* おとぎ話のように *
BY K−330様
日暮れ時。
妹の美弥は、まるで母親のような一言を残して家を出ていった。
「じゃあ行ってくるね、お兄ちゃん。一人だからって朝御飯抜いちゃダメだからね!」
慌ただしく出ていく後ろ姿を部屋から見送って。高耶は苦笑した。
(なんだかな…)
年の割にしっかりしている妹に、複雑な思いを抱く。
(美弥が心配性なのはオレのせいだろーな、やっぱ)
かわいい妹にいろんな意味で心配ばかり掛ける不甲斐ない兄貴。
一応これでも、以前よりはずっとマシになったつもりではいるのだけれど――。
まだ途中だった夕飯を終えて。高耶は、テーブルの上を手早く片づけた。
水道の蛇口を捻り、シンクに水を張って、その中に食器を浸し。慣れた手つきで汚れた食器を洗っていく。
あたりまえで日常的な作業に身を浸しながら。
ふと、高耶は。
そんな自分の日常の中に非日常を連れてきた…高耶にとっては運命そのもののような…男の顔を思い浮かべた。
心配性で、人を子供扱いして、甘やかして。いわゆる三高で、顔も男前でスケこましで。変な所で堅くて融通がきかなくて。強引かと思えば、急に弱気になってみたり。横暴なくせに、妙に腰が低くかったり。
(わけわかんねーヤツだよなあ…)
思い出し笑いを浮かべながら。
洗い終えた食器を食器棚に片づけて、自室に戻った。
テレビの前に座ってチャンネルをランダムに一通り押していく。
見たいものが何もない。
溜め息ついて、ゴロリと畳の上に寝転がる。
(…静かだな……)
まだ人が寝静まるような時間ではないというのに、時間のエアポケットに填り込んだかのような奇妙な静けさ。
誰もいない部屋。
木の天井を見上げる高耶の胸に、冷たい水が布に染み込むようにやんわりと遣る瀬無い物悲しさがこみ上げてきた。
(直江…)
寝転んで。逆さまに見る窓の薄暗い町並。微かな風の音。少し肌寒い室温。
人恋しさが、募る。
高耶はいきなり跳ね起き。玄関に置いてある電話に向かった。
電話を掛けてすぐに後悔しはじめた。
電話の受話器を取ったのは、直江の母親らしき女性。
『義明ですか? おりますよ。うちの放蕩息子は最近帰りが早くて。どういう風のふきまわしかしらねえ。仰木さんは原因を知ってらっしゃるかしら?』
柔らかい声でそんなふうに親しげな言葉を掛けられて、高耶は返事に窮した。
「…すいません、その…義明さんとは、最近会ってなくて…」
『ああ、ごめんなさいね。何だか最近愚痴が多くて。もう年かしら』
社交辞令の出来ない相手を察してか。その人は笑って話を終わらせてくれた。
『義明を呼んできますね。少々お待ちになって』
「すいません。お願いします」
保留の音楽が電話口から流れる。
壁にもたれて、聞くともなしにそれを聞きながら高耶は短く溜め息ついた。
優しくされて困ってしまう自分が、無器用だなと思う。けれど、生まれついてのこの性格ばかりは、自分でもどうしようもない。
その点、直江は自分とは比べものにならないほど如才ない。
社交辞令どころか。誘い文句や口説き文句すらまったく苦にならない。名も素性も知らない初対面の人間と差し向かいで二人きりでいたとしても、会話に困るなどという場面などきっと皆無だろう。
