「Voice」


BY ひかるさま



「裏四国」は成就された
これが゛あの人の望んだものなのか・・・・
こんなものの為にあの人の命が救えないのか!忌まわしい、呪わしい!これが・・・・これが俺からあの人を奪ってゆくのか!
赦せない・・・・赦せない?・・・・・・何が赦せないと言うのか・・・・・・
赦せないのは俺だろう・・力の無い己自身だろうが! 
何が力ずくで止めただ・・・・止められたのは俺だろうに・・・・・
自分自身の力の無さが呪わしい、忌まわしい!こんなに心は逸るのに何故あの人に伝えられなかったんだ!
 俺にはもうあの人を救うことは出来ないのか・・・・
言葉ではもうあの人に伝える事は叶わないのか・・・・・・・・
止めることも・・・愛を囁くことも・・・・・・
言葉では・・・ もう何も!

その時から直江信綱は言葉を無くした。
最愛の人と対時した、あの唐人駄場から・・・・・・.
思いは届かない。もう何も・・・・・・
俺の思いは。    
 高耶さん

 この涙は枯れる事が無いのか、零れる涙が止まらない。
裏四国を成し遂げた高耶を目にした時も、高耶に触れた時も、無事な顔を見た時も全てに於いて瞳から涙が零れた。
 声も出せず只、ひたすら涙だけを零した・・・・・
貴方の声を聴かせて、瞳を開けて、俺の名を呼んで・・・高耶さん・・高耶さん、高耶さん!
 男は、ただ祈った。ひたすら呼んだ、呼びかけた.叫んだ!・・・・つもりだった。
が、それは声にならない叫びだった.言葉が発せられる事は無かった・・・.
己の意思と関係なくその唇から愛しい人の名が聴こえる事は有り得なかった。
今はもう、その男の声は涸れ果てて、心地良く響く低音も聴く事は出来ない・・・・・・




直江は高耶を連れ戻った。いとしい人の体温を肌で感じながら。
未だ開かぬその瞼の上に静かに唇を寄せた。自分と争った時に流した涙の後を梳くってやるように・・・・・
そっと唇を寄せ、頬からまた瞼へと涙の後を辿った。
高耶さん高耶さん。と何度も呼びかけながら・・・・・・・・
それでも、決してその唇から声が洩れる事は無い。その思いは届かない。自分の声は、言葉は高耶には届かない あの時のように自分の言葉など、何の意味も持たない。
   俺の言葉など事何の意味も持たない     
あの人に伝わらないのなら、あの人を救えないのなら、
言葉など要らない!こんな声など必要無い・・・・・・
 絶望に討ち拉がれたその時、直江信綱は、自らの意思でその声を封じた。
「あの人」の好きだった声を・・・・・
     高耶さん




 目を覚ました高耶の前に、直江の姿が映った・・・憔悴しきった面持ちで、涙を零して高耶を見つめ続けた。
    やっぱり
目を覚ませば必ず直江が居る。俺にしか見せない顔で、俺だけに向けられる瞳で、俺だけの・・・・・俺の
「直江・・・」
高耶の囁き声が一心に向けられる。自分の枕元に寄り添う男へと・・・・・・・
高耶さん、直江の唇が高耶の名を呼んだ。そして、そっと瞼に手を添えた。優しく。
そして、愛しく・・・・・全ての出来事がまるで、夢であったように。
ただ・・言葉もなく触れる事だけで思いを伝えるように。
「・・・・・直江」
高耶は貪るようにその手に触れている。自分の顔を優しく触れていく温もりに。
「・・・・っ・・」
自分を見つめるこの男の優しさを求めながら。
直江は高耶の髪を梳いてやる。高耶は直江に髪を梳かれるのが好きだった。
口にこそ出した事は無いが、そうしてやる事が好きなのだと、はたで見ていてる方が思わず笑みを零しそうになる程幸せそうな顔をする。
勿論、直江以外の者がしてもその顔は見る事は出来ない。
「直江・・・?」
高耶は何度目かの呼びかけにやっと不信を覚えた。先程から一声も発しないで、静かに見守っている直江が、言葉を綴る事を出来ないと言う事に。
 言葉なさげに愛しい人の振る舞いを1つ残さず脳裏に焼き付けるように・・・・・
「直江・・・声が・・・」
出ないのか? と高耶が聞く。
ええ と冷やかな目線で直江は、自らを戒めるように冷たく答えた。
    貴方を止められない言葉なら、必要ない!

