や、だ……ッ、そこ、……クッ……」
直江の巧みな指先が、あやすように幹を扱き、根元のボールを揉みしだき、先端の割れ目をゆるゆると擦りあげると、高耶は子供のような泣き声をあげて、嫌々と身を捩った。
「高耶さん──気持いいの?」
「ち、が……アアッ……、」

淫らな囁きを否定したいのに。
羞恥と屈辱からぼろぼろと涙を零し、唇を切れるほど噛みしめて、どれほど堪えようとしても、ソレを刺激される度に、あられもない声が溢れてしまう。
容赦のない手淫で、撓りかえった幹の先端から、透明な蜜が溢れ出すと、男は徐に身を起こし、両膝裏を無造作に掴んで、大きく左右に開かせた。

「………ッ!」
先走りに濡れそぼる幹も、その奥でひっそりと息づく秘所も、己のすべてを晒す淫らな姿勢を強いられて、高耶が羞恥に染まる顔を背け、みるな、と叫んだが、無論、男は容赦しなかった。
もはや己の所有となった仰木高耶のすべてを確かめるかのように、露にさせた箇所を熱い眼で見つめ、尖らせた舌先で前触れなく、透明な蜜を零し続けている先端を舐め上げる。
「ヒッ、」
その途端、細い体がビクンと跳ね、信じられない刺激に、背けていた顔を思わずあげてしまった高耶と、強引に開かされた脚の狭間に顔を埋めている男の眼がかち合った。

「高耶さん……」
男が、熱く囁いた。
出したくなったら出してしまって構わないから。飲んであげる。このぼうやは、まだひとの口でイったことはないでしょう?
カッと紅くなり、やめろと叫ぶ間もなく、次の瞬間には、くびれ部分までを唇に含まれていて、高耶はひいっと悲鳴をあげた。

「やめ──ヒッ!……ああっ……、」
射精を促すように、深く浅く、きつく緩く、敏感な幹を吸い上げながら上下する唇。
はじめての体に、その刺激はあまりに強すぎた。

「やっ……クッ、ああ……っ、」
形のいい唇からひっきりなしに漏れる堪え切れない喘ぎが、今、高耶が感じている否定しようのない快楽を物語る。
もはや限界だった。このままでは、男の口に放ってしまう──泣きながら、必死に離してくれと哀願するが、男は容赦しない。

「駄目……だ、も、……っ、離、し……」
涙に濡れた眼を見開いて、絶望のなかで「もう、でる、」と叫んだ時、男が一際強く撓る幹を吸い上げた。



「あ───……ッ、」
切ない悲鳴とともに、男の口腔で若い楔が弾けた。
「ああ……っ、あ……」
ビクンビクンと、細い体が痙攣し、それに合わせて甘美な蜜が男の喉奥に注がれる。いとしいひとの放った蜜を、一滴残らず味わい尽くして、ようやく男は顔を上げた。
「高耶さん──あなたの蜜は、甘いですよ……」
そして、放ったばかりでまだ肩を喘がせている高耶がその頬を朱に染める間もなく、再び、男は強引に開かせたままの股間へと顔を沈めた。

もう一度、萎えたソレを銜えられ、嬲られるのだと思った。
だが、次の瞬間、思ってもみなかった箇所を舐め上げられて、高耶はあられもない悲鳴が上げた。
あろうことか、男の唇はペニスではなく、高耶の蕾を捉えていたのだ。
「───ヒィッ、やだっ……!そこ、やめっ……ああっ……」

自分の体の、あんな箇所に口づけられている──正気を無くしてしまいそうなほどの羞恥に、逃れようと弱々しくもがく高耶に、男は諭すように云う。

「我慢して。はじめてですからね……濡らさないと、つらいのはあなたですよ」
男は何度も処女の蕾に口づけては、尖らせた舌先で高耶自身の蜜の混ざった唾液を敏感な襞へ注ぎ込む。
そうして、片方の脚を強引に己の肩にかけさせ、閉じられないようにしてから、唾液でしっとりと濡れた蕾に、傷つけないよう慎重に、いちばん長い指を潜り込ませ、高耶がまた新たな悲鳴をあげるのも構わず、熱い襞を探るように少し曲げた指先で掻き回した。

「ヒ──ッ!やあっ……やめ、ああっ……」
生まれてはじめて、異物を飲み込まされ、男がいちばん弱い箇所を体内から嬲られて、高耶は髪を振り乱してあられもなく喘ぐ。
男が、探り当てた栗の実大のソレを潜り込ませた指先で執拗に刺激すると、やがて、指を銜えた狭い襞がきゅうっと収縮し、放ったばかりで萎えたままの楔の先端から、再び、しろいものが溢れ出してとろとろと内腿を伝った。
「ひい──ヒッ……」
「おやおや」
男が揶揄るように云った。
「勃ってもいないのに、ぼうやからおいしそうな蜜が溢れてきましたよ?ココに指を入れて、ちょっと弄ってあげただけなのに」
高耶さんは、男のくせに、ぼうやを弄られるよりココがいいようですね。
直江はクスッと笑って、滴る蜜に徐に舌を這わせ、尚も埋め込んだ指で責め立てる。

