「夢」〜A Nightmare on Matumoto Street


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突然、激しく降り出した大粒の雨に、高耶は咄嗟に持っていた鞄を傘代わりにして、通りがかりの店の軒先に駆け込んだ。
「……マジかよ」
さっきまで、あんなにいい天気だったのに……制服のブレザーについてしまった水滴を手で払いつつ、高耶はため息を漏らす。
空を覆い尽くす黒い雲。地面を叩く雨の勢いは増すばかりで、この雨では例え傘があったとしても、ズブ濡れになってしまうだろう。
仕方なく、高耶はその場所で雨が弱まるのを待つことにした。

それにしても、この通りにこんな店があっただろうか?
時々、通る道である。つい数日前にも通ったのに、まったく気がつかなかったとは……高耶は不思議に思いながら、自分が雨宿りしている店を振り向いた。
雰囲気としては、アンティークショップといった趣で、ショーウィンドーには雑貨や人形が数点、展示されている。店の名前は横文字で、しかも英語ではないらしく、高耶にはさっぱり読めなかった。

ショーウィンドー越しに覗く店内には、無数の人形が展示されているのが見える。どうやら、この店は人形の専門店のようだった。

ふと、天井から吊るされている鳥篭が目に付いた。ドーム型の銀色の鳥篭である。
その中にも、人形が入れられていた。
高耶は思わず眉を顰めた。鳥篭の中に裸の人形……はっきり云って悪趣味だと思う。

だが、その鳥篭の中に入れられている人形の顔を見た瞬間、高耶はあっと声をあげてしまった。
誰かに似ていると思ったからだ。
いや、それは紛れもなく似ていた。
高耶自身に。




高耶は思わず、その店のドアに手をかけていた。
ギイッと軋むような音とともに、木製の扉が開く。薄暗い店内には店員の姿もなく、
シンと静まり返っている。
高耶は鳥篭に近づいて、おそるおそる中の人形を間近で覗き込んだ。
黒い皮の首輪をつけられたその人形は、気味が悪いほど精巧につくられていて、まるで生きているかのようだ。そして、見れば見るほど、あまりにも自分に似ていて、人形が浮かべているその恍惚とした表情には、嫌悪すら覚えるほどだった。
「な……なんなんだよっ……」
思わず、背筋が冷たくなり、つぶやく声が掠れる。
この店は、よくない。ここから早く出なくては。そう本能が告げた時、ふと人の気配を感じて、高耶は咄嗟にそちらを振り向いた。

いつのまにか、黒いスーツ姿の長身の男が立って微笑みかけていた。この店のオーナーだろうか?
男は柔らかい声で、穏やかに話しかけてきた。
「……その人形を熱心に見て下さっていたようですが……気に入って頂けましたか?」
男の笑顔は、なぜか高耶をひどく不安にさせた。
「あっ……あの……」
ちょっと寄っただけですから、と云いわけのようにつぶやいて、高耶が慌てて店を出ようとドアの取っ手に手をかけた時、なぜか扉は固く閉じたままだった。
「え……?」
もう一度、力を入れて引こうとしても、扉はまったく開かない。
戸惑う高耶の背後で、楽しげな声が云った。



「そのドアは開きませんよ……仰木高耶」
突然、名前を呼ばれて、高耶は動揺を隠せない。
「な……っ、なん、で……オレの名前を……」
「知っていますよ。高耶さん……この日を待っていたんです……」
微笑みながら、ゆっくりと近づいてくる男に、底知れぬ恐怖を感じて、高耶は尚もドアを開けようとする。
一刻も早くこの店から逃げ出したい。だが、どんなに取っ手を引いても、扉はビクともしなかった。
「なっ……なんで開かねえんだよっ……」
半ばパニック状態でドアをドンドンと叩く高耶の背後で、男がクスクスと微笑みながら呟いた。
「無駄ですよ。開かないと云ったでしょう?」
「くっ、来るな……!」
一見、穏やかそうなこの男が、どうしてこんなに怖いのかわからない。
だが、その腕に捕まってしまったら、おそらく二度とは逃げられないことを、高耶は本能で悟っていた。



