恋の敗北者


by 京香様



直江はずるい。
どうしてあの男は、自分が持っていない物ばかり持っているのだろう。
端正な顔も、思わず聞き入ってしまう深いバリトンの声も、さりげない気遣いも、惜しみない優しさも。
同じ男なのに、同じ人間なのにあまりにも違いすぎる自分達。けれどそれら全てと無償の愛が、自分だけに向けられているという優越感。
気持ちがいい。
どんなに周りで騒いでも欲しがっても、あの男はオレだけのものだ。オレにだけ従いオレにだけ膝を折る。優しい笑みも、愛を囁く唇も、抱き寄せる両の腕も、気持ちいいキスも、極上の愛撫も、全てオレだけが知ることが出来るのだ。
ほら。こうしている今も、直江の手が器用にオレの体を這いまわっている。こちらの事にも長けている直江は、技巧を凝らしてオレを天へと導くのだ。
「高耶さん…」
直江が耳元で熱っぽく囁く。
鼓膜を震わせる重低音の響きに、オレの腰はすっかり砕けている。
だから直江がオレの足を抱えあげても、オレはとろけた瞳で見上げるだけだった。




「アッ…、あぁ、ん…」
太股を左右に押し広げられ、股間を全開に晒した状態で高耶は直江の口淫を受けていた。
柔らかい袋を、そそり立つ肉棒を直江は丹念に舐めていく。
いつしか白いもので濡れたそこは、直江の唾液とあいまってヌラヌラといやらしく光っていた。
時々戯れのように、弱いトコロを攻められるのがたまらない。
温かい直江の舌がそこを舐める感触だけで、痺れるような快感が沸き起こった。
「な、おえ……、も…やめっ」
気持ちいい。けれどこれ以上されるとあられもない声が上がりそうで、高耶は必死に直江に制止を求めた。
「もう……、はなして、…くれッ」
股間にある直江の髪をむし掴むと、直江が高耶のものを銜えながら視線だけを上げた。
ゾクリ。
いつもと違う、直江の鋭い眼光。射るようなその視線に、まるで視姦されているような気がして高耶は息を詰めた。
「なおっ…」
耐えられず顔を背けると、直江がいきなり高耶の腰を引き寄せた。そのまま体を裏返しにされて高耶は上擦った声を上げた。
「な、なに…っ。アァ……ッ!」
息を付く間もなく、直江の舌が高耶のそこを犯した。
腰だけを高く上げた状態で、直江の舌が無遠慮に潜りこんでくる。
合意もなくとらされた恰好ににじむ屈辱感。けれども直江の視線を感じなくなったことにより、高耶の中で抑制されていたものが外れた。高耶はシーツに深く顔を埋めた状態で、直江の舌技に合わせて腰を振った。
「あっ…、あっ…ん」
我慢なんて出来やしない。
先ほど散々口の中で転がされたそこは、今度は後ろの刺激によって堅く張りつめている。
伸ばした手によって乳首を弄られただけで、シーツに淡い染みを作った。
「やぁ…ンッ……、なお…、なお、えぇ…っ」
後ろだけではなく、またそこも弄ってて欲しい。赤黒く膨らんだそこが、強い刺激を求めて震えている。
なのに直江は知らないふりをして後ろばかりを攻める。
高耶がもうどうにもならない状態まできていることを、直江は知っているはずだ。それなのにわざとそこに触れない直江に、苛立ちが募る。
さっきまではやめてくれと哀願するまで弄ったくせに。
どうして…!
「んんっ、んんんっ。なおえ、そこ…ばかり……や…」
直江の舌が少しでも前に当たるように高耶は腰を高く上げたが、直江は意図してソコを舐めてやらない。
あと少しで届くというところで取り上げられた愛撫は、高耶に耐えようもない焦れを与えた。
「くっ…、もぅ……ッ」
ペニスが腹につくほどまでに反りかえっている。
どうにも我慢出来ず、高耶はとうとう手を伸ばした。
遮るものはない。直江は後ろから、高耶の淫行を眺めている。
「あっ、あっ…!」
いやらしいほどに濡れたそこが、高耶の手淫によってますます硬度を増した。
滑りそうになる手を何度も何度も絡めて、直江の舌技に合わせて腰を回す。
時折り聞こえるピチャ、という濡れた音と、自分が取っている淫らな恰好にますます興奮して、高耶は白くなる意識のなか夢中で肉棒を扱いた。
最高に気持ちイイ……。もう…、おかしくなるッ!
「!」
直江の舌がグッと蕾を割った刺激に、とうとう耐えきれず高耶は白い液をまき散らしていた。
「アアァ―――…」
イッたことにより、恥穴がせわしなく収縮している。もう離して欲しいのに、直江の舌がそれを許さない。ピクピクと収縮する動きに合わせて舌が入ってくる感触に、高耶は何度も体を震わせた。
「高耶さん」
「あ! んっ」
いきなりツプ、と指を入れられて、高耶の体が跳ねた。
入ってくる異物感にいやいやをするようにかぶりを振るが、直江の指は止まらない。
「!」
今度は二本同時に入れられた。そして入れた中でぐちぐちと指を動かされたのでたまったものではない。達したばかりだというのに、高耶のものは後ろの刺激だけでもう立ち上り始めている。それに気づいた直江は手を伸ばすと、今度は遠慮無くそれをわし掴んだ。
「ヒッ! な、おえっ」
ただでさえイッたばかりで敏感になっているというのに、指を深く入れられたまま前を扱かれて、目の前に火花が散る。
やめてくれと訴えても聞きいれてくれない。
今度は徹底的に喘がされ、高耶は高まる快感の中で何度も涙を零した。