その冷徹な瞳から高耶は総てを覚ったように顔を歪めた。それを察した直江は、そっと両手を高耶の頬に添えて頭を振って見せた。
 貴方のせいじゃない・・・・と。だから泣かないで・・・・
直江の瞳はそう語った。その瞳は決して高耶から視線を外す事無く.真直ぐに純粋に。瞳だけでその気持ちを伝えようと。
高耶は涙を零した。
「直江…。直江、直江!」
直江の両手に温もりを感じながら、この男の思いを全身で感じていた直江は、そっと高耶の瞳から零れ落ちる…その涙を自らの唇を寄せて梳くってやると、再びその髪を梳いてやった。 それは、まるで母親が我が子にしてやるように、何度も何度も繰り返された。
   泣かないで…泣かないで.高耶さん。
そして、そっと唇を寄せた。軽く触れただけの柔らかな接吻。
お休みなさい。と直江が高耶か身体を放すと、今度は高耶が直江を放すまいと直江の腕を力強く曳いた。そして男の身体を自らの上に重なるように乗せると、激しく唇を貪った。
「・・・ふっ・・んっ・・」
だが、歯列を割って進入する舌に直江は応えようとしなかった。いつもならしつこいほどに高耶の口腔を犯し続ける筈のその舌は、全くといって良い程に反応しない。
「直江…どうして?」
不信を覚えた高耶が、言葉を洩らした。そして縋るように直江を見上げた。
その瞳は、まるで捨てられた猫のように切なくげで、見ている者に庇護を求めていた。
高耶さん。
直江はその瞳から目を離す事は出来ずにいた。
    俺には出来ない
このままこの人を抱いたら俺は、壊してしまう!
今ここで高耶に触れてしまっては抑えが効かなくなってしまう。それだけは避けなければ.裏四国を成就させた高耶の身体は激しく消耗している。ここでは、大人しく休ませてやらなくてはならない。  
直江の最後の理性がその顔に緊張の色を出した。
 しかし、ふとその瞳に微笑を含むと、優しく包み込むように高耶の身体を抱きかかえてやった。
とくん と直江の鼓動の音が高耶の耳に響くと、高耶はホッとしたように瞼を閉じた。
「直江…生きてる。…・お前は、俺たちは生きてる・…んだな。」
お前の鼓動が聴こえる。魂の鼓動が。
生きてる…・・貴方は!生きている・.命の鼓動が、脈打つ波をその身に宿している。高耶さん・…貴方の生命が此処には在る。
「直江.俺は死なない!だから」
心配するな。と瞳で語る.顔には疲れの後が,そこかしこに見え隠れしているが、瞳の輝きだけは、以前にも増して力を含んでいた。
 そして、艶をも含んでいる事を本人は気付かない。
その瞳に見つめられている自分が冷静に居られない事を、この最愛の人は知っていて、わざと視線を外そうとしない。
 そっと、艶のある瞳に接吻ける。そのまま静かに身体を起こすと、直江はすっと枕元に腰を掛けた。
もうお休みなさい。そう瞳で言うと再び高耶の髪を梳いてやる。まるで子守唄のように。
 しかし、艶のある瞳は何の前触れも無く一粒の雫を零した・・…
「・・…直江どうして・・俺を抱かない!・…もう・・どうでも良くなったのか・・?」
涙を零した事を見られたくなかったのか、口に出した言葉が恥ずかしかったのか、高耶はその顔を人に見せまいと、目線を避けるように頭を外した。
 高耶さん・…
直江の手が力強く高耶の両腕を捕らえた。
「・・・いっ!・・」
加減を知らない力に思わず高耶が声を零した。
もう知らない、貴方が誘ったんだ。.俺はこの手を放す事は出来なくなる。泣いて許しを請おうとも、俺には俺を止める事は出来ない。
「直江!直江・・・。もっとお前を感じさせてお前の体温、匂い、吐息,肌。お前の総てを俺の物にして,・・・・お前の・・・・声を聞かせて!俺の名を呼んで・・・・直江!」
 高耶さん!
愛しい人の悲痛な叫びを聴いても、直江には応えてやることは出来ない。咽喉から声を出そうと,幾ら力を入れても自らのモノではないように体が言う事を利かない。 
それ程までに直江の受けた精神的ショックは強かった。