『お待たせしました。…高耶さん?』
「あ…」
瞬間、何を云っていいのか分からずに、声を詰まらせた。
一瞬の気不味い間。
しかし直江は、高耶から何の反応も返らない事を気にしたふうでもなく会話を繋いだ。
『あなたから電話をくださるなんて珍しいですね。何かあったんですか?』
聞こえてくる声は、どこか嬉しげだ。
高耶は、そんな些細なことにも戸惑ってしまう。
「いや、別に…」
別に、何もない。
ただ…声が聞きたかった。
それだけ。
「その…最近会ってねーから、どうしてるかな…とか思って」
『寂しかった?』
「んなわけねーだろ! ふざけたこと云ってんじゃねーよ!」
狼狽して、受話器に向かって叫ぶ。
『ふざけてなんかいませんよ。私自身が寂しかったから、あなたもそうなのかと…そうだといいと思っただけですよ』
小さく、溜め息。
どうしてこの男はこんなふうに臆面もなくこんなふうに言えるのだろう。差し出した自分の気持ちを手酷く拒否された時のことを考えたりはしないのだろうか。臆病になったりしないのだろうか。
強いから、気にならないのだろうか。それとも、今までそんな目にあったことがないから…だろうか。
「元気だってのはわかったことだし…もう、切るぞ」
『え…、高耶さん!?』
慌てて名を呼ぶのを強引に遮って、
「じゃあな」
受話器を置いた。置いてすぐに電話が鳴った。
が、無視して部屋に戻った。
電話は何度も繰り返し鳴っていた。
しかし高耶は、とうとう受話器を取らなかった。
何かの拍子で目が覚めて。時計を見ると、既に日付が変わっていた。
いつの間にかウトウトしていたらしい。気づくと、テレビも照明も付けっぱなしのままだった。
玄関でピンポンと、来客を知らせるチャイムが鳴る。どうやら、その音に起こされたらしい。
慌てて立ち上がる。
(誰だよ、こんな時間に…)
高耶は用心の為、ドアを開けずに応対した。
「どなたですか?」
「夜分にすいません。高耶さん…私です。直江です」
「直江!?」
驚いて、直ぐ様ドアを開けた。
果して目の前には、見慣れたダークな背広を身に纏った長身の、優しげな表情の大人の男が佇んでいた。
「お前…なに考えてんだよ、こんな時間に…!」
驚きと動揺に、声が上擦る。
「申し訳ありません。どうしても会いたくて…電話の声だけでは我慢できなかったもので、車を飛ばして来てしまいました」
「馬鹿かよ、お前」
ドアノブに手を掛けたまま、呆れた…といった態で高耶は言った。電話にわざと出なかった後ろめたさも手伝ってか、その目はバツ悪げに反らされる。
そんな高耶を直江は愛しげに目を細めて見つめる。
「高耶さん、私の為に少し時間を戴けませんか? ほんの十分でいいんです。それで大人しく帰りますから」
「……いいけどよ」
「こんな時間にお宅に上がり込むのは家族の方にご迷惑がかかるでしょうから…階段のすぐ脇に車を止めてありますからそこへ――」
「美弥も親父も…今日は二人とも泊まりで出掛けてて家には居ねえから別に迷惑も何もかかんねーけど、」
「お一人…なんですか?」
「だから、二人とも出掛けてて留守だって、」
そこまで云って、高耶は絶句した。
これはもしかして、誘い文句にならないか?