高耶は扉に背をぴったりとつけて、これ以上ないほど怯えている。
男は夢見るような笑を浮かべて、ゆっくりと手を伸ばしてくる。
逃げられない……囚われてしまう。あの鳥篭の中の人形と同じように。
「高耶さん……」
男の手が、肩に触れる寸前。高耶は絶叫した。
「うわあーっ!」









高耶は悲鳴をあげて、自分の肩にかけられた手を払っていた。
「仰木ッ」
名前を呼ばれて、ようやく、今見ていたのがいつもの夢だと知り、我に帰る。
一斉に自分に注がれるクラスメートの視線。
高耶が振り払ったのは、授業中の居眠りを注意しようと近づいた教師の手だった。
教師はいやみたっぷりに云った。
「随分、気持ちよさそうに寝てたなあ、仰木。起してやったのに、その態度はなんだ。そんなに俺の授業が退屈なら、表に出てろ」
生活指導担当でもあり、高耶を何かと目の敵にしている中年教師は、憎々しげに廊下を示す。
反論もできず、高耶は仕方なく席を立つと、廊下に出た。
廊下に出た途端、深いため息が口をついて出た。連日の寝不足で、体がだるく、頭がガンガンする。
(畜生……オレ、いったいどうしちまったんだよ)




はじめてこの夢を見たのは、数日ほど前だった。
最初はおかしな夢を見たと思ったものだが、次の日も次の日もその夢は続き、同じところで悲鳴を上げては目が覚めた。
夢を見るのが嫌で、昨日はとうとう一晩中寝ずに過ごした。

寝不足で、当然、学校に来ても授業など身に入らない。
どんなに気を張っていても、つい、うとうとしてしまう。自宅だろうと授業中だろうと、眠れば必ず同じ夢を見て、男に囚われる寸前で目が覚める……最悪だった。

だが、目が覚めている今は、まだいい。
もし、あのまま目が覚めなかったら……?
バカげている。たかが夢だと笑い飛ばしたいのは、誰よりも高耶自身だったが、それでも高耶は恐ろしくてたまらなかった。
背筋に冷たいものを感じて、高耶は自分で自分の体を抱きしめた。
もし、あのまま目が覚めなかったら……あの後、自分はどうなってしまうのだろう。




その日の帰り道、高耶は薬局で眠気覚ましをうたった錠剤をどっさりと買い込んだ。それらをストレートで煎れたコーヒーで流し込む。いつまでも眠らずにいられるはずがなかったが、それでも、そうでもしないといられなかった。

だが、どんなに眠らないようにしようとしても、慢性の寝不足から、ひっきりなしに襲ってくる猛烈な眠気。目覚ましを数分おきにセットしては、必死で眠気と戦う。
ヘッドフォンをつけ、大音量で音楽を聴き、それでも我慢できなくなると風呂場に走って頭から水を被る……起きているのに効果がありそうなことはなんでもやった。
だが、いったいいつまでこの状態が続くのだろう。





翌日の放課後、高耶は職員室に呼ばれた。
この日も授業中、何度もうたたねをしかけてはその都度、教科担任に注意された為、心配した担任が呼び出したのだ。
「どうした、仰木。お前この頃、変だぞ。授業もずっと上の空で……何かあったのか?」
だが、夢を見るのが怖いから眠れないなどとはとても云えず、高耶は「なんでもありません」と繰り返すしかなかった。
俯く高耶を見上げて、教師は眉を顰める。
「なんでもない顔じゃないな。真っ青じゃないか」
確かにその通りだった。極度の睡眠不足の為、高耶の顔色は青白く、瞳も何処か虚ろで精細を欠いている。
「お前、体調悪いんじゃないのか?少し、保健室で休んでから帰ったらどうだ?」
その言葉に、高耶は必死で首を振った。
保健室に連れて行かれて、横になれ、などといわれたらたまったものではない。
「大丈夫です。本当になんでもありませんから」
どうにかその場をやりすごし、ようやく職員室を後にした高耶は、深いため息をついた。






