untitled.




シールライトの人工的な光が、窓のない室内を青白く照らし出している。

清潔で無機質なその部屋のベッドで、束の間、意識を飛ばしかけた仰木高耶の、まだ少年の面影を色濃く残す、しなやかな体―――
衣服を剥がれ、両肘、両膝、それぞれを折りたたむようにバンデージを巻きつけられて横たわる彼のそこに、本来あるべき淡い翳りは見当たらない。


きつい双眸にも目隠しがわりにバンデージが巻かれ、触れることも許されず、先走りの体液に濡れそぼる楔の根元にも、吐精できぬよう、ガーゼで幾重にも戒められていた。

そうして身動きもせず、生まれたままの姿で首輪と鎖に繫がれ、白いバンデージのみを身につけて放置されている高耶は、まるで四肢のないfetishな人形のようだ。

蕾の奥深くまで飲み込まされている電動の玩具―――しばらく沈黙していたそれが、再び体内で息を吹き返し、淫らな動きを再開すると、高耶はたちまち、束の間の夢から、現実の覚めない甘い悪夢の中へと引き戻された。




この日、高耶は入浴の際の僅かな隙を狙って、この部屋からの、何度目かの逃亡を試みた。
「まだ諦めていなかったんですか。懲りないひとですね」

もとより、大人と子供の体躯では勝負になるはずもなく、暴れる体をあっけなく捕らえた男は苦笑し、『お仕置き』と称して嫌がる四肢にきつく包帯を巻きつけ、玩具を飲み込ませて放置した。

「明日は特別な日だから、本当は、こんなことはしたくなかったのですが―――あなたが悪いんですよ、高耶さん。しっかり反省して下さいね?」
意味ありげな言葉を吐いて、部屋を後にした男は、それきり戻ってこない。



「ア………、」
小刻みな振動と、蛇のようなうねりを繰り返しながら、最奥を突き上げる淫具。
果てることを知らぬそれに、敏感な粘膜を嫌というほど刺激されて、高耶は口端から切ない喘ぎを漏らす。
「―――クッ……ンン、………や、………」
音のない部屋に、体内から漏れる淫らなモーター音と、堪えきれずに自ら発する呻きだけが、やけに響いて耳を突き刺す。長時間、戒められている四肢は、すでに痺れきって感覚がなく、堰き止められたままの屹立も、今にも吐き出したい激痛に悲鳴を上げ続けていた。


高耶は嫌々をするように、ベッドの上で不自由な身をよじった。
姿を見せなくても、天井の隅に取り付けられた監視カメラを通じて、どこからか、男が自分を見ていることはわかっていた。
「も、逃げな、………」
目隠し代わりの包帯の下、羞恥と屈辱と敗北感に啜り泣きながら、どこかで見ているはずの男に向かって、高耶は必死に許しを乞うた。
「………くる、しい………たの、むから………も、ゆるし………、」





やがて、モニター越しにその姿を見、声を聞いて、高耶がもはや限界だと察したのだろう―――扉が開いて、スーツ姿の男が入ってきた。

数ヶ月前の雨の夜、高耶を連れ去り、この場所に閉じ込めた男の名は、『直江』と言う。
そう呼ぶよう、躾けられている。

飼われるうちに、男の職業が医者であり、この部屋が自宅の市営団地にほど近い、瀟洒な屋敷の地下だということを、高耶はそれとなく知ったが、わかっているのは男が自分を浚ってこの部屋に閉じ込めたことと、解放する気はまったくないこと。
男が自分を容赦なく抱く―――ということだけだった。



「―――お仕置きが、随分こたえたようですね」
笑を含んだ囁きとともに、きつく折り曲げられた下肢をバンデージの上からぞわりと撫で上げられて、細い体がビクンと跳ねた。
薄い胸をあらげ、身を強張らせている愛しい体に手を伸ばし、目隠し代わりの包帯を片方だけずらしてやると、泣き腫らした右眼が、おずおずとこちらを見上げる。

「な、お………」
「だいぶ反省したようだから、これで許してあげますよ。けれど、もう逃げないという約束だけは、ちゃんと守って下さいね?」
男は、掠れた声で己の名を呼ぶ唇を、いとおしげに指先で辿り、おもむろにその唇を割って、長い指を差し入れた。
「ンッ………、」
一瞬、躊躇う素振りを見せたものの、泣きすぎて紅くなった右眼の端から新たな涙を零しながら、高耶はすぐに観念したかのように、その指を唇に含んだ。
そのまま、男のモノにするのと同じように奉仕する。
以前の高耶なら、ありえないことだ。


「上手になりましたね………」
子供をあやすように囁いて、長い指を出し入れし、熱い口腔を淫らに犯してやりながら、男は、心の中で、幾度繰り返したか知れない、謝罪の言葉を呟いた。
(………かわいそうに。こんなことされて―――高耶さん………あなたは何も、悪くないのに)


唾液に光る指を引き抜くと、男はおもむろにベッドに乗り上げ、細い体に腕を回して上体を起こさせた。
その動きで、体内の淫具の角度が変わり、高耶はあられもない悲鳴を上げる。
「ヒ――…ッ!」
「―――ああ。イってしまいましたか」