 言葉は掛けられない。でも,俺の気持ちを全部上げるから。高耶さん・・・。
直江は、掴んだ両腕を頭の上に掲げると、愛しい人の柔らかい唇に接吻けする。
甘く、蜜を孕んだその唇は、直江の男を刺激した。
「・・ふっん・・あ・・」
口腔に侵入する舌に攻め立てられ歓喜の声を洩らし始めた高耶に煽られ、益々自身を失い出した直江は、更に深く蜜を求めた。強く浅く歯列を這うと、今度は舌を絡め、あらゆる角度から高耶を攻めた。
「はっ・・・んやぁ・・あ・・・・な・・なおえっ・・」
余りの激しさに含んでいる雫が溢れ出し、高耶の口元からシーツに零れた。
 ほら、高耶さん。お行儀が悪いですよ。こんなに零して。
何時もなら聴こえてくる言葉も、今日は一切聴こえない。その代わり言葉もなく普段より一層、仕種で応える。
何時もなら指で拭う雫も、今日は唇で総て拭ってやる。頬に伝う雫も総て直江の唇が追って行く。
「はぁ・・」
解放された、唇がほっと息をつく。その顔を見つめていた瞳が、くすっと笑みを零した。子ども扱いをされたと勘違いをした高耶が、鋭い視線を向けた。
「何だ!」
その瞳が余りにも野性味を帯びていたので、再び愛しくなり、堪らなく抱き寄せた。
「俺の名を呼べ!直江・・その唇で・・今すぐ俺の名を!」
自分でも出来もしまいとは解っている。頭では理解しているのだが、どうしても気持ちが追いつかない。
 高耶の余りにも執拗な視線が、直江の瞳を掴んで放さない。その、今にも泣き出しそうな瞳は、この男の総てを攫ってしまった。
高耶さん。
と唇が高耶の名を模る。鳶色の瞳には己だけを見つめるタイガーズ・アイが映る。どちらとも無く、自然に、ごく自然に唇を寄せ合うと、再びお互いを求め合うように双方の舌が縺れあった。
「・・・・んっ・・」
高耶がその声を出すのを合図に、衣の中に逞しい腕が滑り込まれた。肌に吸い付くように執拗に胸を弄る指が、滑らかに動くとそれに合せてびくりと胸を上下させる。
「・・・あっ・・・やぁ・・・」
 小さな蕾に触れられた瞬間、小さな悲鳴が漏れ、男を欲情へと誘う。
その艶のある声を聞きたがり、男は指の腹でコロコロと蕾を転がし始めた。
「あ・・やぁぁ・・」
自分の悲鳴が予想外に大きくて、高耶は羞恥の余り顔を背けるた。
その仕種が見ている直江には一層刺激になり、わざと高耶の顔を覗き込ませ、自分の存在をアピールする。
「見るな!・・・っくっ」
覗き込む瞳が余りにも優しすぎて、わざと怒ったような態度を取る。
その間にも直江は手の動きを止めない。単を纏った胸を総てはだくと、触れる肌を少しづつ広げて行く。
「ああぁっ!」
直江の手が一番敏感な所を刺激する。型通りに擦ってやるとそれは、質量をぐんと増していった。
「・・だっ・・・だめっ・・・はぁ・・・やぁー」
高耶さん。と耳元にわざと息を吹きかけると、それに反応した高耶が、直江の首に腕を掛けた。身を捩りながらその手から逃れようとするが、逆に耳を甘噛みされて余計にいい声を出した
「・・・んぁ・・ああぁ・・」
きつく張り詰めたものが、更に膨らみを増した。その先からは透明なものが姿を現す。
ねっとりとしたものが指先に触れると、直江はくすっと再び含み笑いをして、体を移動する。そして、一瞬高耶に目をやると、大きく張り詰めたものを何の躊躇も無く口に含み、優しく愛撫し始めた。
「あっ・ああぁー・…」
厭々をするように首を振って見せたが、当然のように相手にはされる筈も無く自分を咥える男と視線を合せた。
「なおえっ・・あっ・・ああっ・・んっ」
それは、羞恥以外の何物でもなかった!天に向かって起ち上がる自分自身を征服する男。征服され、悶える自分。
 窪みに合せて巧みに舌を這わせ、厭らしく、くちゅくちゅと音を立てられる。
「っん・・音を…たてる…なぁ・・あっ…なおえっっ・・あっあ    っ」
とくん と直江の口の中にしろいものを出すと、そのまま直江は1滴残らず飲みほした。
射れたい。
唇をそう形どると、人差し指をぺろりと舐めた。その仕種が余りにも妖艶だったので、高耶は思わず身震いをした。
「…はっ・・あうっ…」
長い人差し指が高耶の蕾を捕らえた。ゆっくりと添えてやると、何の抵抗も無く指の侵入を赦し始めた。
「あっ…あんっ・・や・・」
深く、浅く出し入れしてやると、指の動きに合せて艶やかな声が零れる。
「ぁ・・あ・・あ・・んっ・・な、なおえぇ」
2本、3本と徐々に数を増やしてやると益々歓喜の声を上げて、潤んだ瞳を向け、男を誘った。
「ぁ・・もっ・・もう・・なおえっ・・あっ・・やぁ…」
びくりと胸を反らせた高耶は、その瞬間直江の指に喰らいついた。
不意に、高耶の中にあった指が引き抜かれた。
「っあ・・」
喪失感で一瞬声が漏れた。が、次の瞬間ファスナーを下ろす音が聞こえ、硬く張り詰めた直江が準備された高耶の中へと侵入し始める。
「いっ…ああっ!…」
硬い挿入感に自然と艶のある声で応えると、その声に刺激され直江は益々強く高耶を求める。
長く伸びた四肢を開き奥深く迄己を与え続けた。
「あ・・あん・・っ・・や・・ぁ直江ぇ」
自分を求める男の名をもう何度呼んだか解らない、呼び続けても、自分の名は聞かせて貰えない。その遣り切れなさが、胸の内を擽る。
「直江っ・・・・ふっ…んっ・・俺の名を呼べ!・・直江・…あっ・・」
今にも泣き出しそうな声を出し、自らの欲求を求める高耶を直江は愛しいと感じていた。
高耶さん
呼んでやりたい!出来る事なら今すぐにでも、その名を呼んでやりたい!
それが出来ない自分自身に憤りを覚えながら、愛しい人へと接吻する。思いの丈を言葉の出ない唇に乗せて…。
重なり合った二つの体は、同じ時、同じ瞬間に昇天した。