思い至って。頭に血が上った。
「いや…、だから、そうじゃなくて――」
焦る高耶を遮るように。
突然、直江の腕が高耶の躰を強引に抱き寄せた。
「直江……!」
後ろ手に、ドアが閉められる。
「あなたの部屋はどこです、高耶さん」
「おま…、なに云って…」
「この奥ですか?」
躊躇する高耶をよそに、直江は素早く行動を起こす。
高耶の躰は、玄関口から奥へと半ば強制的に引き摺られて行く。
直江の性急さに、高耶は着いていけない。慌てて身を捩り、直江の腕を掴む。
「ちょ…ちょっと待て、勝手にお前、他人ん家に上がり込んでいいと思って――っ」
直江は、ふっと抱き込んだ腕を緩めた。
「高耶さん…」
見上げてくる高耶の戸惑った顔を両手で包み込む。
「直――」
頬を囲んでいた両手が頭の後ろに回され、覆い被さるようにして唇が重ね合わされた。
「ん…ぅん…っ」
深く深く絡めら取られる舌。混じり合う唾液。痛みを覚えるほどきつく吸い上げられる唇口。止めてほしくてもがくと一瞬、唇が離された。しかし、直ぐに角度を変えてまた塞がれた。
何度もそういったことが繰り返され。もがく気力もなくなった頃ようやく、高耶は開放された。
「あ…」
ピタリと重ね合わされていた唇が離されたとき高耶の口からは、名残惜しげに伸ばされた舌が覗いていた。
「私を、あなたの部屋に入れさせてもらえませんか、高耶さん」
微笑みながら。誘い込む口調で直江は云った。
「それってお前、卑怯…」
喘ぐような声で詰った。
こんな、欲望を煽るような真似をしておいて…
「お願いです、高耶さん」
云って、また口づける。
「なお…え…っ」
繰り返される甘い行為に、高耶はか細い声を上げた。
「あなたが欲しいんです。…だから、ください」
突然の。しかし、状況的には当然くるであろう要求の言葉を聞いて、高耶は躰を強ばらせた。
羞恥心と密かな欲望に胸が苦しくなる。
「ここで、かよ…!」
「ええ、ここで」
直江は微笑んで言った。
「あなたが暮らすここで、誰にも…どんなに親しい人間にも云えないようなことをあなたにしてやりたいんです。…駄目ですか?」
躰の奥で熱く高まっているであろう欲望を隠そうともせず。直江は高耶に答えを迫る。
高耶は、思わず顔を伏せた。
「…んな、こと…」
そんな事を、真顔で聞かれても――。
「恥ずかしくて、『いい』なんて云えない?」
高耶の心を見透かすように、目を細めて云う。
「それとも、私になんかに欲しがられたくない?」
「ちが…う…、そうじゃ…」
「嫌なら嫌と云ってください。云ってくださらないなら私は、強引に事に及びますよ?」
「強引にって、お前っ、」
抱きしめる腕がきつくなる。
「あなたの部屋は?」
どこです−と目で問う。
「……」
「高耶さん?」
重ねて問われて。高耶は無言で指でさし示した。
途端、躰が宙に浮く。
「直江!? 何する――っ」
「花嫁は抱き上げられてベットに運ばれるものですよ。知らないんですか?」
揶揄うように云われて、
「だ、だれが花嫁だよ!」
「さあ…誰でしょうねえ。少なくとも、私じゃあないでしょう」
「てめっ、茶化すんじゃねえ!」
「茶化してなんかいませんよ。分かってるくせに聞いてくるあなたが悪いんです」
「お前、いいかげんに…」
「黙って、高耶さん」
この上なく真剣な表情で窘めるように云われ、高耶は条件反射的に口を噤んでしまった。
直江は高耶を抱き上げたまま、部屋に向かって歩き出した。
(あ……)
どうしていいか分からず。高耶は只、顔を伏せた。
部屋に入ると。直江は一旦高耶を腕から降ろした。
それでも片腕は、まるで逃げてしまわれることを恐れるかのように高耶の腰に回したままだ。