眠れなくなってついに一週間。
限界を超えた睡眠不足とストレスで、この日の授業中、高耶はついに倒れてしまった。
驚いたクラスメートや担当教諭が駆け寄り、保健室に運ばれる僅かな間にも、高耶はあの夢を見ていた。
意識のない高耶をとりあえずベッドに寝かせ、医者に連れていくかどうか、保険医と担当教諭が相談している時、ふいに凄まじい悲鳴を上げて高耶が飛び起きた。
「うわあああーっ!」
「仰木っ!どうした!」
驚いて駆け寄った保険医と教師が心配そうに除き込んだが、そこでようやく高耶は我に帰った。
「あっ、あのオレ……すいません……もう大丈夫ですから……」
だが、高耶の顔色は真っ青で、今の怯え方も尋常ではない。保険医の判断で、高耶はすぐに病院で診察を受けることになった。





付き添いの保険医の話や、本人の様子を診るや否や、医師は高耶が重度の睡眠障害であることを見抜いた。
顔色の悪い高耶に、少し横になるように促すと、高耶は強行に嫌がった。
「眠りたくないんです」
そう云ってしまってから、しまったと云うような表情を見せた高耶に、医師は優しく問いかける。
「どうして眠りたくないのかな?」
「……」
「保険の先生の話では、君が保健室で目を覚ました時、悲鳴を上げて、とても怯えていたそうだけど……何か悪い夢でも?」
夢、と云う言葉に、高耶が一瞬、ビクンと反応したのを医師は見逃さなかった。
医師は力づけるように、
「よかったら、その夢のことを話してくれないかな?」
だが、高耶は首を振る。
「話しても、信じてもらえません……自分でも信じられないんですから……でも、これだけはわかるんです……眠ったら終わりだって」



高耶の態度はかたくなだった。どんなに問いかけても、夢の内容については口を開こうとしなかった。肉体的にも精神的にも衰弱がひどく、限界と云った様子なのに、眠るのだけはどうしても絶対に嫌だと云う。
医師はとにかく、今は少しでも睡眠をとらせることが重要と判断して、栄養剤と偽って一本の注射を打った。

効果はすぐに現れた。突然、襲ってきた猛烈な眠気。
「なっ……何……」
怯える高耶に、医師は、心配いらないと云うように微笑んで、
「心配はいりませんよ。君は疲れているんです。眠れるようなお薬を打っただけですから……大丈夫。ゆっくり眠って、目が覚めた時には元気になっていますよ」
「やだ……や……!」
それを聞いた高耶はパニックに陥った。
その怯え方は尋常ではない。強引に椅子から立ちあがろうとして、その場に倒れ込む体を、慌てて医師が支えるが、高耶はその手を振り払おうとする。
背後に控えていた看護士数人が、もがく体を押さえつけ、診察用のベッドに寝かしつけようとすると、高耶は絶望の悲鳴を上げた。
「いやだ……たすけ……眠りたくない……!」
だが、薬がもたらす強制的な眠りには抗えず、高耶の体から力が抜けていく。
「つかまる……にげられな……」
「大丈夫ですよ、何も考えないで眠って下さい。そうすればすぐに元気になりますからね……」
医師の言葉が遠ざかり、目の前がスーッと暗くなっていく。
もう、逃げられない……閉じられた目尻から、一筋、涙が零れおちた。

高耶が完全に眠りに就いたのを確認すると、医師はやれやれと云うように、ベッドを覆うカーテンを引いて、灯を落とし、次の患者の診察に向かった。








突然、降り出した雨。
高耶は持っていた鞄を傘がわりにして、最寄の店の軒先に駆け込んだ。見る間に空は黒く曇り、激しく鳴り響く雷鳴。叩きつけるような大粒の雨。
「マジかよ……」
さっきまで、あんなにいい天気だったのに。
仕方なく、駆け込んだ店の軒先で雨宿りをしながら、高耶はこの通りにこんな店があったかな、と首を捻った。
いったいいつのまに……そう思いながら、ショーウィンドーを覗くと、人形や雑貨がいくつか展示されている。どうやらアンティークショップのようだった。
ふと、ショーウィンドーのガラス越しに、店内に展示されている鳥篭が目に止まった。
「……!」
篭の中に入れられている人形の顔を見た途端、高耶は思わずあっと声を上げてしまった。
驚いて、店のドアに手をかける。