「──ヒッ!……やあっ……、クッ、ああ……」
前立腺を刺激され続け、壊れてしまったかように、ずるずると止まらない絶頂。
「高耶さん……今からココに指なんかよりもっといいものをあげる。少しの苦痛と引き換えに、あなたは今、感じているよりもっと激しい快楽を手に入れることができる」
激しい愛撫に翻弄される高耶は、男が囁く言葉も、もはや自分が何を口走っているかもわからない。

そして。まだ小刻みに痙攣している体から、唐突に指が引き抜かれると同時に、長い脚を胸につくほど折り曲げられ、何が何だかわからぬまま、高耶は熱くて太い切っ先に貫かれていた。

「アッ……アアアアー───ッ!」
はじめての襞を引裂いて、激痛とともに容赦なく押し入ってくる熱い肉塊。
底無しとも思えた快楽の海から、一気に地獄へと引きずり下ろされた唇から、凄惨な悲鳴が迸る。
苦痛を堪えようと無意識に掴んだ両手首を戒める手錠の鎖が、ジャラジャラと音をたて、いとしい体とようやく結合を果たした男の唇からも、想像以上にきつい襞の感触に、苦痛と快楽がないまぜになった吐息のような声が漏れた。

「ああっ……クッ……あ……」
肉の凶器を根元まで穿たれた高耶の眼から、生理的な苦痛の涙がぼろぼろと溢れ、滑らかな頬を伝う。
「高耶さん……」
男が繋がったまま、上体を倒して覗き込むと、たちまち、高耶は鋭い悲鳴をあげて息も絶え絶えに哀願した。
「──いた、いっ……うごく、な……」
「高耶さん……今だけ、我慢して下さい。大丈夫、すぐですよ──すぐにヨクなる」
宥めるように囁いて、ゆっくりと動きはじめた男の下で、高耶の喉が仰のく。



自白剤の作用で、感情を偽ることも許されず、直江が体内を出入りする度、高耶ははじめての体を割られる激痛に悲鳴をあげ続け、やがて破瓜の苦痛の果てにもたらされた快楽にあられもなく喘ぎ、啜り泣いた。






残酷に、無様に。
高耶自身が望んだように、幾度、女のような嬌声を上げさせられ、男の白濁をその身で受け止め、しろいものを吐き出させられただろうか。
繰り返される陵辱に半ば意識を無くしかける度、激しい突き上げに悲鳴をあげて、容赦なく現実へと引き戻される。
ぼんやりと見開かれた虚ろな視界に映る、白い天井に投影された淫らな影絵。重なった二つの影は、結合の激しさを現すかようにゆらゆらと揺れていた。

「高耶さん──高耶……」
鎖骨を這う熱い生き物のような舌の感触、左右に割られ、高々と掲げられたままの両脚、びっちりと最奥まで繋がった腰、覆い被さる男の、自分を呼ぶ熱い囁き。

首筋に顔を埋めていた男が、抽送を止め、顔をあげて端正な顔を覗き込むと、高耶は放心したように、涙に濡れた眼を天井に向けたまま、こちらを見ようともしなかった。
「高耶さん……?」
そっと、名を呼んで頬に手を押し宛て、こちらへ向かせる。
「高耶さん……」
「…………」
言葉は発していなかったが、正気を手放してしまったかのような、壊れた唇が、微かだが、はっきりと動いた。
それ以外の言葉を紡ぐのを忘れてしまったかのように。
殺してくれ、と。

直江は、胸を突かれて、しばらくそのまま動けなかった。
(高耶さん……)

「俺では──駄目ですか。どうしても、こうされなくては駄目なのですか……」
繋がったままの上体を起こし、ひどく悲し気な声で呟いた男の指が、高耶の細い喉にかかる。
その時、はじめて高耶の表情に薄い笑が浮かび、ようやく楽になれるという安堵からか、泣き腫らした目尻からツー、と新たな涙が伝うのを、男は痛ましげに見つめていた。





++





いつ、意識を飛ばしたのかもわからぬまま、次に高耶が目覚めた時、その両腕はまだ、手錠で繋がれたままだった。
情事の後が生々しく残る、乱れたままのベッド、薄暗い室内。

理不尽な陵辱への怒りも、男の身で男に抱かれた屈辱も、羞恥も、涙も、懊悩も。吐き出すものが何もないほど、すべてを暴かれ、貪られ続けた体は、まるで自分の体とは思えないほど痺れ切っていて、指一本動かすのも困難なほど、重く、虚ろだった。

あなたを奪う。
その言葉通り、心も体も、何もかも、一夜のうちにあの男に、すべて奪い尽くされてしまった気がした。
ただ、思ったのは──まだ自分が生きてこの世にいると云う、現実。