扉を後ろ手に閉め、敷かれてあった寝具に誘う。
「眠っていたんですか?」
高耶の躰を横たえ、真上から見下ろして云う。
「眠るつもりで一応、蒲団敷いたんだ。けど、寝間着に着替える前に居眠りしちまって…」
「私が起こしてしまったんですね。すいません」
云いながら。直江の指は高耶のシャツのボタンを一つ一つ外していく。
「直江…っ」
「はい?」
指の動きを止めずに答える。
「本当に…ここでする、のか…?」
片腕を上げて、半分顔を隠すようにしながら躊躇いがちに尋ねる。
「ええ、ここであなたを戴きます。今更嫌だなんて云っても無駄ですよ。私自身にも、もう止められませんから。覚悟を決めてください」
ボタンが全て外され、胸元が露にされた。
大きな腕が素肌を弄る。
胸の中心が指の腹で執拗に愛撫され、微かに熱を持ってくる。
唇を塞がれ、施される指技に高耶は苦しげに喘いだ。
「っ…ん……っ」
「高耶さん…」
熱い息と共に耳元に吹き込まれる名前。
「あなたの全部を、私にください」
嫌がる間もなく下着が足元まで引き摺り下ろされ、欲望を体現するソレを直に握られた。
「ああっ――やっ、馬鹿、触るな…っ」
既に知り過ぎるほど知っている、愛しい男の指の感触。それが自分の股間にあるということの羞恥に、高耶の声は震えた。
「そんな風に嫌がらないで、高耶さん。…余計にそそられるから…」
「こ…の…っ」
ふざけた言いように、高耶は瞬間カッとなって顔を上げた。しかし、自分を見下ろしている男の目は、少しもふざけてなどいなかった。
何処か、飢え渇えているようにも見える真摯な瞳。それに呪縛されて身動きが取れなくなる。
自分はこれから、この男の飢えと渇きを満たすために牙ならぬ欲望の杭でもって貫かれるのだ。
嗜虐に満ちた怯えと快感に目眩を覚える。
「……っん…っ」
ゆっくりと下りてくる開かれた唇。それが唇を掠め、首筋を這う。
その生暖かく濡れた感触に、組み敷かれた躰がビクリと竦み上がった。右手で捕えられた欲望の塊には、緩やかに愛撫が加えられている。
「あ…ぁあ…っん…っっ」
ゾクゾクと、背筋を伝ってくる快感に耐えかねて、喉の奥から鼻に抜けるような甘い声が漏れた。
「いい声…ですね。最高に、そそられる」
そう云って。
直江はいきなり、高耶の股間に添えた手の動きをきつく乱暴なものに変えた。
「ああ…! やっ――ひ…っ」
仰向けに両足を広げられ、ソノ部分をまるで苛めるように力を込めてキツく抜かれる。
「ひ…ひっ――ぃや…やめ…っ」
息も付けない状態で躰の芯から迫り上がってくる快感に高耶は追い詰められる。
「なおえぇ…っ、や…っ」
自分を追い詰める酷い男。
その卑猥に動く手首を掴んで、快感を押し留めようと足掻く。
しかしその手は両腕とも捕えられ、自分の背の下に右手だけで簡単に戒められ下敷きにされてしまった。
「なっ、直江…!」
掠れた声で叫ぶ。
しかし直江は、その叫びを聞き入れない。
両腕を拘束したまま指で嬲っていたモノを口に含み、震える躰を更に煽る。
同時に、空いた左手で後ろを割り開き、まだ狭く潤いのない場所を指先で犯した。
長い指がくねりながら抜き差しされ、躰が反応した場所を執拗に抉った。
「いや…だっ! なおえ、やっ…ぃやっ! ヒッ――」
泣いているようにも聞こえる甲高い悲鳴。憐れみよりも興奮を煽る掠れた声。
直江は、不意に高耶の股間から顔を上げた。
後ろに差し入れていた二本の指も引き抜き、腰のベルトに手を掛けた。
フロントを寛がせ、既に十分な硬度を持った己の欲望を引き摺り出す。
「…目を開けて、高耶さん」
片手で戒めていた腕を開放し、囁いた。
「ぁ…?」
潤んだ瞳がうっすらと開けられた。