ギイッと軋むような音とともに、扉が開くと、中は薄暗く、シンと静まりかえっている。
高耶はゆっくりと鳥篭に近づいて、間近で中を覗き込んだ。
「……ッ、」
黒い首輪をつけられて、膝を抱え、恍惚とした笑を浮かべたその人形の顔は、ゾッとするほど自分にそっくりだった。



「……その人形、気に入って頂けましたか?」
ふいに話しかけられて、高耶は咄嗟に声のする方を振り向いた。
黒いスーツ姿の長身の男だ。
「私は人形師です。……何度も何度も作りなおして、やっと満足のいくものが作れた……それが、この人形なんです。とってもよくできているでしょう?」
男はうっとりと微笑んで、鳥篭の中の人形に目をやった。
「あっ……あの……」
高耶は急に恐ろしくなって、この場から立ち去りたい衝動にかられ、ちょっと覗いただけですから、と呟いて、咄嗟にドアに向かおうと振りかえった。
「……!」
その目が驚愕に見開かれた。
自分が開けて入ってきたはずのドアも、ショーウィンドーも、何もかもが消えていた。
あるのは、黒い壁だけ。
「な、に……ッ、」
そんなバカな。夢でも見ているのだろうか。

夢……!

「あっ……!」
この時、はじめて高耶はこれが繰り返し見ていた夢の中であることを悟った。
いつもなら、囚われる寸前で目が醒めたが、今、現実の自分は麻酔を打たれて病院のベッドで眠っている……薬による強制的な眠りでは、目覚めるのは不可能だ。
もはや絶体絶命だった。

男がうっとりと微笑む。
「この日を待っていたんです……」
あなたが、俺のものになるこの日を。

「高耶さん……怖がらないで……」
名前を呼んで、近づいてくる男から、高耶は後退りして逃れようとする。
「やだ……オレに、触るな……ッ!」
この腕に捕まってしまったら、逃げられない。
「高耶さん……」
男の手が、竦みあがった体についに触れた。
「うわあああー!」






突然、患者の異常を知らせるアラームが鳴り響いた。
睡眠障害で治療に来ていた仰木高耶のベッドからだった。

駆けつけた医師は絶句した。
カーテンを開けるとベッドはもぬけの空で、眠っていたはずの患者の姿が消えていた。
彼に与えたのは強力な睡眠薬で、最低でもあと4,5時間は目が覚めないはずだ。
眠っている彼を誰かが連れ出したとしても、アラームが鳴ってから駆けつけるまではほんの数十秒である。第一、高耶が寝かされていた診察室には看護士の出入りも多く、誰にも気づかれずに連れ出すのは不可能だ。
眠りたくないと必死に叫んでいた先ほどの彼の姿が蘇ってきて、医師はもしかしたら、何か取り返しのつかない間違いをおかしてしまったのではないかと思った。






男の指が高耶の肩に触れた瞬間、高耶の体から力が抜けた。まるで高耶自身が生きた人形になってしまったかのように。
自分から胸に飛び込むように倒れ込んでくる体を、男はしっかりと支えて、今、はじめて触れることのできた愛しい体を、確かめるように抱きしめた。
「高耶さん……」
男の口から吐息が零れた。