 

白いシーツの上で、直江は髪を梳いていた。愛しい黒髪を撫でるように、擦るように、指を絡ませながら、さらさらと音が聴こえて来るように・…。
二人は体を寄せ合いながら互いの温もりを感じていた。いや、二人と云うよりは高耶が、直江を放さずにいる。
まるで寝起きの子供が母親にしがみ付いているように。じっとその丹精な顔を眺めている。手を放したら消えてしまいそうな、色素の薄い髪の色をして。
「直江、何処にも行くな!直江。」
不安げな瞳をして見つめる高耶を鳶色の瞳が優しく見つめ返す。
そして、そっと唇を寄せた。
   俺はここにいる。高耶さん!
自分の存在を、証を体一つ一つに覚え込ませるように、熱い思いの丈をその唇に乗せて。
「直江…」
すまなかった・・。とは高耶は云わない。自分のせいで失語症になってしまった事に責任を感じてはいても、その言葉を口に出しては、自分のした事を後悔している事にな
る。
だから高耶は言葉には出さない。自分も甘やかさない。直江も甘やかさない。
それが、この虎の誇りだから…。
「直江。俺は死なない!だから…お前も・・解放は…しない。」
赤い瞳が野性味を増した。強い、力強い野生の虎が、今眠りから覚めた。
 この瞳に俺は惹かれたのか。
真っ直ぐに向けられる視線を直江は正面から受け止める。
それを合図に高耶は、噛み付くように直江の唇を貪る。まるで、獲物を捕らえた虎のように・・…。
「早く声を聞かせろ!・…お前の声を聞かないと,気が狂う!」
突き放したような物言いをするが、それが照れ隠しだと言う事が直江には良く解った。
 素直じゃないな。
と思いながらも,そんな態度を取る高耶の存在を確かめるように,再びその体に貪りつき始めた。
 勿論今度は,獣に目覚めた高耶用に,獣のように後から突いてやった。




直江の声は今も聞こえない
愛しい人の名を呼ぶことも・・…ない。




*作者様コメント*
ほんの障りの部分で終わらせてしまった感じがします。出来れば続き書きたいなあ。
とは思っていますが…何とも言いがたい

直江が喋らないと犯る時大変だ!と、途中で気付きました
何と言うめんどうくさいものを選んでしまったのかと・・・・

*椎名コメント*
ひかる様からの素晴しい頂き物です♪

自らの意志で言葉(声)を封印した直江・・・切ないです;
続き、ぜひ読みたいです!!

ひかる様、素晴しい作品をありがとうございました!またぜひ書いて下さいね♪

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