「……気がつきましたか?」
ベッドに腰掛け、寛いでいたらしいローブ姿の直江が、手にした煙草をナイトテーブルの灰皿に押しつけると、体を倒して覗き込んできた。
当然の権利とばかりに、細い顎に手を伸ばすのを、拒むようにして、狂乱の果てにすっかり枯れてしまった声で高耶が呟く。

「オレを──どうするつもりだ……」

男は薄く微笑んで、逆に問いかけてきた。
「何故、そんなことを聞くんです。あんなに殺せと騒いでいたくせに。あれほど死にたがっていたひとが、これから自分がどうなるか、怖いんですか?」
「………」
その言葉に、唇を噛みしめて押し黙った高耶の横顔に、男は静かに問いかけた。
「高耶さん……今もまだ、殺してほしいですか?」
「………」
高耶は答えなかった。こちらを見ようともしない。

「──そうですか。なら、仕方ありませんね」
男は、わざとらしく吐息をついて、
「しばらくはこのまま、ベッドに繋いでおきましょう。時間はたっぷりありますからね。……あなたの体はとても具合がいいから、性奴として仕込むのも悪くない。おもちゃでの一人遊びや、昨日、俺があなたにしてあげたように、唇での奉仕の仕方や、あなたがまだ知らない快楽を、たっぷりと教えてあげる。後で首輪を買ってきてあげますよ。あなたには、きっとよく似合う」
昨日だって、とても処女だとは思えないほど、俺を銜えて、あんなによがっていましたからね?

涼しい顔でそう告げる直江を、高耶がカッと顔を紅くして睨み付けた。
先ほどまでの、壊れた人形のように虚ろな表情とは違い、その眼に力がこもっている。
「てめえっ……」
ギリッ、と唇を噛み締めるいとしいひとを見据え、男は微笑んだ。
「やっと俺を見てくれましたね」

直江は真顔になって、諭すように云った。
「これからのあなたが、どうなるかは、高耶さん……あなた次第ですよ」
「──どういうことだ?」
「あなたは俺に命を預けた。あなたはもう、俺のものだ。いつまでも死にたがっている悪い子には、それなりの躾をしますから、覚悟して下さい。ただし、俺の腕のなかでなら──あなたは自由だ。この部屋で飼われるのが嫌だと云うなら、俺の傍らで仕事を手伝ってくれてもいい」
「オレに……人殺しをさせようってのか」
掠れた声で呟く高耶に、直江はまた微笑んで、
「そうは云っていませんよ。あなたに殺人ができるわけがないし、大事なあなたに、万一にも、危険な真似はさせられませんからね。手を汚すのは、俺だけでいい」

「あんた」
高耶は男の言葉を遮った。この男が何故それほど自分に執着するのか、どうしても理解できなかった。
「直江、ですよ。昨日も云ったでしょう?直江と呼んで下さい」
「……。オレの……」
「……なんです?」
後に続く言葉は、小声になった。

──オレなんかの、いったい何処がいいんだよ。

紅くなるつもりなどなかったのに、高耶の顔は真っ赤になっていた。
直江はまた、微笑んで、
「あなたの──すべてですよ。仰木高耶」
愛しているから。
例え、エゴだろうと、あなたの唯一の望みだろうと、あなたをみすみす死なせてあげるわけにはいかない。

ゆっくりと、直江が再び、覆い被さってきた。
「生かしてあげる。俺の腕のなかで」
男が真摯に囁いた。
「──直江……」
「生きて下さい、高耶さん」




直江と云う名の、甘く残酷な暗殺者。
男は、確かに仰木高耶を殺した。
昨日までの彼を。

首筋に顔を埋める男の重みをその肌で感じながら、高耶はある予感に囚われていた。
もしかしたら、近い将来、この男を──愛するかもしれない、と。



Das Ende.


やっと後編、お届けできました(>_<)
てかその前に、美弥ちゃん&美弥ちゃんファンの方ごめんなさい!!!(平謝り;;;)
このお話、だいぶ前に実は殆ど書き上がっていまして、本当はもっと、ものすごくアレな展開だったんですけど(死;)やっぱり、直×高もどきとして書くにはいくらなんでも暗すぎる…とか思いましてι
で、設定を変えて書き直した結果、ストーリー的に、高耶さんが「自殺では生温い」と思う理由が、弱くなってしまいました(爆;
……でもいいですよね?;暗い終わりにしたくなかったんですもの(>_<)

ちなみに、先の後書き(?)にも書きましたが、このお話は佐×亜有子さんの「抱いて、そしてそのまま殺して」という作品が自分的にツボだったもので、つい書いてしまいました。
(お借りしたのは暗殺者とそれを依頼したクライアントという設定だけです。原作はこんなストーリーではありませんので一応、念の為(笑;)

それでは、読んで下さってどうもありがとうございましたv