体の中からそれが抜き取られる感触に、高耶の意識は浮上した。
今まで散々穿たれたそこが熱い。
僅かなむず痒さとともにカラッポになったそこが、名残を惜しむかのように小さく収縮した。
「ふ…ぅ…」
思わず漏れた甘い声に、高耶は羞恥に頬を染めた。男から隠すようにシーツに顔を埋めると、傍らにいた直江がくすりと笑いを零した。
「まだ足りないの?」
「!」
言いながらサワサワと臀部を弄られて、高耶は息を詰めた。
「も、やめ……ッ」
今日はもう充分情を交わした。これ以上は勘弁して欲しかった。男から逃げるように体を捻った高耶だったが、とたんに感じた腰の痛みに固まった。
「…っ!」
「あぁ、大丈夫ですか? 急に動くから」
「誰のせいだよッ」
怒りに腕を振り上げる高耶。だが、その動きでまた腰に痛みが走り、今度はそのまま沈没した。
「うう…っ」
「無理しないで。そのまま横になってなさい」
その諭すような言葉にまた反論しかけた高耶だったが、労るように背を撫で始めた男の手がひどく優しかったのに、素直に身を委ねた。
直江は撫でる。高耶の背を幾度となく。
たったそれだけのことなのに、痛みが和らぐような気がするから不思議だ。大きな手のひらが何度も何度も背を撫でる感触に、いい気持ちになっていつしか高耶はうつらうつらし始めた。
(気持ちいい―――)
途切れそうになる意識で感じるのは、男の温かい手のひらだけ。
うっとりと目を細めながら身を横たえる高耶に、直江は優しい笑みを浮かべた。
激しく情を交わすよりも、高耶がこういう時間を好んでいるのを知っている。もちろんセックスも好んでいるのは知っているが、その後のとても気持ちよさそうな高耶の様子に、彼がこういう優しい時間を気に入ってるのがわかった。
あの時とはまた違う、何もかもを無防備に曝す高耶も魅力的だ。自分の傍らで、心から安らいでいる高耶を見るのがとても嬉しい。もっと気持ちよくなって欲しくて、直江はことさら優しく手を這わせた。すると、
「おまえの手…」
「え?」
けだるそうにしながらもゆっくりと喋る高耶に、直江は耳を近づけた。
「もっと、続けてくれ…。気持ちいい―――」
高耶はそれだけ言うと、スーっと寝入ってしまった。
語尾は掠れていた。それに歳柄もなくドキリとして、直江は前髪に手を充てた。
「…まいったな」
高耶は知っているのだろうか。無意識に漏らす一言に、どれだけの力があることを。
そんな無防備に、あなたをさらけ出さないで。
あなたが愛し過ぎて困ってしまうから。
それでも、高耶が気持ち良く眠れるように直江は背を撫で続ける。
情を交わすよりも後戯を好む高耶。
それにやや物足りなさを感じつつも、そんな高耶だからこそ愛しく感じる。




「おやすみない、高耶さん」
しなやかな背に、直江は口付けた。




お友達の京香さんから2周年のお祝に頂きました!
高耶さんファンで甘甘好きな京香さんならではの優しい小説ですね〜v

イロモノしか書けない私は、京香さんの作品をお手本にして精進したいと思いますです(^^;

京香先生、いつも不義理ばかりの悪い患者だけど;また会えた時は触診してね♪これからもよろしくお願いしますv 
ご多忙な中、素晴しい作品をありがとうございました!