荒く息を喘がせて男を見上げる
「俺を…受け入れてください、高耶さん」
有無を云わせない口調で哀願する。
「拒否しないでください。でないと、酷くしてしまうから…」
もう、押さえは利かない。自分自身が満足できるまで、この欲望は萎えることがない。どうしょうもない。
一度暴走をはじめた欲望には、どんな制止の声も届かない。止めるつもりもない。
(…ぁ…ああ…っ)
何もかもを食い尽くす獰猛な肉食獣の眼光。それに真面に晒され、高耶は怯えた。
両膝が掬い上げられ、結合の姿勢を取らされても抵抗できない。
「ヒッ…」
狭いソコに押し当てられ、むりやり潜り込んで来ようとする熱く太い先端。その圧迫と痛みの予感に、反射的に躰がずり上がった。
けれど直江は逃がさない。
もがく腰を固定し、一気に穿った。
「ヒイィ―――」
むりやり道を付けられ最奥まで犯された痛みに、高耶の躰は硬直した。
動いたなら一層ひどい痛みに襲われることになる。躰はそのことを本能的に知っている。 しかし。最奥まで犯してもまだ足りないというかのように、貪欲で凶暴な腕が尚も凶器を奥へと突き進めようとする。
「な、なお…えっ、ひぃ…ひいぃ――っ!」
躰を折り曲げられ、真上から何度も突き立てられる。
あまりの痛みに、何も分からなくなる。泣いても喚いても許してもらえず、思うがまま貪られる。
やがて。抽送の速度が早まり、焼けるような熱さと痛みに支配される。
「ヒ……あっ、アアッ」
躰の奥に、熱い体液のほとばしりが注ぎ込まれた。
「高耶…さん」
汗ばみ脱力した躰に、覆い被さられる。
高耶は、やっと終わった…と躰の緊張を解いた。
しかし直江は、これで終わらせるつもりなどなかった。
躰の芯を繋げたまま、ゆっくりと躰を起こす。
ずっと苛まれていた為に萎えてしまった高耶のモノを拳の中に納め、今度は優しく揉みしだく。
節ばった長い指で幹を覆い、加減して上下に擦ると、掠れた甘い声が漏れた。
「あ……アッ、ぅんっ…ッ」
先の括れ部分で力を入れて小刻みに擦り、先端の小さな穴を指の腹で掘るように嬲る。
何処よりも敏感な箇所を愛撫されて、高耶の躰は、直江の器用な指が“いいところ”に触れる度にビクビクと躰を痙らせた。
「やっ…やぁ――っ、もう、いや…だ、なおえっっ」
耐えられないほどの痛みの後に与えられた愛撫を、躰は喜悦と共に敏感に感じ取る。先に受けた暴力の痛みをその快感で打ち消そうというかのように。
「なおえっ、なお…っ…ヒッ――、」
前を優しく愛撫しながら抜き差しをはじめると、高耶の背は魚のように跳ねた。
本人には、今自分が感じているのが苦痛なのか快感なのか理解などされてないだろう。
只、狂おしいほど愛されて、自分がどうにかなってしまいそうで、それに恐怖しているのだ。
「だめ――だめ…だ、なおえっ、もっ…はなし…てっ」
涙を流し、苦しそうに喘ぎながら哀願する。
「駄目です。まだ許してなんかあげませんよ。俺に抱かれてあなたが気が狂うほど感じてくれるまでは離しません…」
与えたいのは、痛みを超える快楽。
唯一の人間と抱き合い、互いに貪り合うことの愉悦。
「あなたがちゃんと感じて、自分から俺にしがみついてくるようになるまで何時間でも抱いてあげますよ」
腰だけを高く突き出させた格好で、後ろから回した右手で堅くなったものを抜き、胸へと這わした左手で中心の赤みを弄くる。
ゆっくりと上下運動をしていた腰を回してやると、その度に躰はびくびくと跳ねた。
「ひっ…、やっ…もう…もう、やめ――ゆるし…てっ」
熱く甘い、悲鳴。
逃げよう逃げようと足掻くしなやかな肢体。それを男は何度も引き寄せては、きつく拘束する。