ガーゼに戒められて、吐き出すことは叶わず、後ろだけで果ててしまった高耶の、形のいい耳朶を甘噛みしつつ、揶揄るように男は言った。
「………悪い子ですね。許可もなく、後ろだけで、そんなオモチャでイクなんて―――いやらしいひとだ」
「ひい、ひ………」

ドライオーガズムの余韻に、まだガクガクと身を震わせている高耶にかまわず、男は壁一面に張りめぐらされた大きな鏡に、その姿が見えるよう、膝に細い体を軽々と抱き上げて、包帯で折りたたまれた下肢を左右に開かせる。
「見てごらんなさい」
男は、啜り泣いている高耶の耳朶に、背後から囁いた。

「ヒッ………ク、」
薄く滑らかな胸を、一際、大きく喘がせながら、高耶はおずおずと右眼を開ける。
男の膝の上で首輪で繫がれ、腹につくほどペニスを撓らせ、蠢く淫具の柄をまるでしっぽのように生やして、包帯でぐるぐる巻きに縛られた、手足のない人形のような自分の姿―――
あまりにおぞましい己の姿から、高耶はたちまち逃れるように顔を背けた。


「駄目ですよ」
たちまち、甘い叱咤が飛ぶ。
「自分が、今、どんなにいやらしい姿をしているか、その眼でちゃんと見るんです。でないと、出させてあげませんよ?」
男は、無造作に、若い楔を掴んで諭すように言う。
………高耶さん、ココから、しろいの、出したいでしょう?

「や―――!」
再び、悲鳴を上げて、しなる背。
薄紅に染まった胸の突起の片方をつまむように刺激され、もう片手で、戒められてすっかり色の変わってしまっている若い楔をガーゼの上からゆるゆると扱かれて、高耶は切なく喘ぎ、嫌々と首を振るしかできない。

「―――高耶さん………出したい?」
容赦のない責めと、わかりきったその問に、右眼から、屈辱の涙を零しながらコクコクと頷く高耶。
男は、込み上げるいとおしさに、細い顎を掴んで後ろを向かせ、貪るように口づけながら、片手で起用に、若い楔に巻きつけたガーゼを解いてやった。

「ア―――…!」
かぼそい悲鳴とともに、射精はすぐにはじまった。
強引な口づけを振り切って、大きく喉を仰のかせながら、高耶は切ない悲鳴を上げ続ける。
あまりに長い時間、堰き止められていた為か、高耶の意思とは関係なく、しろいものはピンク色の先端の割れ目からトロトロととめどなく溢れて、男の手を濡らした。

「随分、出ますね。こんなに出して………気持ちいい?」
男はクスクスと笑いながら、手のひらを濡らす熱いものを楔全体にからめ、尚も根元から絞り出すように淫らに上下してやった。
「ヒッ、………ク、………あ………」
果てなく続く絶頂―――ビクン、ビクンと身を震わせ、一滴残らず、男の手のひらに吐き出させられて、ようやく長い吐精を終えると、高耶はぐったりと男の胸に身を預けてきた。

「高耶さん………」
「ク、………ア………」
いとしいひとが、己の腕の中で果てる姿をまのあたりにして、自身も限界だった男は、まだ小刻みに痙攣している細い腰を抱き上げ、飲み込ませていた淫具をおもむろに引き抜いた。
「………!」
その衝撃で、細い体がまたびくりと震える。
そうして、男はスラックスから引きずり出した己の肉塊に、たった今、その手で受け止めたばかりの蜜を潤滑剤がわりに塗りつけて、吐精の余韻と、それまでの淫具の刺激で、まだピクピクと震える蕾にあてがった。


そのまま、有無を言わせず、一気に貫く。
それまで飲み込まされていた玩具とは比べ物にならない、太くて熱い肉塊が、体を割って侵入しても、もはや高耶に抗う力は欠片も残されていない。

「ウアアアア―――!!」
引き裂かれる激痛に、大きく仰のいた喉奥から、凄惨な悲鳴が迸る。
激痛から、無意識に逃げを打とうとする細い腰を容赦なく揺すり、己の肉へと引き寄せて、男は尚も深々と、所有の証を突き入れた。

「ク、………ア………、」
四肢を戒められた不自由な体を、強い腕と熱い凶器に真下から貫かれる形で支えられ、激しく肩を喘がせて、失神寸前で耐えている高耶。
男は苦痛に耐える首筋にいたわるように口づけ、萎えた楔を宥めてやりながら、ゆるやかに抽送を開始した。

「アアッ………や、………ヒッ、」
男の責めは的確で、執拗で、そして容赦がない。
胸を弄られ、敏感な先端の割れ目をゆるゆるとなぞられ、細い腰を抜けるギリギリまで持ち上げられては、再び、根元まで沈められる。
完全に感覚の失せた四肢とは裏腹に、男に貫かれた箇所と、弄ばれている胸と楔だけが、熱を持ってジンジンと疼く。