ああ……やっと。あなたに触れられた。
本物のあなたに。


手を伸ばして、あと少しで触れられると思う時、あなたはいつもかき消すように消えてしまった。あなたに焦がれ、あなたに似せた人形を、何体つくっただろうか。

でも、やっと手に入れた。
もう……どこにも行かせない。
この腕の中に閉じ込めて、大切に可愛がってあげる。





「……かやさん……高耶さん……」
誰かが耳元でしきりと呼びかけている。頼むからもう少し寝かせてくれ……ずっと眠くてたまらなかったんだ……朦朧とした高耶が、再び夢の中に落ちようとするのを、男は許さなかった。
「高耶さん……起きてくれないなら……このまま抱いてしまいますよ……」
楽しげな声が囁く。
「高耶さん……いい子だから……起きて……」
何度も名前を呼ばれて、ようやく深い眠りから目覚めた時、真っ先に視界に飛び込んできたのは、あの男の笑顔だった。
「……ッ!」
「ああ。よかった……やっと目が覚めたんですね。あんまり気持ちよさそうに眠っていたので、起すのは可愛そうだと思ったのですが……なかなか起きてくれないので……」
男は悪戯そうに囁いて、当然だとばかりに唇を寄せてきた。
声にならない悲鳴を上げて、覆い被さってくる男から逃れようとした時、ようやく高耶は自分が今、全裸で見知らぬベッドに寝かされていて、両腕が枷のようなもので繋がれていることに気がついた。
両脚も、棒付の枷で大きく開いた状態で閉じられないように固定されている。
もがいても、手脚の枷はガチャガチャと虚しい音を立てるだけで、ビクともしない。

男は宥めるように、
「暴れないで……手脚を怪我してしまいますよ……それに、その枷はそんなことをしたって外れませんよ。あなたはもう、逃げられないんです……あのお人形のように」

男が示した先には、銀色の鳥篭が吊るされていて、その中で、高耶そっくりのあの人形が、恍惚とした表情を浮かべていた。



男の口付けが降っててくる。
高耶はぎゅっと目を瞑り、何度も何度も自分に云い聞かせた。
これは夢だ。それもとびきり悪い。早く起きろ!起きるんだ……!
だが、覆い被さってくる男の体の熱さも、唇に触れる生暖かな感触も、全身を這いまわる男の手も、何もかもがリアルで、とてもこれが夢とは思えなかった。
「高耶さん……」
熱い囁きとともに、前触れなく敏感な箇所に触れられて、しっかりと握り込まれて、高耶は一瞬息を止めた。
「やっ、そこ…ッ、触るなっ……アッ……」
男は、身悶える高耶をうっとりと見下ろしながら、尚も高耶の萎えたままのソレを握り、淫らに扱きはじめる。
「やっ……痛い……つかむなっ、」
恐怖のあまり竦みあがっていたペニスは、何度も名前を囁かれてゆるゆると扱かれているうちに、高耶の意志と反して、少しづつ男の手の中で大きくなっていった。
「高耶さん……ほら、あなたのぼうやが大きくなってきましたよ……」
こうされると気持ちいい?
淫らな囁きに、高耶は嫌々をするように首を振る。
「やっ……ンン……クッ……」
男の手管は容赦がなかった。はじめて他人の手で触れられて無理矢理高められ、弄ばれる屈辱に、ボロボロと零れる涙。
それでも、与えられる刺激に耐えきれず、いつしか先端には透明な蜜が滲みはじめてとろとろと幹を伝い、もはや射精への欲求は止められなかった。
「やっ……ンン……あ……」
「高耶さん……」
男はいとおしくてたまらないと云うように、パンパンに撓りかえって今にも弾けそうなソレの鈴口に舌を這わせた。
「ひいっ!」
感じすぎた高耶が声にならない悲鳴を上げて全身を強張らせるのも構わず、男は躊躇うことなく愛しいひとの昂ぶりを口に含んだ。
「やっ……ン……アアッ……」
熱い口腔に含まれ、きつく吸われるように上下されて、ビクビクと震える細い体。
「やっ……駄目……も、離し………」
弱々しく身を捩るが、それで許されるはずもなく、むしろ強く吸われて急激に高めら
れ、一気に昇りつめる体。絶望に見開かれる瞳。
次の瞬間、あー、と云うか細い悲鳴とともに、男の唇の中で高耶が果てた。
「アアッ……あ……」
しろいものを吐き出す度に、ビクビクと痙攣する内腿。
堰を切ったように注ぎ込まれてくる愛しいひとの蜜を、貪るように男は飲み干す。ようやく触れることのできた高耶の蜜は、男が夢見た以上に甘美だった。
一滴も零すことなく飲み切って、ようやく男が顔を上げた。
「高耶さん……あなたの蜜は、あまい……」
男の口の中に出してしまったショックで、茫然としている高耶に、男がうっとりと口づける。背けようとする顎を押さえ込み、強引に舌を差し込んで絡める。
自分の味を関節的に味わわされて、高耶は羞恥と嫌悪でまたボロボロと涙を零した。



