二重人格 ー心の傷ー


BY ぴーさま



「お父さん!やめてよ、お父さん!」
 妹の美耶を背にかばいながら、高耶は必死で訴えた。
「るせーんだよっ!」
「ぅぐっ」
 父親の蹴りが、思いきり腹に入った。
「くぅ…」
「お兄ちゃん!」
 美耶が駆け寄る。
「大丈夫、お兄ちゃん!?」
「み…や……」
「お兄ちゃん!」
 高耶の意識が薄れていく。視界がにじむ。
「てめーがうるせーから悪ぃーんだよぉ」
 酒に狂った親父の声が最後に聞こえた。

 何で俺なんだよ。
 何で俺ばかり。
 助けてくれよ。代わってくれよ。
 ――――――――誰か―――。



「では、あなたのもう一つの人格の名は景虎というんですね」
 高耶は病院に来ていた。
 すでに、ここに通うのは数度目だ。
 目の前の鳶色の瞳の精神科医ー直江といったーは、穏やかな笑みで訊いてくる。
 今までかかったことのある医者は、なんとなく高慢さを感じさせたが、直江にはそれがない。
 それに、自分の多重人格を知った人は、必ずと言って過言ではないほど哀れみの視線を高耶に向ける。だが、直江はそんな目で高耶を見なかった。その瞳に感じるのは優しさだけだ。
(こいつになら、素直に答えられそうな気がする)
「ああ」
「あなたの中に、彼以外の人格は存在しますか」
「いや、景虎です」
「そうですか、それならさほど時間はかからないでしょう。まぁ、あなた次第ではありますが」
「本当ですか」
 パッと高耶の表情に光が差す。
「よかた。自分の身体、別のやつに使われてると思うと、無気味でさ」
「ええ。多重人格の治療は、本人を他の人格に認めさせる、もしくは、本人の心の傷を癒すことによってなります。ですから、あなたの心を鍛え、癒すことが、景虎を消す事につながるんです……それで、景虎がどう思っているか、本人に訊いてみたいのですが…できますか」
 高耶の表情から明るさが抜けた。
 そして一瞬の間。
「…わかりました」
「すいません、『不気味』なことを強要してしまって」
「ありがとな、直江さん。俺を出してくれて」
 そう言って彼は身体を慣らすように間接をこきこき鳴らした。
「外出んの1週間ぶりくらいだ」
 突然の変わり様に面食らった様子もなく直江は問うた。
「あなたが景虎さんですか」
「ああ」
「あなたは自分が高耶さんの生み出した人格だと分かっているようですね。自分がいつ生み出されたか分かりますか」
「あいつが親父に暴行受けてるときだよ。ったく、面倒なことばっかり俺に押し付けて、他の時は俺を出さない。あいつは自己中心的なやつだ」
 苦々しげに景虎は言った。
「それよりさぁ。あんた、男を抱いたことはあるか?」
 直江はこんどこそ面食らった。
「教えて…やるよ」
 彼は妖艶に微笑むと、向かい合って座っていた直江の唇に自分のそれを押し付けた。
「!」
 さらに直江に手をつかむと、自分の服の中にその手を入れる。
 唇を離すと、どちらのものともつかない唾液が糸を引く。
「上手いじゃないか。ホントに男は初めてか?」
「ええ。でも、キスくらい女も男も変わらないでしょう?違うのは…」
 と、言いながら景虎を隣のベッドに押し倒す。
「ここからですよね…」
 彼自身を衣服の上から撫でながら言う。
「ふん。やったことはないけど男もオーケーか?」
「いえ、あなただからですよ」
 チャックを下ろし、ソレを取り出す。
「あなたが、綺麗だから…」
「ふん」
 すでに乱れ始めた息の下から言う。
「言う…じゃないか」
「本当ですよ。ほら」
 直江はソレを口に含んだ。
「あ………ふ…ん」
 舌が絡み、先端をくすぐられる。
「や…ぁ」
「いや、じゃないでしょう?こんなに喜んですよ。こっちはどうでしょうね」
 直江が景虎の足を折り曲げ、ソコに中指の先端を入れる。
「あ…」
「こっちも喜んでいるようですね。もっと太いのが欲しいって、伸縮してますよ」
「ゆ…言う……なよな」
「なんでですか」
「あっ!」
 一気に指を2本奥まで入れる。
 2本の指が、的確に快感のつぼを刺激する。
「お…おい……んっ…く…どう、して…こんん、あ……巧いんだよ……」
「光栄ですよ。でも、あなたはどうしてこんなに感じやすいんでしょうね?」
「んん…あああ!」
 高耶のソレから白いのが飛び散る。
 直江が、それを指ですくい、ぺろりと舐める。
「本当に感じやすいですね。ほとんどバックだけでイッっちゃったんですか?」
「う…るさ……ああ!!」
「愛しています、景虎さん」」
 指が抜かれ、それよりずっと太いものが入ってきた。
「あ……あ…ん………い…いきなり…あああ!」
 直江の唇が、優しく何度も首筋を吸う。
 そして、その合間に、何度も囁かれる。
「愛しています…」
 もう言葉は出ない。
 そこに響く音は、喘ぎと、荒い息遣い。そして、直江のソレが景虎のソコをえぐる音だけだ。
 いつまでも、窓の外の空がしろむまで、その行為は続いた。