「逃しませんよ…。あなたはもう、俺のものなんですから」
微笑みながら束縛の言葉を吐き、悲鳴を上げる躰を自在に翻弄する。
段々と、きつくなっていく責め。
深く浅く内部の弱い場所をしつこく責められ。高耶は恥も外聞もなく喘ぎ泣く。
握られた先端からは白いモノが滲み出て、直江の指をしとどに濡らしていた。
「やっ―…ひ…あっあああっ――っ!」
直江のモノを受け入れたまま。甲高い悲鳴を上げて、とうとう高耶は達した。
達する一瞬の強ばったソコの圧迫で、直江も同時に達した。
「高耶さん…」
完全に脱力した躰に覆い被さり、背中に口付けを落とす。
背中から首筋へと這わされる舌。
ビクリと震え、高耶は力なくもがいた。
「やっ…、な…なおえ…っ、もうっ」
思うさま泣かされて掠れてしまった喉で許しを請う。
直江はそんな高耶を愛しげに抱きしめた。
「もう…何もしませんよ。二人で朝までこうして抱き合ったまま眠るだけです…」
高耶の躰を自分の方に向けさせ、口づける。
「おやすみなさい、高耶さん」
目を合わせて、微笑む。
「…ほんとうに…、もう何もしないんだな…?」
紗の掛かった眼をうっすら開けて高耶がおそるおそる聞いてきた。
「ええ。だから、安心して眠って――」
汗で張り付いた前髪を掻き上げ、髪を梳く。
直江のその穏やかな仕草と微笑みに促されるように――やがて高耶は、直江の腕の中で軽い寝息を立てはじめた。
極度の興奮と疲れの為だろう…深い眠り。
その寝顔と完全に緊張を解いて伸ばされた肢体は、まるで満足した猫のようだ。
それを微笑みながら見下ろして。直江はそっと起き上がった。
できうる限りの後始末を終えた後。再び直江は、安らかに眠る高耶の隣に躰を滑り込ませた。
横向きに眠る顔を静かに抱き寄せて見ると、濡らしたタオルで拭いてやった額にまた髪が張り付いていた。
その濡れた髪を指先で掻き上げる。
露になったきれいな額。疲れた様子の目もと。
無体な事をしてしまった――
直江は思う。いくら掛けても繋がらない電話。
遠すぎる距離。押さえ切れない衝動。
あの時――
電話口で感じた、寂しさ。
閉ざされた言葉と、溜め息にもならないほど微かな吐息が、あなたの寂しさを音もなく伝えた。
だから。
居ても立ってもいられなくて、車を飛ばして会いに来た。
「一緒に…暮らしましょうね、高耶さん」
ぐっすりと眠り込んでいる高耶に向かって優しく囁きかける。
「もう、決めました。嫌だと云っても、聞きませんからね」
甘えることの出来ない無器用なあなたには、強引なくらいが丁度いい。
「あなたを幸せにします。だから、私を幸せにしてくださいね……」
いつまでも 一緒にいよう
いつまでも二人 しあわせでいよう一番しあわせな瞬間で時を止めた
やさしい おとぎ話のように寂しさの隙間を、互いの存在で一杯に満たして―――
end.
†作者様コメント†
これは、売り切れた同人誌『未来予想図・2』に載せていた甘々小説です。
どうも自分は『キチク』小説しか書いてないように思われてるようなので、砂吐くような甘い文章も一応書けるんだよ、オレは!! って、主張してみました(笑)†椎名コメント†
K−330様からの素晴しい頂き物です♪
かまってオーラ出しまくってる高耶さんが可愛い〜♪
宇都宮から松本まで高耶さんに会う為に高速をカッとばす直江v よいですね〜♪しかも家族が留守と知るや否や、すかさず抜かずの2発v 甘甘と云えどHに容赦がないのは、さすがK−330様の直江ですね♪
愛されるのも甘えるのにも臆病な高耶さんは、このぐらい愛してあげないといけません♪K−330様、素晴しい作品をどうもありがとうございました!
またぜひ書いて下さいね♪