「さあ、今度は俺のを飲んでくださいね……」
うっとりとした囁きとともに、両脚の枷が外されたかと思うと、有無をいわせずベッドにうつ伏せにされ、腰だけを突き出す獣の姿勢を取らされてしまう。
大きく開かされた双丘の狭間に男の熱い視線を感じて、羞恥のあまり脚を閉じようとしても、両足首につけられた棒付の枷がそれを許さない。
男はあらかじめ用意していた潤滑用のローションのボトルを取り出すと、キャップを外して高耶の尻の上で傾けた。ぬるりとした液体が股間を伝うのを感じて、その異様な感覚に高耶は悲鳴を上げる。
「やっ……何……」
「我慢して……こうしないと、つらいのはあなたですよ……」
男は宥めるように云って、その背に口づけながら、ローションで濡れる秘所に徐に指を潜り込ませていく。
「やっ……痛いっ……抜い……アアッ……」
固い蕾を強引に割って根元まで沈んだ指が、強張った襞を馴らすようにゆるゆると出入りする度、高耶は泣き声を上げて身を捩った。
やがて、体内をまさぐっていた指が出ていき、一瞬、安堵の息をつく間もなく、すぐに熱くて大きいきっ先が押し当てられた。細い腰が逃れられないようにしっかりと掴まれる。
「高耶さん……つらいかもしれませんが、今だけですから……我慢してください」
そうして、次の瞬間、指とは比べ物のならない男の凶器が、強い力で自分の中に押し入ってきて、引き裂かれる激痛に高耶は絶叫した。
「アアアアアーッ!」

高耶の中は驚くほど熱くて、狭かった。あまりの狭さに、男自身も苦痛を感じるほどだったが、男は自ら腰を揺すって、尚も強引に体を進めて根元まで繋がった。
「アア……クッ……」
苦痛のあまり、一瞬意識を飛ばしかけた高耶が、その動きで現実に引き戻される。
「アアッ……痛い……やめ……」
「高耶さん……!」
ようやく手に入れた愛しいひと。愛している……愛している。
激情のまま、激しく腰を使い始めた男の体の下で、強引な侵入で傷ついた箇所を深深と貫かれる度、高耶は悲鳴を上げ続けた。

逃れることもできずにガクガクと貪られ、啜り泣きながら、高耶は思った。
(誰か、早くオレを起してくれ……これは夢だ……悪い夢なんだ……)
すでに、これが夢なのか現実なのか高耶にはわからなかったが、例えこれが夢であろうと、全身を貫く破瓜の苦痛が、今、こうして男に抱かれているのがまぎれもなく現実であることを高耶に教えていた。
「高耶さん……高耶さん……!」
「痛い……たすけ……」
もはや抗う力もなく、頬をぺったりとベッドにつけ、泣きながら苦痛を訴える高耶がいとおしくて。
「高耶さん……すぐに痛くなくしてあげるから……」
男がそう囁いて、前に回した腕で、破瓜の激痛で小さくなっているペニスをやんわりと掴み、後ろを犯すリズムに合わせて扱いてやると、高耶はひいっと小さな悲鳴を上げた。
「や……あ……ン……」
前も後ろも、男の指と凶器で為す術なく貪られて、ひっきりなしに零れる喘ぎにいつしか苦痛以外の色が滲むのを感じて、男が微笑んだ。
「高耶さん……よくなってきましたね……ぼうやが大きくなって、こんなにピクピクしてる……」
「やっ……ちが……ア……」
「恥かしがらないで……もっと、ヨクしてあげるから……」
「アア……ア!」
後ろを深く犯されながら、巧みな指の刺激で強引に高められ、男を受け入れたまま、無理矢理迎えさせられた絶頂。
「アア……ひ……」
高耶がしろいものを吐き出す度、きゅうきゅうと締まる襞。
「クッ……」
きつく締めつけてくる襞に、男が吐息のような声を漏らす。
「高耶さん……そろそろ出しますよ……飲んで」
男の囁きともに、たった今、果てたばかりでぐったりとしていた高耶は、一際深く抉るように突き入れられて、ひいっとあられもない悲鳴をあげた。
男が数回、叩きつけるように腰を使ったその直後、高耶は男の凶器が自分の中で弾けて、熱いものが体内にドクドクと注ぎ込まれるのを確かに感じた。