「…おはようございます」
 彼が目を開いたとたん、すぐ隣から声が聞こえてきた。
(ああ・・・またか)
 彼が身を起こそうとした。が、
「っ!」
 腰に痛みを感じて、声にならない悲鳴を上げる。
「すみません。少々やりすぎたようですね」
「直江…先生?」
「はい」
「昨日…景虎を抱いたんだ?」
「はい」
「なんで! 先生まで!! 治療はどうしたんだよ! なんで…!!」
 直江の唇が高耶のそれをふさぐ。
「落ち着いてください」
「わりぃ…。感情的になりすぎた。…だけどっ! なんでキスなんてすんだよ!俺は景虎じゃない!ホモなんかじゃない!」
「……すみません。…景虎さんは、他の男性にも…?」
「………」
 高耶が無言でこくりとうなづく。
「そうですか…あなたの2重人格は治りましたよ」
高耶が目を見開く。
「え?……だって、俺は癒されても、強くなってもいない」
「景虎さんは、あなたですよ。あなたのは、通常の多重人格とは違うところがいくつかあった。それで、思ったんです。景虎さんは、あなたが生み出した、もう1人のあなたではないか、と。普通、二重人格によって生み出されるのは、本人とまったく別の人物です。ですが、私が思うところ、景虎さんは、あなたの心を深く継ぐ、さらに、あなたの「こうなりたい」を反映した姿です。私が癒したのは、景虎さんであり、あなたでもある。本当は分かっていたんじゃありませんか?」
 高耶はううむき、しばらく間を置いて、言った。
「…わかっていたよ。俺は…本当は……ホモなんだ」
「それは少し違います。あなたは、父親に虐待を受けていた。それで、父親の姿を重ねた男に、男に愛されることを望んでいた」
「…景虎は、昔は女だったんだ。そのころは、名前を美奈子っていった。美奈子は、親父から俺をかばってくれて、俺を慰めてくれていた。でも…俺はそれがとても汚いことに思えてきた。だれか、おれをクズだと、最低だと、言ってくれないかと…。おれは、今まで俺に代わってくれていた美奈子なら、そう言う資格があると思った。でも、美奈子は優しすぎた。それで…美奈子であり、性格のキツイ景虎が生まれたんだ…」
 直江は少し驚いた。
「そこまで気付いていたんですか」
「今…分かったんだ。景虎の記憶が、全部俺の中にある。それと、俺の記憶を合わせて、推測した」
「……」
 直江が少し気まずそうな顔をした。
 景虎の記憶が高耶の中にあるということは、昨夜のことも…。
「なぁ、直江先生。景虎を愛しているって言ったのは、俺の治療のためか?」
「そうですよ」
 直江がさらりと答えると、高耶は肩を深く落とした。
 そんな彼のあごをすくい、直江は言った。
「言ったのは、治療のためです。ですが、あなたを愛しているのは本当です。景虎さんであり、高耶さんであり、愛を欲するがゆえに心を病んでしまった、純粋な心を持ったあなたです。改めて、言わせてください。…愛しています……」
「直江先生…」
 直江の唇が、ゆっくり、探るように高耶の唇に触れた。
 

  end



*椎名コメント*
ぴーさまから個人的に頂いた作品です。ご本人様に許可を頂いてUPさせて頂きました。多重人格もの・・・良いですね♪
景虎様にも高耶さんにもしっかり手を出す直江先生、さすがです♪

この作品の感想は、うちのANOTHER BBSにお願いします♪

ぴーさま、素晴しい作品をどうもありがとうございました!
よろしければぜひまた書いて下さいね♪


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