「ヒッ、………ク、う、あ………」
「………高耶さん………泣かないで。大丈夫だから、目を開けて」
「………、」
「高耶さん………」
啜り泣きながら右眼を開けると、男の膝に抱かれ、あられもない姿で、男に犯されている惨めな己の姿が滲んだ視界に飛び込んでくる。
「そう………いい子ですね………ほら、俺のがあなたの中に入ってる。わかるでしょう?」

男は、片眼を覆っていたバンデージをすべて解いて、掴んだ細腰を軽々と持ち上げ、結合部がわざと見えるように仕向けた。
そのまま、腰を支える腕の力を抜くと、高耶自身の体重で、再びズブズブと沈んでいく。
許しを乞う高耶の悲鳴はすでに掠れて、息も絶え絶えになっている。

「やあ………、も、やめ……、」
引き裂かれる激痛と、痛みの中からじわじわと這い上がる異常な快楽に、嫌々と首を振り、泣き続ける高耶。
すでに吐き出すものもないのに、男の手のひらに包まれ、再び鎌首をあげる楔を優しく扱いてやりながら、男は囁いた。

「高耶さん………出しますよ………」
男は結合したままの細い体を前のめりに倒させ、獣のようにうつ伏せに這わせた。
そのまま、激しく腰を使って背後から突き上げる。
「ヒイッ、なおっ、ア―――!」
高耶は戒められた両肘と両膝だけで必死に己の体を支えながら、悲鳴を上げ、なす術なく貪られ続ける。
「高耶さん、高耶………!」
「―――!」






男の白濁を最奥に受け止めた直後、意識を飛ばしてから、どれほどの時間が経っただろうか。

次に目覚めた時、高耶は広いベッドの中央に横たえられていて、四肢を戒めていた、あのおぞましいバンデージは、すべて取り去られていた。
長い時間をかけてたっぷりと貪られた体も四肢も、もはや痺れきって、自分のものではないようだ。

「―――気がつきましたか?」
先ほどまでの激しい陵辱が嘘のように、いつものようにきっちりと黒いスーツを着込んだ男が、気遣うようにこちらを覗き込んでいる。
高耶は、傍らの男に、乾いた声で、「水がほしい」と、訴えた。

からからになっていた喉に、口移しで運ばれる冷たい水を飲み干して、「もう、いい」と答え―――再び眼を閉じると、ベッドを離れた男が、室内に何かを運び込む気配がしたが、それを確かめる気力もなく、弱った体は、すぐに新たな眠りに落ちかけた。

その頬に、そっと手を当てて男は言った。
「高耶さん………すみません。体がつらいかもしれませんが、少しの間だけ、起きていて下さいますか?」
「………?」
また、何かされるのではとないかと内心怯えながら、男の腕に抱き起こされるようにして、高耶が上体を起こすと、いつのまにか、ベッドの上に、リボンのかけられた大きな箱が載せられていて、百本以上はあろうかというほどの、鮮やかな真紅の薔薇の花束が視界に飛び込んできた。
と同時に、男の左手首に巻かれた腕時計の小さなアラームが鳴り響く。

「………十二時になりました。今日は特別な日です。わかりますか?」
そうは言われても、時計もカレンダーもない部屋に閉じ込められ、昼夜問わず貪られている今の高耶に、時間の感覚などあるはずもない。

怪訝な表情を見せる愛しいひとに、
「今日は7月23日―――あなたの誕生日ですよ」
日付を言われて、ようやく思い当たった表情を見せた高耶に、男が微笑んだ。

「高耶さん、十四歳のお誕生日おめでとう」
「………、」
予想すらしていなかった、まるで不意打ちのようなその言葉に、ベッドの上で、高耶は絶句した。
「………高耶さん?」
問いかけに、高耶は答えない。
「………ッ、」
物心ついた時から、アル中の父親と二人きりの生活だったから、これまで誕生日を祝ってくれる者などいなかった。
それが―――よりによって、自分を浚って閉じ込め、欲望のままに陵辱する男の口から、こんな言葉を聞くなんて。


自分でもよくわからない感情が込み上げ、再び顔を背ける高耶を、男は優しい眼で見ていたが、やがて半ば強引に自分の胸に抱き寄せた。
「やっ………」
また、襲われるとでも思ったのか、発作的に身を強張らせる高耶に、男が苦笑する。
「そんなに怖がらないで下さい。あれだけ抱いてあげた後ですからね。さすがに、今はしませんよ。―――いえ、あなたが、してほしいなら別ですが」

「―――ッ!」
笑を含んだその言葉に、たちまち、カッと顔を赤くして、きつく睨みつけてくる高耶に、いとおしげに男は囁く。
「高耶さん。これから、毎年、祝ってあげますよ」
「………」
再び、俯いてしまったいとしいひとを、男はそっと抱きしめた。


欲しいものは、なんでもあげる。
あなたが何より欲するだろう、自由以外は、なんでも。
「―――愛していますよ。高耶さん」

応えない高耶の中で、本人すら気づかぬうちに、少しづつ、何かが、変わろうとしている。




2010.7.23.shiina