思いの丈を一滴残らず愛しい体に吐き出して、名残惜しげに男が出ていく時、高耶の唇から声にならない声が洩れた。
まだ、ピクピクと震えるしどけなく開いたままの蕾から、己が放った白濁と高耶が流した破瓜の鮮血が混ざり合って、ツーと糸を引いて滴る様を、男は夢でも見るかのように見つめた。
「高耶さん……」
高耶は半ば意識をなくしかけているようだった。
男は両脚を戒めていた枷を外してやると、ぐったりした体を抱き起こして、仰向けにし、涙の滲む虚ろな目が、ぼんやりと男を見上げる。
男はその目許に、やわらかな唇に、何度も何度も口づけた。
「高耶さん……愛していますよ……」

もう、二度と離さない……何処にも行かせない。
ずっと、この腕の中で大切に大切に愛してあげる。

呪文のように繰り返される囁きを遠くで聞きながら、意識を失う寸前、鳥篭の中にいる人形が幸せそうに微笑むのを、高耶は確かに見た。








どうして直江のことを、最初はあんなに怖いと思ったのだろう。
銀色のドーム型の鳥篭型の檻の中。
中央に置かれたベッドの上で、膝を抱えながら、高耶は薄く微笑んだ。



シン…と静まりかえった漆黒の室内に、聞きなれた足音が響く。
「高耶さん……」
暗闇の中から現れる、自分を呼ぶ、優しい声。
檻の扉が開けられて、中に入ってきた男の首に高耶が自ら腕を回すと、首輪につけられた鎖が、カチャッと音を立てた。

ここにいるのは自分と、直江だけ。
老いることもなく、あるのはただ、欲望のまま、互いを貪りあう永遠。
覆い被さってくる男の重みを確かに感じながら、高耶は思った。
夢なら、ずっと覚めなければいい、と。



Happy Birthday Naoe.2003.5.3.by shiina




そんなわけでコレのどこが、バースデーなんでしょう(/_;)バースデーのバの字もありゃしません(T_T) ああ……今年もマトモな誕生日小説が書けませんでしたιι
人並みのファンサイト様のように、お誕生日らしくしたかったのに〜(>_<)

元ネタというか、これを書くきっかけは、ぢつは「エ×ム街の×夢」だったりします(爆)…ってか、なんで今頃エル×街…(笑;いえその、ホラー好きの私としましては、ジェイ×ンがうちゅー(笑)で復活したんだから、ぜひともフ×ディにも復活してほしいなあと(コラ;

本当は、フ×ディ直江(笑)が毎晩、高耶さんの夢に現れては気持ちよくしてあげるギャグのつもりだったんですけど…(笑;書き始めたらなんだかシリアスになっちゃいました;
あんまり……ってか、ぜんぜん意味わからないと思いますけど(笑;こんなんでも少しでも楽しんで頂けたら幸いです(>_<) 
誰がなんと云ってもハッピーエンドですから!

読んで下さってありがとうございました(>_<)v